第39話 「交渉」と書いて「たたかい」と読む
オレは武器を使わない、交渉という戦いを、ナナイに挑んだ。
その提案に、ナナイはのってきた。
「早速教えてくれよ。ヒヒイロカネが存在することが分かったんだ。こっちはなりふり構わず、森を侵略する。そうするメリットができた。でもそれは、お前にとってデメリットでしかない。この盤面を、どう切り崩す?」
「別に、難しいことじゃない。暴力なんて古いんだよ。もっと、もっと強力な武器があることに、誰も気がついちゃいない」
「面白いことを言う。聞かせてもらおう、その武器とやらを」
「──
その言葉に、ナナイは少し驚いたようだった。
「まるで商人みたいなことを言うのだな」
「別にそうでもない。実に合理的な話だよ。ナナイ達の装備、それはどうやって集めた?」
「国が、武器屋や商人から買い上げている」
「そうだ。武器屋や商人から、暴力で奪うことはしない。なぜそうしないのか。非効率だからだろ。暴力で奪えば、その瞬間は欲しいものが手にはいる。でも、それ以降はどうか。やられる方だって、色々考え始めるよな。結果として両者がマイナスになる行動をとるようになる。そうやって考えると、暴力ってのは長い目で見れば非効率だ」
ナナイの様子を見る。
机に肘を立てて、両手を組んで口許を隠しているままだった。
オレは話を続けた。
「その点、金は便利だ。金という対価を支払えば、誰も損はしない。金は価値の視覚化だ。目に見えるものは分かりやすい。だから、金で解決しようぜ、って話し」
「──具体的には?」
「そっちの国。それが欲しいものを格安で出すよ」
「──2つ、疑問点がある。最初の疑問だ。こちらが森を制圧すれば、すべて解決する話だ。武力は長期的には非効率かもしれない。でも、先の事なんてどうでも良い。人間とはそういうものだ。このままではまだ、金を出すより武力を出す」
「まぁ、そうだよな。でも考えてくれよ。指示を出すのは上かもしれんが、戦うのは人間だ。親がいる。恋人がいるかもしれない。子供がいるかもしれない。そんなヤツが命を散らすことになる。命は金では買えないっていうけどさ、あれは嘘だ。戦争じゃなく、交易をすれば、結果的に命を金で買ったことになる。考えてくれよ。ナナイはオレたちの強さを知っている。本気で戦ったとして、何人の部下が死ぬのか、なんてナナイなら想像つくだろう。 その部下の命が、金で買えるってなったら、ナナイは買うだろ」
その問いに、ナナイは鼻をならした。
「もしそうなったとしても、私の部隊はお前達と戦うがな。──まぁ、そんな想像での話なんて、今はいい。次だ、安く売ったとして、そちらが枯渇すれば、双方に意味がないだろう。なにか策はあるのか?」
「もちろんあるさ。オレは植物の成長を早めることができる。ナナイは直接見たから分かるだろう。アレ、あんまりやり過ぎると土地が痩せるんだけど、肥料さえもらえれば問題ないんだ」
「それは、植物の話だろう? 木材や、食料としての話はわかるが、こちらが一番に欲しいのはヒヒイロカネだ。その話は通らない」
まぁ、そうだよな。
オレだってそう思うもん。
でも。本題はここからだ。
「ヒヒイロカネなんだけどさ。──植物だって言ったら、驚く?」
ナナイの口が「は?」の字に開く。
驚いたような表情をして、それから改めて「は?」を言った。
「ヒヒイロカネは植物だよ。ざっくりな話になるけど、ある植物の種子が、長い時間をかけて硬化したものだ。オレもこの植物を成長させる能力を身に付けて、初めて分かったことなんだけどさ」
「証拠は? 」
オレは鞄から、赤みを帯びた光沢のある塊を取り出す。
それを、ナナイの前に置いた。
「未加工のヒヒイロカネだ。あとはもう、信じてくれというより他ない」
ナナイはヒヒイロカネを手に取った。それから2度、上下に振った。きっと見た目で体積と重さから、密度を感じているのだろう。
「つまりは。お前達はこのヒヒイロカネを定期的に供給してくれる、ということで、間違いないか」
「ああ、間違いない」
それを聞いて、ナナイは笑った。
「にわかには信じられない話だな。でももし本当なら、歴史の転換点になる」
そういって、また笑った。
オレは様子を見て、話をまとめにはいった。
「それじゃあ、話を整理する。オレが出せるのは、ヒヒイロカネを中心とした、森の資源だ。そっちはそれを金で買う。そちらのデメリットは時間がかかること、メリットは安定供給を受けられること。双方の最大のメリットは、無駄な争いが起こらないこと。これが、オレの
ナナイは、ずっとこちらを見ている。こちらの心の揺らぎを見逃さないように、鋭い視線を向けている。やがて、静かに言った。
「真贋も含めて検討させてもらう。それでいいか?」
「ああ。十分だ」
オレは、2つ目の賭けに勝った。
でも、まだだ。
まだ勝ちじゃない。
「──その結果が出るまで、お前を客人としてもてなしたい。受けてくれるか?」
まぁ、客人っていってるけど、要は身柄確保よな。
「別にいいぜ。でも、可能ならひとつお願いがある」
「なんだ?」
「ミラと同じ待遇を」
ナナイの温度が、スッと下がった。
「それが、どういう意味か分かっていっているか?」
「もちろん。──そっちの方が、ナナイにとっても良いだろう」
ナナイは呆れたような顔をして、それからため息のように言った。
「お前は、──本当にわからんヤツだな」
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