第33話 嬉しい誤算

 オレたちは。人間との戦うことを決意した。

 でも、現状は戦力不足だった。そこで、その戦力不足を補うための子作りを提案した。


 その案が、良い案かと言われれば、間違いなく「ノー」だろう。戦争とはいえ、色々なものに、目をつむり、大きな負担をかけている。その結果、諸手をあげて賛成、とはならなかった。


 ──まぁ、そうだよね。

 もし立場が逆だったら、オレは提案者に小一時間説教するもん。


 それでも策のひとつとして、考慮する価値があったから言った。

 それは、みんな分かってはいるようだった。

 その案は持ち帰り案件となり、会議はひとまずお開きとなった。


 さて、明日から、一日いちにちが大変だぞっ。

 そう思いながらオレは、眠った。


 次の日、早速とんでもないことが起こった。



§



「なんじゃこりゃー!」


 思わず、叫んでしまった。

 それも仕方のないこと。昨日は細い手足をしていたゴブリンたちが、筋肉隆々マッチョマンになっていた。ゴブリンたちだけではなかった。狼もどきたちも、ふたまわりほどでかくなっていた。もはや狼と言うより、魔獣と言った方が良いくらいだ。


 ──それにしてもお前たち、いったいどうした? 急な成長期か?


 そう思ってから、心当たりに気がついた。

 昨日の宴会だ。

 オレが全力で作って食わせていた。以前にも感じていたが、オレが森のぬしになって、魔力や力が飛躍的に上がっていた。オレの能力の方も、相当にレベルが上がっていたみたいだ。


 ──すっかり忘れていた。

 オレの能力は、食べさせれば勝ちだった。


 嬉しい誤算に、口の端をつり上げる。

 だとすれば、勝つための方針は明確だ。

 飯を食わせる。

 味方だけじゃない。敵にも飯を食わせればいい。捕まえて飯を食わせれば、きっとこちらに寝返ってくれる。まるで将棋だ。取った駒は例え元は相手の駒でも、こちらのものとして使える。相手の戦力が減り、こちらの戦力が増える。ひとつの行動で2倍の差が埋まっていく。それは、なかなかに楽しそうだ。


 さて。では、始めよう。

 オレたちの反撃ファイトバックだ!



§



 人間達への反撃のため、オレはが最初にすることは、畑作りだ。

 その上でオレは、──1つの決断をした。

 木を切り、土地を切り拓くことだ。

 今までは森の地形をそのまま使っていた。できるだけ森に手を加えず、自然の形のままで使いたかったからだ。でも、それを辞める決断をした。

 森のぬしになって分かったことがある。森の生命力は強い。多少のダメージなら、時間をかけて修復できる。だから、それを信頼することにした。

 それでも、できるだけ、森へのダメージが少ないところに畑を作った。魔法や、お手製の巨大打製石を使って、筋骨肉隆々のゴブリンたちと一緒に木を切り、畑を拓いた。


 同時に切った木で小屋を作り、快適な生活空間を作った。戦争において帰れる場所、守るべき場所は必須だ。それがあれば、目的を持って戦える。

 それに加え、子作り案も条件付きで通ったのが大きかった。

 負担の大きい女性陣にルールを作ってもらうことで、了承を得られた。

 子作りは褒章として、機能した。

 もちろん両者の合意が必要だったが、それがよかった。

 男女問わず、戦場での活躍に躍起になった。守るべきものができた生き物は精神的に強くなったのが、ありありと分かった。


 そういった積み重ねがあって、人間たちの森への侵攻もかなり食い止めることができた。そうしてやっと、防戦から、攻勢へと転じる目処がたった。



§



「みんな。いままでよく耐えてくれた。人間達からの激しい攻撃に耐えきれたのは、みんなの命がけの戦いがあったからそこだ。そして、その積み重ねが、今日に繋がっている。我々は耐えた。だからこそ、この機会にこぎ着けることができた。我々は、今日はじめて、攻勢へ転じる!」


 周囲から大きな歓声が上がった。それもそうだ。いままで押されていた戦線を押し返せるタイミングがきたのだから。奪われたものを、取り戻す戦いが、できるのだから。


「人間は森のなかに夜営地を設置している。それを破壊しながら、ゴブリンの巣穴まで押し返す。みんなにとって、ここが大切な場所のように、ゴブリンにとって巣穴は大切な場所だ。みんなの力で取り戻したい。オレたちの森を、この手に取り戻す!」


 再び大きな歓声が上がった。士気は十分そうだ。

 オレは手応えを感じながら、指示を出した。


「全軍、突撃ぃー!」


 こうして、最初の反撃が始まった。

 初めて攻勢に立って思ったことがあった。


 人間って、アホなのかな。

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