意味がないこと

 例えばそう、小麦粉を特効薬として飲ませるような。


 嘘。偽物。紛い物。そして、プラセボ偽薬

 ヒトの思い込みというのは、実に不確かなものである。

 


「騙し騙し生きていく人生に、如何程の価値がある?」


 君の瞳に映る世界に、まばゆい真実は無いのだろう。

 疑心暗鬼にそそのかされた、哀れな男。


「人生に意味を見出すのに、君は幼すぎるのさ」


 そう、君は幼い。

 だから「私」というプラセボに、依存する。



 希死念慮を患う人々に、定期便で「毒薬」を渡す仕事。

 そこに勤める私が派遣された先、それが君。

 

 週に一回、私は君に「毒薬」を送り届ける。

 有難がって「服毒」する君は、滑稽とも言えた。


 そんな物で、死ぬわけないのに。



「いつになったら死ねるんだろう」


 虚ろな目で、君はそう呟いた。

 時の流れは早く、君が「服毒」を始めてもう半年。

 そろそろ気付いても良いはずなのだが。


「……そのうち死にますから。ほら、今週の分」

 

 意味がないこと。

 それは「服毒」であって、「服毒し続ける人生」ではない。


 そう伝えるにはまだ、君にプラセボが足りない。


  2024/11/08【意味がないこと】

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