第23話 そうだ、脳内会議しよう

 村のお祭りを遠くでみながら、リューネと話をしていた。

 本当に何気ない話をしていたはずなのだが、リューネから隕石級の一言が降ってきた。

 

「ワタシと、婚約して」


 ──よし。

 脳内会議を始めよう。



§



 脳内で4人のオレが、会議を始める。

 【審議中】 ( ´・ω) (´・ω・) (・ω・`) (ω・` )


オレA「リューネって少年じゃなかったの?」

オレB「ミコ、ニコに次ぐ第三の案件です」

オレC「マジで性別判定ザルだな」

オレD「むしろ期待してた」

オレC「これ、トモミんが男でした、とかあったりしない?」

オレB「帰ったら確認する」

オレA「確認せんでいいわ。トモミんを疑うな」

オレD「疑っているのはトモミんではなく、あなたの感性です」

オレC「で、話を戻すけど、どうするの?」

オレB「まずはリューネは少年じゃなく少女ってことでOK?」

全員「おーっ!」

オレB「じゃあ、あとは理由聞けばいんじゃね?」

オレC「賛成。リューネはトモミんのこと知っているし、それでも言ってきたってことは理由があるはず。それを聞いていこう」

全員「おーっ!」


 脳内会議終了



§



「なぁ、急にどうしたんだ?」

「ワタシ、この村を出たいの」


 まぁ、普通の村なら、出たければ出ていけるのだろうけど。この村の様子を見ていると、厳しい縛りというか、ルールがありそうな気がした。


「なんか、簡単には出られない理由とかがあるの?」


 リューネは小さく頷いた。


「村の掟で決まっているの。この村で生まれたら、この村から出て暮らしていくことは、許されない。この村は誰にも受け入れないし、誰も出ていかせない。そういうルールになっているの。私にとって、それが当たり前だったし、外に興味なんてなかった。でも、ヒデさんと一緒に、はじめて村の外に出て。色々なものを見て、もっと知りたいと思った。たぶん、今回が最初で最後の機会だと思う。これを逃したら、ワタシはずっと、この村で生きていくことになる。そんなの、嫌だとおもっちゃったんだ」

「で、婚約すれば、村を出れるのか?」

「相手がヒデさんなら、きっと許してもらえると思う。この村にとってヒデさんは英雄だから。ヒデさんと婚約できたなら、この村から出ていく許可はたぶん出ると思う。良い顔はされないと思うけど」

「──なるほどねぇ」


 そういいながらリューネの様子を見る。リューネは膝を抱いて、そこに顔を埋めていた。

 リューネの話には影を感じた。それはきっとリューネ自身が、自分勝手な話だとわかっているからだろう。でも、それをわかった上で、話してくれたのだ。だったらオレも、自分なりの誠意をもって応えるべきだと思った。


「村を出たい。でも、掟があるからそれは無理。だったら、村を救った外からの英雄についていくことにすれば、収まりが良い。って話であってるか」


 できる限り事実だけを並べて伝えた。

 リューは苦しそうな表情を浮かべて、そのまま、小さく頷いた。

 うん。自分の都合の良いように言い直さなかったのは偉い。

 だからオレは、できるだけ言葉を飾らず、伝える。


「理由なんて何個でもあげられるけどさ。リューネがちゃんと伝えてくれたから、オレもちゃんと伝えるわ。オレは、自分ができないことを、他人のせいにするヤツが好きじゃないんだ。掟を原因にするな。婚約を手段にするな。リューネが本当にやりたいことはなんだんだ? もしそれがちゃんと分かっているなら、あとは自分で決めて、自分で行動する方がいいと思うぜ。オレは、リューネはそれができるヤツだと思っている。誰かに頼るのは、もっと後でもいいんじゃないかな」


 ……我ながら、相手への要求がエゲツないなぁ。

 勝手に期待されるリューネにはただただ辛いだけだろうけど。

 それでも。言わなきゃいけなかった、と思う。


 その話を聞いたリューネは、立ち上がった。

 両手は固く握られて、目からは流れた滴が、月明かりを一瞬だけ、反射した。


「ゴメン。そうだよね。忘れて」


 リューネはそういうと、どこかに行ってしまった。

 オレは一人。

 月明かりと一緒に、食べ物を口にしながら、村のお祭りを見ていた。



§



 黒い苔問題を解決したオレは、しばらく村に留まるように勧められた。村を救った英雄には相応のおもてなしをしたい、ということらしい。良いタイミングだと思い、オレは村長むらおさに、改めて畑作りのことを聞いてみた。村長むらおさは食料を作ることに関しては承諾してくれた。だが、同時にこの土地では作物を作ることが難しいことを教えてくれた。


 ──まぁ、そうだよね。

 よくわからない、黒いヌメヌメしたものが地面をおおってるしね。

 じゃあさ、これなんなんだろう?


 聞いてみると、これは、どうも呪いらしい。呪いによって、魔力のもとといわれている魔素が汚染されて、こうなっているらしい。魔素といわれでも正直よくわからないが、たぶん空気汚染みたいなものなのだろう。空気汚染は目に見えないが、それが目に見えるようになって、そこかしこにへばりついている感じだろうか。

 でも、なんでそんな状態になっているのだろう?

 これも、村長むらおさが話してくれた。

 原因は、1000年近く前に行われた戦争らしい。

 1000年前に、森の資源を狙って、人間たちが襲ってきたらしい。森のぬしはこれに対抗して、森を守りきったらしい。でも、人間たちは森に呪いを放った。それは、魔素を汚染し、生き物をだんだんと死滅させる恐ろしい呪いだったようだ。

 森の主はその呪いを一手に引き受け、自分の体を使って、呪いを浄化することにした。初めこそ問題なかったようだが、時間がたつにつれて、呪いは強くなり、いつからか森のぬしの浄化能力を上回り、森のぬしが蝕まれるようになったみたいだ。今では完全に呪いの力の方が強く、森のぬしは体が腐敗し、緩やかに死に向かっているらしい。この村の人たちは、森のぬしから漏れ出た呪いをここで食い止めるために、ずっと昔から、ここで暮らしているらしい。

 そう遠くない未来に、森のぬしは死に、この森も死んでいくのだそうだ。

 その時がくるまで、美しいままの森を保ちたい。その一心で、ここにこうして暮らしている。それが森から生まれた、私たちエルフの使命だと、村長むらおさは言った。


「聞きたいんだが、この森のぬしが治れば、この場所も元通りに戻るのか?」


 その言葉に、村長は力なく笑った。


「森のぬしはもう、手遅れだ」

「じゃあ仮の話でいいよ。もし仮に、森のぬしが助かったら、この場所は畑をつくって、作物が取れるような場所に、戻るのか?」

「──もしそれができても。元の肥沃な大地に戻るとは、私には、断言はできない。でも、可能性はある。リューネの父親が、土を浄化する方法を研究している。そして、痩せた土地を元に戻す方法も。その父親が、私のところに来る度に、嬉しそうに言っているよ。土壌に関しては、自分よりもリューネの方が上だ、と。呪いさえなければ、リューネなら、いつかこの土地を元に戻せるかもしれない、と。」


 そういって、目を細めた。

 なるほど。

 可能性は、ゼロではないらしい。

 だったら。

 オレのやるべきことは、ひとつだ。


「オレが、治してやるよ。どうやったら、森のぬしに会える?」

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