立つ鳥跡を
「おい!ソア。何をしているんだ早く起き上がれ!」
我が商会が開発した自動で体にフィットする機能をつけたリクライニングソファ。ふかふかな上に楽な姿勢を維持でき、寝心地は最高である。
「私の前でそんな態度をとるなんて、大した度胸ですね。それとも神への信仰心が足りていないのでしょうか?」
急にソファを倒して寝っ転がった俺を、目の前のおじさんはギロリと睨みつけた。
「ルーヴァ大司教様も試してみませんか?この素晴らしい寝心地。神なんてどうでもよくなりますよ。」
「何を言っているんだ!早く謝れ!」
隣に座っている父が俺のことを無理やり起こそうとしてくる。そんなに怒られても俺の意思で寝ているわけではないしなあ。スキル君はいつにも増してご乱心であった。
「神なんてどうでもいいだと?あなたのような世間を舐め腐ったクソガキには必ずや天罰が下るでしょう!覚えておきなさい!」
おっさんはそう言うと立ち上がり、座っていたソファを蹴って去っていった。
「びくともしませんねえ?うちの家具は耐久性も素晴らしいでしょ?」
去り際に俺の口はさらにおっさんを煽り、父は頭を抱えていた。ジーザス。
今怒って去っていったのは俺が住んでいる領地の大司教である。ベラ様からの手紙が届いた日に俺のスキルが勝手に面談をセッティングした、悪評高い相手である。
あいつ、神への信仰心を見せるために家具を寄付しろとか言い出しやがった。スキルが俺の体を操って失礼な態度を取り始めたが、正直少し胸がすく思いだった。
「教会を敵に回すなんて正気かお前?」
父は怒った顔で聞いてくる。周辺諸国に関しては少々事情が異なっているが、我が国は一神教である。当然その教会を敵に回すということは世間を敵に回すことに等しい。
「別に教会を敵に回すわけじゃありません、あの生臭ジジイを敵に回すだけです。」
「あのな、ルーヴァ大司教というのはな―――」
父は今の大司教がどれだけ偉い地位で怒らせたらまずいかを解説し始めた。聞いてもよく分からないが、もうすぐ枢機卿に選ばれそうなのだとか。そんな偉い人がなぜ俺を呼びつけずに、わざわざ今日我が家に訪問してきたのだろうか?
それはさておき、まずいなあ。俺の商会が少し傾くくらいならまだいいんだけれど、父の商会や家族にまで影響が及ぶのは非常にまずい。
ただ、あのおっさんは気に入らないし、スキルが勝手にやったことだから仕方ない。
とは言え、何らかのフォローは必要だろう。このままではあのおっさんにあることないことを吹き込まれて教会全体と対立することになりかねない。そうなれば家族に様々な危険が及ぶのは必至である。
「いくつかの教会宛に友好的な手紙と我が商会の家具を送っておきましょう。ただ、あの生臭ジジイの担当する教会には送らないでおきましょう。」
俺のスキルも教会に対してフォローをする必要があると考えているようだ。ただし、あの大司教を許す気はないらしい。
「ソア、わざわざ余計な敵を増やすのは賢い選択ではないぞ。」
父が諭すように言ってくる。そのとおりだぞクソスキル!
気に入らないものを反射的に攻撃するのはクソガキってやつらしい。そういえば今の俺は9歳のガキだったな。とはいえ、めんどくさいから八方美人でいさせてほしい。
「大丈夫です。お父様も商会の未来を考えると教会のどちらの勢力に付くかはっきりと示しておいたほうがいいと思いますよ。教会はこれからさらに大きく割れるでしょう。」
何が大丈夫なのかさっぱりわからないが、父はそれを聞いて考え込んでしまった。今の言葉も心に引っかかる部分でもあったのだろうか?
俺はもうすぐ皇国の学園に行くのだけれど、こんなに状況をかき乱して行っていいんだろうか?『立つ鳥跡を濁さず』の真逆をいっている気がする。
「ソア、精霊様のお力とは恐ろしいものだな。」
約2週間後、父はげっそりとした顔でそう言った。この2週間でさまざまなことが起き、父は酷くお疲れであった。
なんとあの後すぐに教皇が暗殺され、それをきっかけに教会は二つの宗派に分裂したらしい。王はどちらの宗派を支持するかまだ明らかにしておらず、王国内は混乱の最中にあった。
俺はもうひと月後には皇国に立つことになっている。今回は珍しく厄介ごとから遠ざかっていっている気がする。意外とナイスタイミングなのでは?
それにしても、俺のスキルには一体何が見えているのだろうか?やっぱりこの世界を俯瞰して見ているのだろうか?それとも未来まで見えていたりするのだろうか?
引きニートになりたいのに、スキルが出世させてくる いこい @hogdd
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