第12話 ミコの能力


 松葉杖をついて、みんなと片付けをしているミコに、オレは声をかけた。


「──? どうした?」

「ミコに聞きたいことがあるんだ。──ミコはどうやって、ゴブリンたちに命令をしているんだ?」


 ゴブリンはそこまで知能は高くない。ほとんどの場合は本能や思い付きで行動する。でも、目の前のゴブリンたちは、ミコの命令を聞いて、実行している。

 いったい、どうやったらそんなことができるのか。

 方法やコツがあるなら知りたかった。


「それは──。たぶん能力みたいなものだと思う。ヒデは食べ物に特別な治癒効果を持たせることができるだろ」

「まぁ、そんな気はする」


 本当はもっと色々な効果があるが、話が逸れると思って、黙っておくことにした。


「私にも似たようなことができて。ヒデは食べ物だけど、私は声なんだ。声に出して命令すると、ゴブリンたちはそれを絶対に実行する。あそこで生まれて、死にそうになって、そこでたまたま気づくことができたんだ。そのあとも何度も死にそうになりながら、その度に使い方が分かるようになっていった。──あれは、運が良かったな。余裕ができてからかな、色々やってみたんだ。ジェスチャーでやってみたり、絵で指示してみたり。結局、効果があるのは、声だった」


 なるほどなぁ。確かに、声には不思議な力があるような気がする。

 魅力的な声、というものは確かにある。もしもそれを自在に使えて、相手の本能に訴えかけることができたら。それはもう、──軍団のしょうとしては文句のつけようがない。ゴブリンたちが死を恐れずに、自らを犠牲にしながらオレを倒しに来たのも、納得できた。


「その声って、オンオフできたりする?」

「ヒデは察しが良いな。できるよ。だから、ヒデたちには使っていない」

「どのくらい効果あるのか試したいから、ちょっとオレに命令してみてよ」

「ヒデにはあんまり使いたくないんだが。──分かった」


 ミコは目をつむって、なにかを切り替えるようにした。

 それから。


「そこの石を、拾ってくれ」


 その言葉を聞いた瞬間、意識が飛んだような気がした。

 次の瞬間、石に向かって手を伸ばしていることに気がついた。無意識に動く体を、自分の意思で引き留める。


 ──絶対に石は拾わない。


 そう思い浮かべ、抵抗した。なんとか抗える。

 でも気を抜けば、その瞬間に体が勝手に動いてしまうだろう。

 その様子を見たミコは慌てたように言った。


「すまない。もう大丈夫だ」


 ミコの声で、体がふっと軽くなる。

 これは、なかなかの効果だ。


「ありがとう。抵抗はできるみたいだ。けっこう骨が折れるけどね」

「すまない。もう2度としない」


 ん? なんだろう。ミコは命令したことを、気にしているみたいだ。

 オレが「やってくれ」と頼んだのに。

 まるで、嫌われたくないような。そんな雰囲気を感じる。

 これが食べ物の効果なのか、ミコの意思なのか。

 わからないところがもどかしいな。まぁ、いいや。


「いいよ。気にしてない。っていうか、むしろ良かったよ。やっぱり実感できるのが一番だからさ」


 そう言って笑顔を見せると、ミコも笑顔を返してくれた。

 オッケー。大丈夫そうだ。


「あとひとつだけ。ミコの声って、どこまで効果あるのかわかる? ゴブリンだけなのか、他の生き物にも効果あるのかな、って」

「それは分からないな。あの巣穴から出たことはなかったから」


 そうか。

 それは、実験してみないと分からないか。


 もし、ミコの声がどんな生き物にも通用したら、チートなんて話じゃない。魔王爆誕だ。でも、世の中そんなにうまくはいかないだろう。

 仮にゴブリンだけに効果がある。でも、かなりのチートだ。手当たり次第ゴブリンを従えれば、小さな国くらいなら作ることができるんじゃないだろうか。オレの能力よりも、手軽で範囲が広いのは、かなりのメリットだ。

 でも、そうそう都合よくはないだろう。

 ミコの能力はどのくらいのものなのか。試してみないとわからない。


「ありがとう。ミコのお陰でやることが決まった。ミコの能力のことを、もっと詳しく知りたい。協力してくれないか?」

「ああ、勿論だよ。それが私の幸せだ。でも、どうするんだ?」

「ミラの声が効く相手と範囲を把握したい。まずは、適当な生き物に、ミコの声の効果があるのか確認する。それから、適当にゴブリンを捕まえて、ミコの声が効くか実験する。ミコの声がどんなゴブリンにでも効くようなら、ミラの町の被害もなくなるし、こっちの味方が増える。一挙両得だ」

「それはいいな。面白そうだ」

「ああ。色々やってみようぜ」


 オレは笑顔を見せてから、ミコに手を差し出した。

 ミコは笑顔を返しながら、オレの手を取った。


「よろしくなっ!」

「ああ。よろしく」


 さぁ。楽しい、楽しい。

 実験と、考察の時間だ。

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