脳裏

 君は写真が下手くそだ。


 奮発してご馳走したフレンチは残飯みたいだったし、旅行先の景色はモチーフが悪くて特別感がないし――そうだ、いつの日か隠し撮りした私の寝顔なんて、最低の出来だった。


 下手くそでも、楽しそうに撮っていたのに。

 君はいつも、肌身離さずカメラを持っていたのに。


――ある日突然、君は写真を撮ることをやめた。



「なんで撮らなくなっちゃったの?」

「……もう、撮る意味がなくなっちゃったから」

 

 私が尋ねると、君は寂しそうに微笑んだ。

 目を合わせてはくれなかった。


「未練タラタラじゃん。うける」

「……そうだね。君に未練タラタラだよ」


 私は死んだ。

 そして退屈な私は、君に憑きまとっている。



「フィルム越しでしか君を見れなくなって、気付いたんだ――君のこと、どれだけ僕はこの肉眼で見ただろうって」


 だからこれは自戒なんだと。

 そう言って、君は俯く。


 反則でもいいから、もう一度私を見てほしい。

 君の好きなカメラで、いくらでも。


――次はフィルムじゃなくて、脳裏に焼き付けてよ。


  2024/11/09【脳裏】

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