第14話 義足 / 急転
ミコの能力を理解する。
そのメインディッシュ。
野良ゴブリンへの効果を確かめる。
そのためには、野良ゴブリンを見つけないといけない。
探せばそのうち見つかるだろう。
でもオレは、できるだけ早く見つけたかった。
そのために、──オレは。
お手製の畑で、ゴブリン達と一緒に、汗を流していた。
以前に作った畑。
その畑で栽培している芋のようなものを、掘り起こして収穫する。
収穫した芋は、蒸し焼きにして、皮を剥き、丁寧に潰す。
芋自体の粘りけで、ふんわりまとまるので、それを一口サイズに手でちぎる。
白くてふんわりした、お餅のような食べ物の完成だ。
食べ応えはもちろん、さつまいものようなしっかりとした甘味があって、なかなかに美味しい。
こうしてできた甘い餅もどきを、一つずつ、ゴブリン達に手渡ししていく。
まるで、桃太郎みたいだ。
桃太郎は、きびだんごで犬、猿、雉を仲間にした。3匹は桃太郎の言うことをよく聞き、よく働いた。その犬、猿、雉、が、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、に変わっただけだ。
少し前まで、ギラギラした目付きで、生きるために奪い合いをしていたゴブリンたちが、今はこうして、仲間同士で飯を食べている。
それは、なかなかに良い景色だった。
「みんな、飯はうまいか?」
オレの呼び掛けに、ゴブリンたちは、思いおもいの言葉で返事をした。
感触はかなり良い。
これなら、大丈夫だろう。
「それはよかった。オレたちはこうして食べていける。でも、別の場所では食べ物を奪い生きているヤツがいる。オレは、そいつらを食べるのに困らなくしたい。そのためには、みんなの力が必要なんだ。だから、オレに力を貸してくれ!」
ゴブリンたちの声が揃う。
言葉は色々ながら、想いはひとつにまとまっている。
「それじゃあ、みんな。食べ終わったら5人1組でチームを組んでもらう。それぞれのチームで、森のなかを探索してきて欲しい。危険な場所や動物、特に見慣れないゴブリンがいたら、すぐに戻ってきて場所を教えてくれ!」
ゴブリンたちのめいめいの返事。
良きかなよきかな。
これで準備はOKだ。
あとは報告を待とう。
食事が終わり、ゴブリンたちがチームで探索に出掛けたあと、トモミんとミコが歩いてきた。
「ヒデ君、ずいぶん気合い入ってたね」
「ああ。なんかあいつらが飯食ってるとこみて、なんか嬉しくてさ。気合い入っちゃった」
「うん、良い感じだったね。それはそうと、お腹ペコペコ。私たちもご飯にしよっ」
「賛成だ。私も早く、そのお餅みたいなヤツが食べたい」
「あいよっ!」
早速、追加で料理を作り、3人で食卓を囲む。
談笑しながら昼食を食べる。
そんな穏やかな昼食が終わった頃に、ミラが来た。
「──やぁ、義足ができ上がったから。少しだけ、時間を貰ってもいいかな?」
「マジか。ありがとう! ぜひお願い!」
「うん。早速、調整しよう」
そういって、ミラは義足を出した。
ミコは倒木に腰かけて、左足を出す。ミラはその足に、義足を装着した。それから、ミコに立ったり座ったり、歩いたり走ったりさせる。感想を聞いて、違和感がないように調節を繰り返す。
そうして、身体の一部になった義足をミコは目を細めて撫でた。
「気にしてないつもりだったけど。こうして立てるって、こんなに嬉しいものなんだな。ミラ、ありがとう。それに、ヒデも」
「ミコが嬉しいならよかった。それもこれも、ミラに感謝だな」
ミコはトモミんに義足のことを報告しに行った。
それを聞いたトモミんはミコと一緒に、飛んだり跳ねたりして喜んでいる。
そんな2人を見て、自然と笑顔になる。
ん?
ふと見たミラの横顔は、嬉しそうに微笑んでいたけれども。
張り付くような影あった。
「なぁ、ミラ。なにかあったのか?」
「──もしかして、ひどい顔でもしてたかな」
「いや。でもなんか、暗かったように感じた」
ミラは、溜め息のような「──そうか」を言うと、深く息を吸って言った。
「ゴブリン討伐にでた冒険者パーティが戻らないんだ」
「いつから?」
「昨日の昼から。だから、丸一日、帰ってきてない」
パーティが帰らない理由は色々ある、が、結果はおおよそ悲劇的と決まっている。
かといって、状況がわからないまま動き出すと、2次災害が発生しかねない。
だからオレがこの場でできることは、安全な範囲で手伝うことだけだ。
「パーティの編成は」
「4人。戦士、スカウト、僧侶、魔法使い」
「わかった。今タイミングよく、ゴブリン達に森を探索させてる。もし見つけたら、無事に帰れるように、手配するよ」
「──ああ、ありがとう」
ん? なんだろう?
ミラは泣きそうな表情で、下を向いて歯噛みをしている。
これは、普通じゃないヤツだ。
オレは、ミラの頭を撫でて、それからその頭を抱き寄せて、胸を貸した。
「なんかあるだろ。よかったら、全部話して」
ミラは、声をあげて泣いた後に、絞り出すように言った。
「──リリィとララなんだ。助けて、欲しい」
ミラの言葉は、オレに一瞬で火をおこした。
「トモミん! ミコ!」
オレの声に、2人がビックリしたようにこちらを向く。
「リリィとララが行方不明だっ。今から探しに行く! 手伝ってくれ」
2人の返事を聞いて、ミラに話を戻した。
「前にオレにくれた術符。まだあるか? あったら貸してくれ、ミコに渡したい! 全員で探して、何かあったらこの術符で連絡を取ろう!」
ミラから術符を借りて魔力を込める。準備が整ったのをみて、全員が頷く。それを見て、オレは走った。
あてはなかった。
それでも、じっとしていられなかった。
ゴブリン討伐に行って帰らない、ということは、ゴブリンに捕まった可能性がある。
もしそうだったら、命に関わる。
そうでなくても──。
そんなことになる前に、探し出す!
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