第34話 夜襲

 深夜、草木も眠るそんな時間。

 オレ達は夜間の奇襲を決行することにした。

 そしてその状況になって思ったことがあった。

 人間ってアホなのかな?


 夜中にも関わらず、火で明かりをとっている。これじゃあ、ココにいますよっ! 奇襲をするならココですよっ! と言っているようなものだ。もちろんその奇襲を警戒して、歩哨ほしょうをたたせているのだろうけど。その歩哨ほしょうだって、気が抜けている。自分達がいる場所が、相手のフィールドだということが、あんまり分かってないようだ。


 つまりは、チャンスだ。


 最初の一撃で決める。そのためには、雑兵はできるだけ避けて、指揮官クラスを撃ち取るのが一番だ。そんなこと、普通は難しいのだが。なんと指揮官クラスの簡易テントは、夜営地のちょうど真ん中にあって、他のテントとは違って大きかった。


 ──なんだろう。

 人間ってみんな、アホの子なの?


 歴史のなかで、策士と呼ばれる人物がいる。

 常人には思いつかないような奇策で、10倍20倍の兵力差をひっくり返すような戦いもあった。それは素直にすごいと思うし、自分にはできないと思う。

 でもきっと。策士も味方のこんな状況を、目の当たりにしたのだろう。

 このままじゃ簡単にやられる。じゃあこの状況を逆手にとって自軍を有利にしよう。

 そう考えて、空城の計とか発明されたんじゃなかろうか。

 まぁいいや。速やかに排除しよう。


 まず最初に、ダイフクに走ってもらって、2人組で立っていた歩哨ほしょうの気を引く。その間に、オレとトモミさんの2人で、後ろに回り込んで無力化。歩哨ほしょうの服を拝借して、夜営地中央の指揮官のところへ行き無力化。あとは、全員で明かりを倒して、簡易テントを壊して、ワーキャー騒いで回る。それだけで人間達は混乱して散り散りになって逃げていった。

 とっても簡単なお仕事でした。

 逃げたところで、待っているのは森でのナイトサバイバルだ。スリル満点の一夜を過ごしてもらおう。


 同じ手法でもう1つの夜営地も潰した。

 残るは1つ。

 もっとも森の端に位置する場所。ここを落とせば、オレたちの巣穴を奪還できる。と共に、森から人間達を追い出すことができる。

 あと1つだ。



§



「あー。こりゃ大変だね」


 オレは目標の夜営地を見ながら呟いた。

 最後の夜営地はいままでの2つとは警戒レベルが別格だった。

 まずは陣取り、周囲の木は斬り倒され、切り株が抜かれ、整地されている。だいぶ前に占領された場所だからかなり綺麗にされていた。歩哨ほしょうの数も出入り口に8人。その他に夜営陣を取り囲むように2人組で等間隔に配置されている。


「人員配置、合格」


 歩哨ほしょうの質も良い。普通なら戦地から離れた場所で、夜間に士気を保つのは難しい。長い時間、ほとんど来ないであろう敵襲に備えて、緊張感を保つことは、まぁ普通無理だ。見張りをしながら、気休めに、雑談や談笑が混ざる。そうしてだんだんと注力が散漫になってくる。それが普通だった。

 でもここでは、そういった様子はない。

 一人ひとりが緊張感をもって立っていた。


「よく、訓練されてるなぁ」


 そんなボヤきを入れながら、作戦を考えた。


 内部侵入 & 指揮官の無力化 → ちょっと難しそう。保留。

 全力正面突破 → こっちの被害が多そうだからダメ。

 地形や天候を利用した奇策 → ないです。

 敵をおびき寄せて撃退。通称、釣り野伏 → たぶん釣れない。

 まさに火力、火攻め → 制御不能は洒落にならない。

 

 ──うん。ダメだわ。


 リスクを取らないとと攻め落とせない。

 じゃあ、あとはどんなリスクを取るかだ。

 そうと決まれば、話が早い。

 オレが中に入って指揮官の無力化を目指す。

 たぶん無理だからそのまま内部撹乱に切り替える。指揮系統が乱れたところでの、みんなで全力突撃をする。これなら、オレの頑張り次第でリスクを減らせる。それに、これだけ高い質の防御を敷ける指揮官の顔を拝めるかもしれない。なんならその場で食べ物を食べさせて、スカウトしても良い。我ながら良い案だ。

 よしっ。コレで行こう。



§



「大変だ!」


 そういいながらオレは、歩哨ほしょうのところへ走っていった。敵兵の服装を拝借して、兜をつけている。口許は布で隠した。これでどう見ても立派な一般兵だ。


「 前線が攻撃されている! こちらの指揮官はやられた! 至急、こちらの指揮官に指示を仰ぎたい!」


 至急や緊急は魔法の言葉だ。差し迫った状況は判断を誤らせる。そして、常識的な判断であれば。


「分かった、案内しよう」


 そちらに流される。

 ちょろい。楽勝だぜ。

 オレの両脇に1人ずつ。2人が案内をしてくれる。


 ──おいおい、VIP対応かぁ。

 どんだけ丁寧に案内してくれるんだよ。ホントよく訓練されているな。

 

 2人は中央の大きな簡易テントに案内してくれた。幕をあげて中にはいる。

 そこには誰もいなかった。

 疑問に思うと、片方が説明してくれた。

 

「隊長は今お休みになられている。すぐに呼んでくるので、それまでここでお待ちいただきたい」

「──承知した」


 オレは促された席に座った。

 ひとりは急いでテントを出ていき、もうひとりがオレのとなりに座った。


「情報を届けてくれて助かった。よかったら詳しく聞かせてくれないだろうか」

「分かった。その前にひとつだけ良いか?」


 オレは相手の返事を待たずに、続けた。


「いつのタイミングで、バレてた?」

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