第41話 継続の秘訣④

 橋本と一緒に向かったお店は、駅から近く、少人数でも個室で落ち着いた焼き鳥が売りの居酒屋だった。

「もう、ここの焼き鳥がうまくてさ。一応、相手の女の子に好き嫌い聞いて、帰りも駅近いから、この場所便利だろ」

 さすが、店探しに慣れてる奴は言うことが違う。事前じぜんに、食べに行って場所も確認して、しっかりしてる。

「飲み放題?」

「おう、2時間のな。飲むだろ?」

「うん。久しぶりだな。飲み会って」

「だろ? 楽しもうぜ、月本。いつも、そんな弁当ばっか食っててさ、美味おいしいものも沢山たくさん食べようぜ」

「いいだろ、弁当だって美味おいしいぞ」

 ははっ、2人で笑い合って店に入って行った。


「こんばんは~」

「 ごめんね、待たせちゃって。場所、大丈夫だった? すぐ分かった?」

 女の子2人が座って、話をしながら待っていた。橋本は通された部屋に入ってきたと同時に話しかけた。

「あ、はい。大丈夫でした。駅から近くて、分かりやすかったです」

「良かった~、分かりづらい所だとまようよね」


 女の子の1人がパッと立ち上がった。

「あっ、良かったら上着うわぎこちらにかけます? ハンガーあるんで」

「うわぁ、ありがとう~優しい~。あっ月本の分もいい? こいつ、月本」

「どうも。お願いします」

 俺は軽く頭を下げた。2人分をれた手つきで、ハンガーにかけた。なんか、ちょっとおどろいてしまった、前ならお~っと思うんだけど。


 なるほど……橋本の奴、このみのタイプの子がいて、れなくなった男の代わりに俺をさそったのか。頭の中で、あらためてはなしが見えた。


「じゃあ、まず乾杯かんぱいしよう。飲み物は何が良い? はい、飲み物のメニューどうぞ」

 橋本が、てきぱきと仕切しきっていった。

「私、柚子ゆずサワー頼んでいいですか?」

「いいよ」

「えっと私はグレープフルーツサワーで」

「いいね。2人ともサワー、好きなんだね」

「はい」

「月本、お前は何する?」

「俺は、ビール」

「じゃあ、俺も。すみません、注文お願いします」


 飲み物がそろったところで、乾杯かんぱいをした。

「今日は、楽しもうね! 乾杯!」

「乾杯!」

 久しぶりのビールだったけど、久しぶり過ぎて、少しなつかしい味になっていた。

「美味しいね、2時間の飲み放題だからさ。好きなもの飲んでよ」

「ありがとうございます。嬉しい」

 2人は見合わせて、喜んだ。何だろう、慣れてる? 前は、そんなこと思わなかったのに、今は少し引っ掛かりを感じてしまう。


 自己紹介の挨拶あいさつも、そこそこにやって、橋本がふと腕時計うでどけいを見ていった。

「2時間だからさ、あっという間だよね。食べたいものとかあったら言って」

 チラッと袖先そでさきから見せて、女の子がすぐに反応した。

「えっ、橋本さん、すごい時計してる」

「えっこれ? そんなたいしたこと無いよ。ちょっと、仕事で頑張がんばったから、自分へご褒美ほうび

 おや、橋本……分割ぶんかつって言ってたような。しかし、2人の目線が変わり、橋本に質問がった。

「えっ、お仕事ってどんなお仕事されてるんですか?」

「いや、もう普通のサラリーマンですよ」

「そんなことないですよ、普通じゃあ買えませんよ」


 俺は、橋本のアシストをおこなった。どうやら、感覚的に覚えているようだ。きっと、この目的で俺はさそわれたにちがいない。

「そういえば、社内で賞もらってたもんな」

「ああ、前にだけどな。まぁ、前の話だからな」

「ええっ、橋本さん優秀ゆうしゅうなんですね。すごーい」

 はい、すごいんです俺は……と心の中で思っているであろう橋本は、遠慮気味えんりょぎみに頭を振っていた。


 反対に俺は、まったく眼中がんちゅうにないようで2人は橋本に向いていた。まぁ、前の俺だったら競争心きょうそうしんに火が付いて、どうにかして2人を向かせようとするが、今は早く帰りたかった。ただ、橋本は、そんな俺にも容赦ようしゃはなかった。使えるものは、とことん使う。そんなところも垣間かいま見えた。


「いや、俺なんてご褒美ほうびを買わないと、仕事も成果せいかが出ないんだけどさ。月本……こいつ、弁当とか作ってくるの。まぁ、しっかりしてるよな」

「へぇ……」

 2人が言葉少なめに発した。どうやら、現実はとてもシビアらしい。経済力けいざいりょくのある男は、どっちか判断され、俺は基準きじゅんからはずれたらしい。そうすると、女の子の反応も変わってくる。どうやら橋本は、俺をだしに使うらしい。

「料理とかするんだろ。最近なんか作ったの?」

「えっ、最近。そうだな、あっ餃子ぎょうざ作ったんだ。ほら」

 初めて作った餃子の写真を見せた。多分、聞いてはいないであろう俺の話を続けてみた。

「本当はレシピで豚挽ぶたひき肉だったんだけど、俺、何を間違えてからか牛とぶたの合いびき肉で作っちゃって。なんか、餃子なんだけど中身はハンバーグ?みたいな感じになっちゃった」

「へぇ~そうなんだ。私は餃子は買うか、お店で食べた方が美味しいかな」

 どうやら、俺の独壇場どくだんじょうになってしまった。3人とも興味きょうみないらしい。橋本め、分かってはいたけど、結構けっこう、ハートにグサグサ来た。


「あっ、そういえば餃子の美味うまい店、知ってる。知りたい?」

「えーっ、知りたいです。橋本さん、今度、連れてって下さいよ」

「いいよ、餃子、好き?」

「はい、もう気づいたら沢山たくさん食べちゃいます」


 あれ? 俺の餃子の話、どこ行った? そうか、これが競争きょうそうに負けたということか。


 俺は、これ以上、橋本の邪魔じゃまにならないよう、理由を付けて即座そくざ退散たいさんした。駅に向かうと、同じく仕事帰りの人たちが足早に向かっていた。まだ、1時間しかいなかったことになる。もったいなかったけど、あのアウェー感にはえられなかった。


 プラプラ歩いて、携帯で餃子の写真を見た。初めて作った餃子だったけど、金の無い俺には興味が無いようで、やっぱりダサいのかなぁ。写真の中の餃子は上手く包めなくて、中身が出ちゃったり、皮がやぶけたりしていた。


「そうだよな、こんな写真、見せられても困るよな」


 楽しみを見つけて変わろうとすると、こんなにみじめな思いをするもんなのかな。やっぱり、ダサくなる前に昔の俺に戻った方が良いのかな。もう、自信が無くなってきて、気づいたら電話をかけていた。


「あっ、もしもし」

「もしもし、どうしたの?」

「ごめん、急に。うん……」

 少しビックリした声で、電話に出たのは沢村だった。

「いや、何してた?」

「何してたって、ご飯食べてた」

「そっか、何食べてんの?」

「ご飯とじゃけ。あとは味噌汁みそしる、なんで?」

 少し笑い声で返してくれた。

「いや、夕飯の参考に……じゃなくて。俺さ、初めて餃子作ったんだ」

「えっ、すごいじゃん」

「でもさ、俺、バカだから。挽肉ひきにく種類しゅるい間違まちがえちゃって、本当はレシピで豚肉ぶたにくだったんだけど、牛と豚の合いびき肉買っちゃって。そしたら見た目は餃子なんだけど、中はハンバーグみたいになっちゃって……失敗しちゃった」


 あの飲み会の反応で、自分がいかに恥ずかしいかを思い知らされた。沢村は優しい声で答えた。

「失敗じゃないよ、すごいね。だって、1度で2度おいしいんだよ。両方味わえる。知らなかったな、今度やってみる。合いびき肉で作るんだね」

「でも、本当は豚なんだ」

「私が食べたいのは、月本君が発見した餃子ハンバーグだよ」

 そして、続けてこう言った。


「美味しかった?」


「うん、思ったより美味しかった。なんでだろうな、自分で作ったものって本当に美味しいんだな。実は25個作るのに、2時間かかったんだ」

「そっか、良かった。美味しいって、それが一番だよ」


 なぜか、言葉に出てしまった。


「俺って、カッコ悪い?」


「……どうして?」


「お金が無いって思われた。弁当を手作りで持って行っただけなのに。自炊じすいをし始めただけなのに……うっ、前よりも付き合いが悪いって言われた……」


 我慢がまんしきれず、今までのまっていた何かが涙と共に言葉となってあふれて来た。別に気にしなければいい事なんだけど、あの女の子の対応を見るとえ切れなくなった。道のはしっこで、電話を片手に泣いてしまった。しばらくして、沢村から


「月本君……そこから月って見える?」

「月?」

 ビルの間の隙間すきまから、まん丸の黄色い月が見えた。涙で二重にじゅうゆがんでいたけど。

「見える」

「良かった、月がキレイだね」

「うん」

うれしいな。こうやって美味おいしいものやキレイなものを分かり合えるって」

「うん」


 心の中が、じんわりとあたたかくなる。返事をするのに精一杯せいいっぱいだった。


「ほら、大丈夫。私もカッコ悪い。月本君が前より付き合いが悪くてカッコ悪いって言われたら、私もお金が無くてカッコ悪い。一緒だよ」

「そんなこと……ない」

「ううん、一緒にさせて。お金がどんなにあっても、この月のキレイさや、作ったご飯の美味しさを分からないよりも、カッコ悪くても今みたいに喜びを分かち合える方が私はそっちがいい」


 少し間があって、続けた。


「覚えてる? 前に話したお互いにダメダメ同士どうし……だから、大丈夫だよ。一緒だから」

「うん」


 月の下で、俺は初めて人とここまで続けた来れた喜びを分かち合った。




















































































































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