第32話 逃げ①

 もしかしたら、人恋しくて、何か……一時的いちじてきな気の迷い?かもしれない。うん、何だろうな、年上の女性を想ってしまうってのは何か原因があるのかもしれない。俺は、いつもの正常さをたもつ為に考えた。正常って言うよりも、いつもの俺らしさを取り戻すために? 前の俺を取り戻すために。それとも気づかないうちに変わっていく俺に抵抗ていこうしている、俺が。混乱こんらんする頭を、落ち着かせた。


 そうそう恋は盲目もうもくって言うしな、もう恋に夢中な子供じゃないしな。いい大人だしな。年上の女性を想うってのは、なんだ? 俺のタイプは、年下だしな。


 はっ!


 思いついたことは、あった。母親か? お母さんか? 電話してないから、どこかで求めていた? な~んだ、そっちか。そうだな、きっとそこから年上女性にあこがれてたんだな。よし! 久しぶりに母親にでも電話して、声でも聴いてみようか。そしたら冷静になって、なんでこの人を想ってたんだろうってなるか…なるな、ならないとこまる。


 俺は、さっそく母親と話すために実家に電話をかけた。

「もしもし、もしも~し」

「……」

 あれ? つながってるはずだけど、無言むごんだった。

「あっ、月本つきもと みのるです」

「あ~、みのる。どしたの?」

「あの、無言って。番号で分かるだろ、俺って」

「いや、名乗ってもらわないと」

 いつもの母親の声でホッとした。実家の電話は、ちゃんと名乗なのらないと、話をしてもらえないのだ。そう、簡単に“もしもし”と言わず、無言むごんなのだ。こっちよりも先に名乗れよという、意味だそうだ。

「そしたら登録しようか、俺、今度、帰ってきた時に」

「いいのよ、これが簡単だし。で? どしたの」

「いや、なんか元気かな~と思って」

「元気よ、ついこの間、話したばかりじゃない」

 あっ、そうだ。最近、電話したばかりだった。


 俺は、ちょっと恥ずかしくなった。父親と話すと目的が変わってくるしな、まだ帰っていないか。

「それより、仕事だったんじゃない。こんな夜にかけてきて」

「夜って言ったって、8時じゃん」

田舎いなかでは夜なんです。もう寝る時間じゃない? 疲れてるでしょ」

「別に疲れてないよ」

 あれ? もしかして、もう寝ようとして電話を切ろうとしてる? どうしよう、こんだけしゃべったら、勘違かんちがいも恋に恋していることも治りますか、お母さん……なんて言えない。

「なんか、あったでしょう。あったな」

 お母さんが、なにかかんづいた。どうしよう、ちょっと面倒めんどうかも。

「いや、別に。元気かな~って」

「そんなことで電話するわけないでしょ。話したばっかなのに。目的は何?」

「いや、何もないって」

「そう、じゃあ話せるようになったら、休みの日にでも電話してくださいな」

「あっ、もう切るの」

「ふふっ、何よ。なんかあったんでしょ。あなたの声を聞いて分かるわよ」

「なんか、嫌だなぁ」

 お母さんは、ちょっと楽しんでいた。


「ゆっくり休みなさい。仕事もあるでしょ。少し自分で考えて、また電話してね」

 ガチャ、ツーツーツー。


 携帯の向こうに音が、静かに鳴り響いた。これで、解決したのだろうか。俺の感情は、元に戻ったのだろうか。このうわついた気持ちは無くなったのだろうか。ふぅん、よし年上の女性との会話で、これまでの痛い勘違かんちがいは無くなるであろう、きっと……そう自分に言い聞かせた。








































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