5-6
「言い忘れたけど、お帰りなさい」
「ただいま」
「フランスはどんな感じで」
「相変わらず」
「そうなんだ」
「あなた最近来てるの」
「色々忙しくて」
「そう」
「イリスは」
「私の仕事だもの」
「そうだったね」
などという若い男女二人のやり取りを聞くぼくは所在なかった。
レッドさんたち早く終わらないかな。
じれったい、という気持ちだ。忠義さんのおどおどはピークに達していたし、イリスはイリスでこんなに手探りで会話をする彼女を初めて見た。これが恋の魔力なのだろうかとまだ本気の恋などというものはおそらくしたことのないぼくは遠巻きにそう思った。
お互い好き合っているみたいだし、どっちかが告白すればあっという間に叶いそうだと理解したばかりのぼくでもそう思ったが、しかし忠義さんがイリスに告白するのは相当な勇気が必要なようだったし、イリスが忠義さんに告白するのはなんだか難しそうにぼくには思えた。その根拠は“恥じらっている”というか……相沢さんが「イリスはハイテンションでパワフルだから」と言っていたが、このことを言っているのだとすればイリスは能動的でエネルギッシュだからこその〜んびりとした忠義さんに惚れているのだろう。まあバランスは取れていると思うがわかりやすい二人だ。しかしイリスが主導権を握った方がこの恋はうまくいきそうな気がぼくにはしたが、イリスはとかく気後れするのだろうとぼくはなんとなく想像するのだった。
それはともかくすることもないのでモニターを見つめていると、ついにレッドさんたちはデパートの目標を抹消させたようだった。これにてコンプリート、ということか。
「終わったみたいだよ」
「そう」もう? といった表情でイリスはぼくを見る。「そうか」
「おれたち、デパートに行けばいいのかな」
「いやぁ、その必要はないよ」
という声と共にゾロゾロと隊員たちがゲートを潜ってやってきた。
「お待たせ。これで完了だよ」
「来てもらってもよかったのに」と、相沢さん。
「明日香もまだまだ子どもだね」
「どうして?」
怪訝そうな表情の相沢さんをよそに、イリスが口を挟んだ。
「とにかくこれでコンプリートならそれでいいわ」なんか今日は食い気味な会話が多いな。「無事終わったんだし」
ぼくはちょっと考える。たぶん、ぼくら三人にデパートに来てもらう場合、いつ来るかわからないから向こうからぼくらのいるところへとやってきたのだろうとなんとなく推理してみた。実際、この二人のさっきまでの状態じゃ出発に多少時間がかかっただろうし、レッドさんの判断は実に正しかったと思う。
「よっし、じゃあ、いつものやーつ、行くかっ」
と、そこにいつものようにふよふよと一眼レフが現れる。
「みんな、集まれー! 合言葉は、イエース‼︎」
パシャリと集合写真を撮り、これで今回のミッションはコンプリートである。
しかしぼくもなんだかもどかしい気持ちになっている。いや別にぼくがもどかしいわけではないし、そしてぼくが何をすることではないし、というか何事もするつもりもないのだが。
ゲートを潜る際、ぼくは光里さんと麗子さんの間に挟まり、前方のイリスと忠義さんの様子を伺う。距離があるようなないような距離で二人は一緒の速度で歩いていく。
ぼくの様子が気になったようで、光里さんが小声でぼくに語りかけた。
「トキオさんも巻き込まれちゃったみたいで」
「わかりますか」
「じれったいですけど、他人がどうこうすることじゃないですからね」
「そうなのよね」と、麗子さん。「なんとかしてあげたいんだけど……」
「きっかけ作りでも協力してみようかしら」
「それも頼まれてないものねぇ」
「そうなんですよねぇ」
「なんか複雑そうだ」
そこで麗子さんはウインクした。
「恋は複雑よ」
「そうなんですね」
「鬼哭アルカロイドより遥かにね」
まあ、ぼくとしては——。
我関せずで行こうかな、と、ピンクな空気の中ぼんやりとそう思うのだった。
ご馳走様、といった感じか。
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