第9話

「お姉さんたちとはかなり雰囲気が違うのねぇ」


またあの姉たちか!!

マードックさんにも何かしたの!?


「姉たちが何かご迷惑をかけたようですみません」


口座の開設に来ただけなのに何でこんな恥ずかしい思いしなきゃいけないの?しかも自分自身のことならまだしも、身内の話で。


このまま消えてしまいたい気分で頭を下げると、マードックさんはあっけらかんと笑った。


「良いのよ。ユニちゃんは何も悪くないでしょ?アタクシってブスが嫌いだから、強烈だったあの三ブスのことは脳裏に焼き付いてるのよ。アタクシとしては早く脳から追い出したいくらいなんだけどね」


えーっとウチの姉たちは性格の悪さが顔に滲み出てはいるけれど、見た目に関しては我が家なりにお金をかけてるだけあって良い方だと思うけどなぁ。


私のイマイチ良くわかってない雰囲気を察してくれたマードックさんが、


「アタクシが言う『ブス』は見た目ではなくて性格の方よ」


ウインクをしていたずらっぽく笑った。

全体的に綺麗な人は何しても似合うからずるいなぁ。




「アタクシは元冒険者でね?今は引退してこの資料室で司書の真似事みたいなことをしてるのよ。興味がある分野を教えてくれたらある程度の資料は用意できる自信があるわよ」

「ほへぇ………」


マードックさんに引き継いだシスティスさんは受付に戻って行き、今はマードックさんに資料室をふらふらと案内してもらっているところ。

その結構な広さに圧倒されてバカみたいな声しか出てこない私、図書館みたいにしっかりと資料となる本がジャンル毎にきちんと分類されていることにもちょっと驚いている。

偏見だけど冒険者ギルドの資料室ってもっと雑多で、資料とかも机の上に出しっぱなしだったりとかを想像してたんだけどね。

案内してもらっていると、その一角にあったジャンルを示す文字に興味を惹かれた。


「スキルブック………?」


そこにあるのは分厚い本から巻物、本棚にぎっしりと詰められていた。

マードックさんがその棚から一つの本を取り出して、私に見せながら説明してくれた。


「此処にあるのはスキルブックといって、読んで適性があれば書かれた内容のスキルを習得できるっていう――――言わば魔法の書物らしいわ」

「らしい?」

「言ったでしょ適性が無いとって、生半可な適正じゃ習得できないようになってるのよ。でなければこんな誰でも閲覧可能なところに置いていい代物じゃないのはユニちゃんにもなんとなく判るでしょう?」


確かに!!

誰にでもほいほいスキルを生やせるものならば、もっとちゃんと国とかが管理しなくちゃだよね。


「読んでみる?」


マードックさんが見せてくれた本は〖鑑定〗というスキルを習得できるものみたいだった。異世界ものでも良く登場するよね〖鑑定〗、チートの代表格みたいなところもあるから是非とも習得したい――――まぁ無理だろうけど。


「はい、読んでみたいです」


ダメで元々、習得出来たらラッキーくらいの気持ちで読んでみることにする。

元々此処へは何か興味のある分野があって立ち寄ったわけじゃないから正直読めればなんだって良い、娯楽が少なすぎなんだよね。


本を渡したマードックさんは笑顔で手を振り、私の居る席から少し離れた本に囲まれた席へと座っていた。

あそこがマードックさんの定位置なのかな?



――――かと言って何か特別な伝手があるわけじゃないから、リバーシ(私の所ではオセロって言ってたんだけど別物だったりする?)とかを作って流通させて大儲けなんて夢は見ない、都合良く此方を儲けさせてくれる人なんて居るわけないでしょ?

この世界で作ったとして安く買い叩かれるか、最悪殺されて奪われるかだろう。

親切・人情・安心・安全をモットーに生きて、しかも私みたいな小娘を尊重してくれる商人や貴族なんて、それこそ金脈を見つける以上に難しい。

オーナーさんはまだ親切な貴族様な方だろうけれど、お金が絡むだけにその後どう転ぶかまではわからないでしょ?


人を動かすのは真摯さよりも一発の札束ビンタの方が効くときだってある!

金の卵を産む鶏だって殺してしまうのが人間だからね。


そんなどうでも良いことを考えつつ、スキルブック〖鑑定〗をパラパラとページをめくって読み進めていく。

どうやら最初の方はこのスキルブックとやらを作った人の自分語り、どういう経緯でそのスキルの習得に至ったのかに始まり、今までどういう物を〖鑑定〗してどういう物が高額だったとか、偽物を売っている悪徳商人の闇を暴いたりだとかが書かれていた。どうしてこう本とか出す人って語りたがるんだろう?

飽きてきたのでパラパラと実践編にまで読み飛ばす。


①「鑑定!」と声に出す。

(この時大きな声ではっきりと発生するのがポイント)

②片方の手は腰に、もう片方の手で人差し指と中指を立てた状態を維持し、それを利き目に移動させる。

③この情報が見たいと強く念じる。

④最初はぼんやりと、けれどそれに注視することで情報を読み取ることが出来る。

⑤さあもう見えてきただろう?

⑥これでキミも〖鑑定〗マスターだ!!


うるさいよ!!?

⑤と⑥は何!?わざわざ此処に書く必要ないでしょ!?







『食べられない』






………何か半透明の吹き出しみたいなのが出てきたんだけど?

それがしかも本から伸びてて『食べられない』って、そりゃそうだよねとしか思わない。

これってもしかして〖鑑定〗習得したのかな?

でも〖鑑定〗って鑑定した物の情報を読み取るんだよね?


思わず「うーん」と唸って本から視線を外し、きつく目を閉じて目と目の間を指で揉みほぐして再度本を見る。


『食べられない』


うん、消えないね。

その吹き出しっぽいのも触れないし、どうやら〖鑑定〗習得出来たっぽい。

それにしても教えてくれる情報が食べられないって、私って今そんなにお腹空いてたっけ?常にちょっとお腹は空いてるけど今はまだそんなになんだけどなぁ………。

そんな情報が見たいって強く願ったりしたつもりはないんだけど?

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