第16話 作戦を立て直す
「2人だけで、行こう」
ミコの命令に、
でも以前に、抵抗に成功していたせいか、すぐに自分を取り戻すことができた。
オレはミコの前に歩いて行って、頬を平手打ちにした。
ミコは呆然として、それから急に、世界の終わりのような顔をしながら「ゴメンなさい」を繰り返した。
うろたえながら絶望に落ちていくミコの様子は、あまりにも可愛そうで、頭に手を置いて、胸に抱き寄せた。
「大丈夫。ミコの気持ちは十分伝わった。それに、むしろよかった。ミコがいなかったら、オレは、いつか誰かに同じことをしてたと思う。ミコのお陰でそれに気がつけた。だから、ありがとう」
「──……、──……、──……。──……、──……、──……。」
全力で
う~ん。
よし。しょうがない。
困ったときは、言葉が届くような姿勢作りが大切だ。
物理的に
オレは膝をついた。そうすることで、ミコの顔を見上げるような高さになる。その位置で高さ調節をして、ミコの額に、オレの額をくっつける。ついでにミコの両ほほに両手を添える。これで完璧ロックオン。絶対に視線を外せない体勢の完成だ。
驚いた表情のミコを見ながら、言った。
「一緒に行こう。ミコの力を借して欲しい」
「── ハ イ 」
「ありがとう」
ミコは、ちょっとずつ落ち着いてくれた。
よかった、よかった。
さて。気を取り直して、作戦を立て直そう。
§
作戦はこうだ。
オレとミコは2人で巣穴に向かう。そして、この場所にはミコの術符と、さっき命令を効かせたゴブリン達を置いていく。トモミんとミラには、ここで合流してもらって、2人揃ってから巣穴に来てもらう。
この作戦の肝は、連絡係になるゴブリン達だ。オレの術符と連絡をとれば、巣穴のある方向は分かる、でも目的地に必ずしも直線で行けるとは限らない。ちゃんと安全なルートで、巣穴まで案内してもらわないといけない。そのために、さっきのゴブリン達を、オレの食べ物でこちら側に
幸い、餅もどきに柿もどきが6つずつあった。ここにいるゴブリンたち全員に、1つずつ食べさせても、2こずつ残る。
オレは、戦士、弓兵、斥候の3匹を起こして、餅もどきと柿もどきをあげた。
みんな必死に口にいれ、飲み込んでいる。きっと、普段から大したものを食べれてはいないのだろう。基本的に、町の家畜や人を襲うのはリスクだ。ゴブリンたちの戦闘力では、返り討ちになる可能性の方が、だいぶ高い。そんなリスクを承知でやるのだから、それなりに深刻な食料不足なのだろう。
餅もどきと柿もどきを全部食べ終わると、斥候君はこちらを見て言った。
「──あり……がと」
それを見た戦士君と弓兵君も、同じ言葉を言った。
オレは、3匹の頭を順番に撫でてやる。
「あとでもっといっぱい食べさせてやるから。今はこれでゴメンな」
それから、全員後ろを向かせて、背中の傷の様子を確認する。傷は浅く、食べ物の効果か、もう塞がりかけていた。
あの司令官。ミコの命令で力が出せなかったのか、それとも手加減をしたのか。どちらなのかはわからない。でも、もし手加減をしたのだとしたら、悪いヤツじゃないのかもしれない。自分の職務に忠実なことは、悪いことじゃない。もちろん、許せないのは変わらないけど。まぁ、結局良いヤツなのか悪いヤツなのかは、今はわからない。
判断は保留しておこう。
オレは、ゴブリントリオに、これからして欲しいことを伝えた。トリオはうんうん頷いて聞いていた。隊列を組めるだけのことはある。理解力が良い。
それからオレは、司令官のところへ歩いていった。
土下座司令官にはミコの命令が、強烈に効いていた。
足を畳み、手のひらと額を地面につけている。それでもまだ、頭が高いと感じているのだろうか。額と手のひらを動かして、必死に地面を掘っている。
この指令官君、距離が離れている時はギリギリ抵抗できていたのに。至近距離で命令されると、こんなことになってしまうのか。
距離によって効きが違う、これは新しい発見だ。
さて、この司令官君にも、食べ物を食べさせてやろう。
「ミコ、この司令官の顔をあげさせて」
「──わかった」
ミコは一度鼻をすすって、それから司令官に命令をした。
「顔をあげろっ!」
顔をあげた司令官君に、オレは餅もどきと柿もどきを差し出した。でも、司令官はそれに手を出さなかった。敵の出す食べ物なんて、食べきる気はない。そう態度で示していた。
いつもなら、それもまた良し、とするところだった。
でも今は、状況が状況だ。巣穴への案内役がどうしても必要だった。それが、ある程度地位のありそうな司令官君なら、無用な戦いを避けれる可能性が高い。指令官君には、なんとしても食べて貰わないといけない。それだけ、切羽詰まっている。
ミコに目配せをする。ミコは頷くと、司令官の耳元で命令を伝えた。
「ありがたく、食べろ」
司令官は、オレの手から奪うようにして、餅もどきと柿もどきを食べた。それから、涙を流しながら、呻き声をあげた。
「話せるか?」
「──は……い」
「巣穴まで、案内してもらう」
「──は……い」
まるで元気がない返事だ。まぁ、しょうがないのかもしれない。地位も誇りもあったのだろう。それを得るまでに、積み重ねてきた努力や苦労があっただろう。そうして得た、地位も誇りも、今、失った。泣きたい気持ちは、分かる気がする。
「──うまかったか?」
その言葉に、司令官君の目から、涙がこぼれた。それから、絞り出すような「はい」を言った。
ちゃんと、美味しいものに美味しいと言えるヤツに、悪いヤツはいない。オレはそう思っている。だから、司令官君は悪いヤツじゃない気がした。
だからオレは、指令官君を良いヤツだと信じて、言った。
「じゃあ、良かった。オレはさ、司令官君があの3人の背中を指したことが、許せないんだ。指令官君にも、そうせざるを得ない理由があったのは、なんとなく分かる。でも、ダメなものはダメだと思うんだ。だから、あの3人に、謝って欲しい」
指令官君はうなずくと、ゴブリントリオの所に行って、頭を下げた。3人も司令官君のことを、わかっているようだった。指令官君を励ますような言葉をかけていた。
ずっと俯いている司令官君を見て、オレは肩を叩いた。
「今は、辛いかもしれないけどさ。ここから先、オレが色々なうまいもの食べさせてやる。いままでとは違う良いことを、いっぱい教える。だからさ、辛いと思うけど、オレに力を借してくれないか」
司令官君は、強く目をつむった。
それからすすり泣くような声をあげて。
最後に。
「──はい」を応えた。
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