5-5
ラストの一体を倒し、これで完了したようだった。
が。
「よし、これでおしまいだな」
「そっちはね」
モニターがレッドさんの前に現れ、麗子さんがそう言った。
レッドさんは怪訝そうな表情で訊ねた。
「そっちは?」
「こっちはまだいるのよ」
「こっちにはもういないよ」
「それはそうなんだろうけどね」
「わかった。じゃ、今からそっちに行くよ」
「了解」
通信を切り、ぼくらを見る。
「というわけで件のデパートへ行く」
「わかりました」
「こっちとは関係なく出現してるってことですか」と、忠義さん。「他の場所にはいない?」
「モニターには表示されてないから、こっちと連動してない残りがいるんだろうな。もしかしたら他の場所に別で出現するかもしれないけど少なくともこのスーパーはもう大丈夫だよ。結界を展開させた」
「わかりました」
「よし、じゃ」と、レッドさんは人差し指で目の前に円を描く。するとその円がどんどん大きくなり、ついにはゲートが誕生した。「行きますか」
「了解」
と、ぼくたちはゲートの中に入っていく。
「悪かったわね」
「そんなことはないよ」麗子さんの謝罪にこともなくレッドさんは言った。麗子さんと相沢さんと光里さんがその場に揃っている。「あとはここのやつらか」
「そうだね」と、相沢さん。「イリスと殊袮もそろそろかな」
「ごめんごめん、遅くなったよ」
と言いながら殊袮がやってきた。しかし、殊袮一人だった。
「イリスは?」
レッドさんの問いに殊袮は、
「もしかしたら他の場所に出現するかもしれないからってその場に残りました」
「さすがイリス。じゃあ——」
と、そこでレッドさんの前にモニターが表示された。そこにはイリスが映っていた。
「隊長」
「なんだね」
「この近くのコンビニに出現した模様」
「今回はお店屋さんシリーズだな」
「どうしますか。光里の式神の影響でさっきみたいなことにはならないはずですが」
「当然、抹消する」
「了解。こちらに応援を頼みます」
「忠義とトキオ、行ってくれ」
「忠義?」と、イリスは目を丸くした。「他には?」
そこで忠義さんは目を伏せる。やっぱりおれなんかと一緒にいたくないんだ……と思っていることが分かりやすく伝わってくる。
レッドさんは答えた。
「こっちの女子三人はもうこの“場”に馴染んでるし、殊袮には新たに中間地点に行ってもらわなきゃ困るし」
「……わかりました」
複雑そうな表情のまま、イリスはモニターを切った。
通信を終え、改めてレッドさんはぼくら男子組に向き合った。
「というわけで、いいかい?」
「はい。了解しました」
「おれは……」
「まあまあ忠義。イリスも別にお前を嫌っちゃいないよ」
悩ましげな表情。
「そうかなぁ……あの子いつもおれにキツいし……」
さっきリビングで見せたイリスの顔をぼくはふと頭に思い浮かべた。
うーん。
これはなんか、なかなか——。
“かわいい”というか。
「じゃ、行ってらっしゃい」と、再びレッドさんは円を描きゲートをぼくらのために出現させた。「スーパーのが消えて、新たにコンビニに現れたってなると、このデパートにコアがいる。だからこっちを終えたら、後はコンビニの目標を抹消することで今回のミッションはコンプリートになるはずだ」
「はい」
「じゃあね〜」
手をヒラヒラさせてぼくらを見送るレッドさん。
「忠義さん。行きましょう」
「え、でも……」
面倒な人だ。
「いいから」
「あ、うん……」
「トキオ。忠義を頼むな〜」
そしてぼくら二人はゲートを潜っていくのだった。
というわけでゲートはコンビニの駐車場で開く。するとそこではイリスが銃を撃ちまくっていた。
「遅いわ」
「そう?」と、ぼく。「割とすぐ来たつもりだけど」
「とにかく」
「はい」
銃を撃つ。
「コンビニに結界を貼ったから、こっちからの攻撃で中の奴らを殲滅させればそれでいいわ」
「じゃ、前みたいにぼくのハンマーを爆弾にする感じかな」
「だからこそ忠義に……」忠義、という言葉の部分で少し顔を渋くした。「忠義に、蹴ってもらう」
「蹴る?」
イリスは頷いた。
「サッカーみたいな感じ」
ぼくはイリスの命令に従い木槌を複数出現させ、それを一つずつ忠義さんがコンビニの方に蹴り飛ばし、そしてそれをイリスが次々に撃って爆発させるというのが今回の作戦だった。駐車場からぼくら三人はまるでコンビニテロを実行しているかのようだったがもちろんコンビニが物理的に破壊されることはなく中の人たちも商品も何も破壊されることはない。しかしいつものことながらこの女の子は物騒な子である。気性が荒いから武法具に銃を選んだというのもあるのだろうが、しかしそれにしてももうちょっと穏やかにやれないものだろうかとぼくは思うのだった。
「あと二体」
「二個でいいの?」
「やれるだけ」
「了解」
と、ぼくは木槌を三つほど出現させる。ぼくもなかなか疲れてきてしまったが、しかし忠義さんは元気だった。まるで疲れた素振りもなくぼくの木槌を次々に蹴っていく。これだって霊力を使うことだろうに、おそらく忠義さんは鬼哭アルカロイドにエネルギーを“吸収”してもらうことで同時に回復もできているのだろう。
一方のイリスは黙ったまま銃を撃ち抜いていく。その様子を横目に忠義さんはなんだか切なそう。これが恋する男の表情なのだろうか。状況はまるで不釣り合いだが。
「終わりね」
バン! と銃弾を打ち込み木槌を爆発させ、やがてコンビニの中の鬼哭アルカロイドの気配は消滅した。同時にイリスはモニターを表示させデパートの方のレッドさんに声をかける。
「こっちは完了。そっちは」
「今、コアを相手にしている」
「すぐ行くわ」
「いや。そこで待機していてくれ」
「待機?」イリスは目を丸くした。「どうして?」
「コアを処理するのを待っていてくれ。他の場所に出現する可能性はまだある」
「それならそれでそっちで作業してればいいじゃない。どうせゲートはどこでだって作れるんだし」
そこでレッドさんはニヤリと笑った。
「ま、こっちはこっちで色々考えてるのさ」
「何を」
「何事を」
「は?」
「というわけで通信を切ります」
「ちょっと!」
「今こっちはこっちで頑張ってるから、そっちはそっちで頑張ってねーん」
と、モニターは消えた。
静かな駐車場でぼくはイリスと忠義さんを見た。
「どうしよう」
「隊長命令だから仕方がないわ。どのみち向こうの様子のチェックはできるし」再びモニターを表示させると、コアを相手に向こうのメンバーたちが健闘しているのが見えた。「どうせすぐ消せるから、変に私たちが到着したらフォーメーションがめちゃくちゃになるっていうのもあるんでしょうけど」
「じゃ、まああと五分ぐらいかな?」
「そうね。ここにいましょう」
「忠義さんも暇になっちゃいましたね」
と、ぼくは忠義さんの方に顔を向けると、彼は、うん、と、ゆっくり頷いたまま何も言わない。
「イリスも暇だね」
「暇だと思われたくないわ」
不貞腐れるイリス。
無言で並ぶ二人。
だがちらほらと相手の態度を窺っている。そんな様子の二人を見て、ぼくは思う。
無論レッドさんは効率的な戦闘を計画しただけでわざわざ無意味にぼくら三人をここに残したわけではないだろうが、しかしどうしても他意を感じてしまう。ぼくの直感が外れていなければ、ということはこれはもう、見抜かれているのだろう。それこそ陰陽連のメンバー全員に。
それほど忠義さんはわかりやすかったし、イリスもわかりやすかった。
両片思いってやつ——なのかな???
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