第13話 ミコの能力に対する実験と考察 あと事故


 命令を確実に実行させる。

 単純明快かつチート級であるミコの能力は、ここからの戦いで間違いなく活躍していく。しかし、まだ未確定のことも多い。

 効果が及ぶ範囲。効果が及ぶ命令。効果が及ぶ生き物。


 ──すなわち、ミコの能力の理解。


 これを確実にすることが大切だ。

 オレとミコは、早速実験に取りかかった。



§


 

 【case1】 ダイフクの場合


「──ひざまずけっ!」

「っはい!」


 ダイフクは嬉しそうに、体を地面にぴったりとつけた。

 見事な「伏せ」だった。


「ちょうだいのポーズっ!」

「っ喜んで!」


 キクフクは興奮気味に、前足をあげて直立する。

 招き猫ならぬ招き犬だった。


「3回周って、『わん』といえっ!」

「──っ、──っ、──っ。っわん!」


 白いは目にも止まらなぬ早さで、3回周り、わんと言った。

 ダイフクのやりきった表情がカワイイ。


らせろっ!」

「喜んで~っ!」


 ダイフクがミコの胸に飛び込む。

 ミコは目尻を下げながら、ダイフクを存分になでなでした。


 結論。

 実験対象選びを失敗した。


 サービス精神旺盛なダイフクには、返事は「はいっ!」か「喜んでっ!」の2種類しかない。ダイフクが相手では、ミコの命令を聞いているのかどうかは、あの様子では分からなかった。

 眉根を寄せながら、もう一度頭のなかで今の様子を再現する。

 ──だめだ。

 女子高校生が犬とキャッキャウフフしてるようにしか見えない。

 この実験は完全に失敗だった。



§



【case2】 野良の狼もどきの場合


 ダイフクの同族である、狼もどきならどうだろう。

 オレの食べ物を餌にして、野良の狼もどきをおびき寄せる。

 ご満悦で餌を食べているところに、おもむろにミコを登場させる。


「──ひざま」


 良い終わる前に狼もどきは全力で逃げ出した。脱兎のごとく、とはよく言ったものだ。それを見て焦ったミコは追撃を行う。


「ま、待てっ!」


 そのまま走り去る狼もどき。

 そして誰もいなくなった。

 ミコはしょんぼりしながら、こちらをみた。


「──すまない」

「いや、大成功だよ。最後の『待てっ』に反応しなかったから。狼もどきにはたぶん、ミコの声は効果がない。収穫だ」


 これで、生き物ならなんでも、の路線は恐らく消えた。

 一応、身近なところで追加実験だ。



§



【case3】ミラ(人間)の場合


 ちょうどタイミングよく、ミラとミリちゃん、ララとリリィが町に帰るタイミングだった。状況を話してミラに実験に協力してもらう。


 ミラは緊張しながら、ミコと向かい合っていた。

 それを少し離れたところで、ミリ、ララ、リリィの女子3人と、オレで眺めていた。

 ミコはミラを目の前にして、だいぶ遠慮しているようだった。


「──すまない。嫌だったらやめてもらっても良いんだ」

「気にしないで。どうなるか、私も楽しみだから」

「──すまない」


 そういってミコは覚悟を決め、命令をした。


「3回周って、『わん』といえっ!」


 ミラには、なにも起こらなかった。

 まぁ。予想通りだ。


「──っ、──っ、──っ。っわん!」


 真横から聞こえた声に、反射的に視線を向ける。

 3回周って「っわん!」と良い終えたリリィは、やりきった表情をしていた。


 一瞬の沈黙。

 命令の効果か、それともリリィの冗談か。

 全員の判断が遅れた。

 変わったのはリリィの表情だけ。

 たちまち赤くなり、その場にしゃがみこみ、泣き始めた。

 ──有罪こうかあり


 え~らいこっちゃ、え~らいこっちゃ、よいよいよいよい!

 オレがあたふたしている間に、オレ以外の女の子達が、リリィの周りに集合して慰め始める。特にミコはこの世の終わりみたいな表情で「ゴメン」を良い続けている。


 ──よし。


 こういうときは、邪魔をしないのが仕事。

 リリィが泣き止んだときのために、リリィの好きな柿もどきを取りに、その場を後にした。



§



【まとめ】


 オレは、果物を探しながら頭のなかで整理した。


 得られた結果は以下の通り。

 ダイフクには不明

 狼もどきには効かない

 人間の場合が微妙びみょい

 ミラやその周りの人には効かなかったが、リリィには効いた。

 そこから得られる、とりあえずの仮説。


 言葉が通じる相手には、命令が効く可能性がある。


 じゃあ、次。

 効く、効かない、を分けるものはなにか?

 精神力の強さ?

 命令に抵抗する意思の強さ?

 

 オレにはミコの命令は効果があった。

 でも、気合いで抵抗できた。

 じゃあ効く効かないのポイントは、気合いなどの精神的なものだろうか。


 いや、それは怪しいな。

 幼いミリちゃんには効果がなかった。

 ミリちゃんが鋼の精神力を持っていて、それが影響して効かなかった可能性もある。でも、今の段階では、あまり納得感はない。


 ──難しいな。

 とりあえずは「相性」、としかいえないか。

 

 よし。まとめよう。

 現段階では。

 言葉が通じる相手にはワンチャン効く。

 効くかどうかは、相性しだい。

 といったところだ。


 まだ、ふわっとしているな。

 引き続き、細かい部分が分かるように、気がついたらその都度、実験していこう。


 次のターゲットは、メインディッシュ。 

 ゴブリンだ。

 他の巣穴のゴブリンにどのくらいの効果があるのか。

 効いたとしても、どのくらいの割合で抵抗されるのか。

 この結果次第で、この先にできることが大きく変わってくる。

 

 思わず、笑みがこぼれる

 ──楽しみで、楽しみで。仕方ない。

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