第10話

私が目をゴシゴシと擦ったりキョロキョロしていたからか、マードックさんが心配して来てくれた。


「どうしたのユニちゃん?まさか本当にスキルでも生えちゃった?」


マードックさんは笑いながら冗談のつもりで言ったんだろうけど、ずばりその通りな私としては言葉に詰まってしまう。

そんな私の様子から、事態を察してくれたマードックさんから笑顔が消える。


「………本当なの?」

「はい。おそらく………」


私はマードックさんの方を見ると、


『食べられる』


という吹き出しが丁度マードックさんの目元を隠すようにして表示されていた。

それにしても『食べられる』って………人間を『お肉』と見做してるって事?そんなヤバい判定するようなスキル一刻も早くオフにしたいんだけど、どうすれば良いのかがわからずパニックになる。


「大丈夫よ。落ち着いて………ゆっくりと深呼吸………そう、とっても上手よ。今ユニちゃんにどういったモノが見えているのかは解らないけど、スキルを授かるということはとても幸運な事だから怖がる必要はないわ」


安心させるように私を抱きしめて背中を一定のリズムで叩いてくれるマードックさんの優しい声音に、気分が少しずつ落ち着いていく。

私は「もう大丈夫です」と言ってマードックさんから離れると、今私に見えている――――突然見えるようになった情報についてマードックさんに聞いてもらおうとして、まだ若干パニックが残る私の話をマードックさんは「焦らなくて良いし、上手く話そうともしなくて良いから」と言って最後まで聞いてくれた。



「ふぅん………食べられるか、食べられないかだけが表示されるのね」

「はい」


〖鑑定〗は常時発動型のスキルというものではないらしくて、制御は可能らしいのだけどスキル持ちの人自体が珍しいのであまり当てにし過ぎるのも良くないと教えてくれた。


「それにしても人を見て『食べられる』っていうのもなかなか危ない感じよねぇ。あっ、でも使いようによっては重宝するかも!」


マードックさんが弾んだ声で話してくれる。

気遣ってくれてるのが解って申し訳ない反面、その気遣いに嬉しくなる。


「御貴族さまが好んで食べてる卵、アレを今のユニちゃんのスキルなら判別できるんじゃないかしら?」


そっか、この世界の卵は魔法使いさんが有毒か安全かを判別する魔法を使ってるから流通する数が少なくて高額なんだった。

もし私の〖鑑定〗で安全な卵か毒卵かを見分けられたら――――。


知識チートじゃないけど、私にもチートが出来る!!


私の気分が上がったのが解ったらしく、マードックさんも上機嫌で微笑む。


「試してみましょうか?」


美人さんが妖しく微笑むとそれはそれは妖艶な感じになって、なんだかドキドキしちゃうよ。



マードックさんに連れられて資料室を出る。

そのままギルドの調理場へ行くのかと思いきや、


「普通に町で卵を入手するのは難しいから、近くの森に入って調べてみましょう」


そうだった。

ドドのにしろデデのにしろ卵ってあまり流通してないんだった。

しかもその見分けが素人では判断できないから、そもそも『食材』として認識されてないっぽいんだよね。

食べられる種類があるのは知ってるけど見分けがつかないから取らないって、前世で言う処のキノコ類とかと同じような扱いなのかも?前世のキノコはその道何十年とかいうプロの人でも時々間違えて事故ってるものね。

でも森は危ないって聞いたような覚えがあるんだけど大丈夫なのかな?


「そんなに深い所へ入らないからアタクシが居れば大丈夫よ。こう見えても元冒険者なんだから」


そう言って胸を叩いて笑うマードックさん。


「ユニさんの手を取って何処へ連れて行くのかと思えば、なるほど森ですか………さすがにそれは見過ごすわけにはいきませんね」


反射する眼鏡をきらりと光らせたシスティスさんがそれに待ったをかけた。

「何を考えているのですか?」とその鋭い眼光が雄弁に物語っていた。


「待ってシスティス話を聞いて――――」


そうしてマードックさんが近くの空き部屋に入って事情を説明してくれた。


「本当にスキルブックでスキルを習得した人が居るだなんて………」そう呟きながらも真剣に話を聞いていたシスティスさんは眼鏡の位置を直すと、


「ギルド長に話を通しておきましょう」


何か大事になってる気がする!?

卵が食べられるか食べられないかの判別が出来るだけなのに!?


「現在卵は魔法によって識別されています。その魔法が使えるというだけで国の宮廷魔法使いの地位を用意された人も居るほどです。聞けばその魔法は魔力の消費が激しいらしく、一日にそう何度も使うことが出来ないようです。そこに魔法を必要とせずただ見るだけで判るユニさんが現れたなら――――」

「良くて貴族たちが誘拐して飼い殺し、悪くて魔法使いたちが自分の地位を守ろうとして暗殺………かしらね」


何ソレ怖っ!!


私があまりの超展開に目を丸くしてると、システィスさんはマードックさんの言葉に一度頷いて続けた。


「勿論それだけではありませんが、パッと思いつくだけでもこれだけユニさんに危険が及ぶ可能性があるんです。予めギルド長には話を通しておいて、そこからまずは国に話をしてもらって、その後魔法使いや貴族たちからの余計な手出しを牽制或いは保護をお願いしてもらうというのはどうでしょう?このまま黙っていたとして、そんな便利なスキルを使わずにいつまでも隠し通せるとは思いませんし………」


え?全然いけるけど?だって今までスキルなしで生きてきたんだから。

卵だって別に『どうしても食べたい!!』って大好物じゃないんだもん、無くても生きていけるよ?


「………卵に限らず、ユニちゃんは飲食店で働いてるんだもの。食べられるか食べられないかの判断を目で見ただけで行えるのは便利よね。そのスキルのことが知られたら卵の判別が出来ることにも思い至るのは時間の問題でしょう」


あぁ確かに。貧乏であるが故に常にちょっとお腹が空いてる私の目の前で、食べられるものが捨てられちゃったりしてたら口出しちゃいそうかも。


「何でわかるんだ?」って言われて誤魔化すとか私に出来ると思えないし、そんなことしてたらスキルのこともいずれバレちゃいそう。


こうして私はマードックさんとシスティスさんに言われるがまま、いきなりギルド長にご挨拶しに行くことになってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

料理音痴さんは知識チートがしてみたい 暑がりのナマケモノ @rigatua

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ