第61話

「あのフィネールっていう奴、かなり偏屈な感じだったな。嫌われてる理由がわかった気がしたぜ……」


 フィネールの住処から外に出たピークコッドは彼女の態度に嫌悪感を感じたのか途端に愚痴を吐いていており、一度出したそれによって口が止まる気配がなかった。


「それにしてもよぉ、あの魔女もそうだけどイースメイムの奴らって魔術が他所よりも長けてるからって態度でかすぎだろ。 素材ぐらい俺たちに行かせないであのハニワとかいう人形に探させればいいのに」

「でもピーコってお話してる間、わたしの後ろにずっと隠れてたよね? そういえばよかったのに……」

「し、仕方ねぇだろ、あそこ妙に暗いし……。言っておくけどあいつにビビってるっていうワケじゃないからな!」

「まぁまぁ、今更どうこう言ったって何とかなる状況じゃない。そういえばピークコッド、あの言われた素材のことを知っているのか?」

「もちろん。どれも学院の本に載っていたのを見たことがある。最初に言ってた魔月草ってのはこういう魔気が濃い場所で、尚且つ月の光が当たっている場所に生えている珍しい薬草だけどここならそれはすぐ見つかると思う。一応魔力を含んだ薬草だからそれを餌にしているモンスターには注意だな。そんなことより問題は後の二つだ」

「と、いうと?」

「ラチュラグモの糸はその名前のモンスターから採取できるもんなんだ。たしか洞窟とか暗くて狭い穴を住処にしてるって書いてあったな。タイジュの花も同じ植物型のモンスターだけど中々姿を見せないかなりレアな分類だった気がする。正直これが一番めんどくさいかもな」

「そうか……だったらすぐにでも探しに行かないと。これ全部が遠い場所とかそういう手間がかかるようなモノじゃないとさすがに信じたいけど……」

「まずは魔月草から探そう。こんな中だったら一番簡単だからな」

「よし、じゃあ出発しよう」


 リリーたちが三つの素材を見つける手始めにまずは魔月草を探すことにする。

 ピークコッドが言うには、月の明かりが照らされるほどの場所が条件であり、この大樹海の中であれば沼地を離れるように移動していけば空が見えるほどの広がった場所があるはずだと説明し、そしてそれはすぐに見つかった。


「あれだ! あれが魔月草! しかもすげぇ! めっちゃある!」


 リリーたちが辿り着いた場所は湿った森の中でそこだけ広く空間が空いているような場所であり、円状に囲んでいる木々はそこを守るように囲っている。

 太陽の光が差し込んだその空間はカラっとした気持ちの良い空気を感じ、その中心には明るい紫色の葉が特徴の植物がたくさん生えているのが見えた。


「あれ? でも魔月草ってあんな色をしてたっけ?」


 ピークコッドが遠目から魔月草の群生を見てぽつりと呟く。

 記憶にある本で見た情報にある色がこことは別であり本来であれば魔力を含んだ綺麗な青色をしているはずであった。

 だがこの沼地地帯に生息する魔月草たちはどれも紫色をしているのを見て思わず首をかしげたのだ。


「あれが魔月草さんですか?」

「う~~~ん。多分そうだと思う」

「……? 違うのか?」

「色がね、俺の記憶とは少し違うんだ。でもまぁ魔気を含んだ薬草だからその土地の属性にも影響するかもしれないしな。形は同じっぽいし多分大丈夫だと思う。それに周りにモンスターの気配も感じない。採るなら今すぐだな」


 ピークコッドの言葉を信じてリリー達は魔月草を取りに行く為にそこへ踏み込んでいく。

 その時リリーはふと踏んだ土は沼地のようなぬかるみのようではないがどこか柔らかく、その感触に思わず戸惑いながら地面を見ると雑草が生えているそこから何かが眠りから起きる脈動を感じとった。


「何……? ここ、何か変で……」

「よっしゃ採ったぞ! とりあえずこれで一つ目だな!」


 少し離れたベリルとピークコッドは中央付近におり、すでに魔月草を摘んでいる姿が目に入る。

 直後、地面が揺れ始めると魔月草が生えているエリアの外側が盛り上がるようにリリーたちを囲んでいった。


「な、なんだぁ!?」

「わぁあっ!?」

「うっ……! 一体何が……アイリス!!」

「グアッ!」


 ベリルはすぐさまアイリスを本体化させてリリーたちを掴み上げると空中へと羽ばたいていく。

 木々の天辺まで飛んだアイリスは間一髪閉じていく土からギリギリで難を逃れた。


「あっぶねぇ……。マジで何だったんだ……?」

「よかったぁー……。アイリスちゃん助けてくれてありがとうね」

「グアッ!」


 アイリスに掴まれながらリリーとピークコッドは魔月草のあるエリアの外側に降りていきながら三人を襲ったそれを見る。

 土の中から現れたそれは魚のような質感の肌に草木が生えたモンスターであり、その胴体が再び土の中へ戻っていっていき、よく見ると魔月草がたくさん生えている中央には小さな穴があり恐らくあれがこのモンスターの食道というのがわかる。

 だがその本体も土と魔月草で覆われており、こうして上から見ればすぐに気が付くが地上でコレを危険だと判断するのは知識が無ければ難しいだろう。


「あのモンスターに食われるところだったのかよ。それにしても、うへぇ……よく見たたら気持ちわりぃ見た目……」

「あの子、ずーっとあそこで寝てたんですね。全然わからなかった……」

「なるほど、あそこを餌場にしてああやって待ち構えていたのか。しかも上から見たらこのモンスターの姿が見えるけど下だと魔月草で隠れて全くわからないな」

「でも魔月草はなんとか採れたから、とりあえずはオッケーか」


 三人はアイリスから地面に降り立つとピークコッドは魔月草を小さな袋の中に仕舞いこむ。残るはラチュラグモとタイジュの花の二つ。

 それを探す為に再び樹海の中へと足を踏み入れたのだった。

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