5-3
というわけでぼくら男子チームはスーパーにいる。スーパーの中は鬼哭アルカロイドが所々に存在しており忠義さんのようにのっそりと動き回っている。つくづくこいつらは何が目的なのだろう。
「よし、じゃあ始めるか」
レッドさんは薙刀を構える。ぼくも木槌を手に持つ。忠義さんの武法具はなんだろうと彼を見たが、彼は何も手にしていない。
「忠義さんは」
「忠義はテコンドーの達人なんだ」
「達人なんて、そんな」気恥ずかしそうに頬を掻く忠義さん。「子どもの頃からやってるだけで」
「褒められるとこうなります」
愉快そうにそう言うレッドさんに忠義さんは、
「おれなんか……」
と、沈痛な面持ち。
「全く、イリスにも困ったもんだ」
すると忠義さんはレッドさんを真ん丸な目で見た。
「イリス?」
「隊長、あの子のことは別におれは別に」しどろもどろ。「別におれは」
「はいはい、わかったよ。これだから思春期はデリケートだ」
ここで、「???」と疑問符が頭に浮かぶだけのままというほどぼくも鈍くはないが、プライベートな話題に興味本位で首を突っ込むのはやめようと努力する。ぼくは特に何の反応も示さず忠義さんとレッドさんを交互に見た。すると忠義さんは、ここで初めて小さく微笑んだ。
「トキオが空気の読める子でよかった」
「じゃ、まあ素敵な話は置いといて」と、レッドさんは近くの鬼哭アルカロイドに薙刀を斬り付ける。そしていつも通り目標は光を放って消滅した。「ミッションスタートだ」
「了解」
二人でそう返事をする。
「トキオ」
すると忠義さんが話しかけてくるので、なんだろう、と、ぼくは思った。
「はい」
「ピンチのときは、言ってくれたら」
それでぼくは、“気は優しくて力持ち”という言葉が頭によぎった。
というわけでぼくらは鬼哭アルカロイドを倒しながらスーパー内を歩き回る。特に大した努力は必要なかった。ぼくは木槌で、レッドさんは薙刀で目標を次々に消滅させていく。そしてテコンドーの達人という忠義さんは、豪快な足技を繰り出し戦っている。ふむ、これはなかなか、かっこいい、とぼくは思った。
スーパーの中は当然お客さんがいっぱい買い物に来ていたが、いつもの如く彼らはぼくらが異形の怪物たちを相手に武器を持って戦っているなどとはまるで気づかない。ぼくらや鬼哭アルカロイドに重なりながら生活している一般の人たちにぼくはまだまだなかなか慣れず、問題ないとわかってはいるが彼らに木槌を振り回すのをどうしても躊躇ってしまう。その点、レッドさんは何の躊躇もないようである。もう慣れた、ということなのだろう。では忠義さんはというと、ぼくと同じようにあまり他の人たちに触れないように触れないようにと攻撃しているようだった。陰陽連に来て長いようだがナイーブな人なのだろう。あるいは常識をわきまえているということか。もっとも他のメンバーがみんな豪放磊落なのでかえっておとなしさが目立つといった感じだ。
ぼくら三人は三手に分かれて行動している。ぼくは一人お菓子コーナーの中で木槌を振り回し、やがてレトルトコーナーに移動する。精肉コーナーの忠義さんと目が合い、彼は軽く会釈したのち豪快なキック。うーん、ちょっと面倒臭い人だが、しかし“いいやつ”なんだな、と、ぼくは徐々に忠義さんに好感を抱くようになるのだった。
というわけでスーパーの中の鬼哭アルカロイドたちを殲滅させていくぼくら男子チーム。果たしてデパートでは同じように女子チームが行動しているはずであり、このスーパーとデパートの中間地点にいるイリスは主に女子チームの後方支援をしている。なんといってもデパートの方が空間が広いからだ。実際、ぼくら三人の指に殊袮のヨーヨーは巻き付いていないし、こちら側にイリスの銃弾も飛んでこない。光里さんの式神がやってきてはいるが、敵のステータスダウン以外特に目立った存在理由があるわけでもなさそうだった。したがってあちら側の様子がぼくにはわからないのだが、果たして。
「トキオ、大丈夫かい?」
いつしかレッドさんと背中合わせになったぼくは彼にそう訊かれて頷く。
「こいつで終わりみたいです」
「よし、上出来だ。もうだいぶ慣れたみたいだね」
「だといいんですが」
と、ぼくは最後の目標に木槌を振りかざし、やがてそいつはキラキラと光を放って消滅した。
「よーし。これでこっち側はOKだな」
「——いや」
と、背後から忠義さんが暗い表情をして近づいてくる。
「さっきから気になってたけど、気が全然消えてない」
「え?」
疑問符が頭に浮かぶぼくをよそに、レッドさんは辺りを見渡す。
「——なるほど。さすが忠義」
「どうかしましたか」
と訊ねるぼくが早かったか、否か。
店内に鬼哭アルカロイドが再び出現した。何の不思議があろうかといった様子で奴らは再び店内を闊歩している。
「えっ!」
ぼくには“再び出現した”と思えた。だが忠義さんは言う。
「全然やっつけてなかったみたいだ」
「……そうだね」
そこでレッドさんはモニターを表示させた。
「麗子。そっちは」
「ダメね。また出てきた」
「手応えは」
「なかったってことね」
「了解。殊袮」と、二つ目のモニターを表示させるとそこに殊袮が映っていた。「状況は?」
「お互い連動しているんだろうな」
「なるほど」
「対になってるっていうか」
「厄介だ。光里」
三つ目のモニターを表示させる。
こういうとき、レッドさんをかっこいいなと思う。冷静に事態を把握して、即座の判断でもって危機を一つ一つ処理していく。大人の人で、大人の男といった感じをぼくは受ける。
こう言っちゃなんだがその点忠義さんはおどおどしながらぼそぼそ喋るのが常態のようである。別にレッドさんと比較して彼をかっこ悪いとは思わないが、ぼくはなんとなく、なんだか忠義さんを“でっかい弟”のように思うのだった。
そういえばイリスの話題がさっき出てきたが、もしぼくの想像通りならイリスも変わった少女だなと、そんなふうに思うのだった。
などと明後日の方向でものを考えていたぼくを尻目にレッドさんと女子たちの間でどうやら話はついたようだった。モニターを三つともしまってレッドさんはぼくらに言う。
「いまから光里の式神がもっとたくさん来る。殊袮のヨーヨーは忠義とトキオに巻きつけるそうだ」
「どうしてぼくですか?」
「戦闘力のバランスを取るためさ。うちで最強なのが忠義だから」
ん、と、ぼくは忠義さんを見る。
「忠義さんが?」
頭を垂らし、忠義さんはもじもじしている。
「忠義と、イリス。この二人と、トキオ、明日香、光里と、殊袮が連動する。あ、なんかよく考えてみればこれ大人二人は自力でやれってことだな。まあそれはともかくとして——」
「作戦は具体的には」と、ぼく。「やっぱり、双方のやつらを同時に消滅させるみたいな」
「ご名答。まあ多少のタイムラグは光里と殊袮がうまく処理してくれるから、こっちとしては特に気にしなくて大丈夫。だからま、そんなわけで俺——と麗子もだけど——は後方支援担当ということになった」
「はい」
「わかりました」
「よし」
レッドさんはグッドサインを示し、冗談めかしながらぼくらに語りかけた。
「未来ある少年たちよ。この世界は君たちにかかっている」
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