5-2

 ゆっくりと立ち上がった忠義さんは大柄で体格のいい人で、しかしなんだか弱々しい感じの人だった。

「新入隊員の子かい?」

 と、相沢さんに訊ねると、彼女は頷いた。

「そう。葛居時生くんね」

「男の子でよかった」

「別に女だからって取って食ったりしないよ」

「なんとなく」

 しばしの沈黙。

「いつ頃来たの?」

 と、ぼくにそう質問してくるのでぼくは答えた。

「四月です」

「なるほど」

 またしても沈黙。

 しかし忠義さんはなんだかしどろもどろしている。沈黙が耐えられない一方でどうすればいいのかよくわからないといった様子にぼくには見えた。

「あのう」

「はい」

 声をかけてみたぼくに食い気味に応える。それでぼくとしても特に用があるわけでもないのでやや困惑する。

「ここ、長いんですか?」

 と訊いてみると、えーと、とちょっと目を天井にやり、

「そうだなぁ……だいぶ経つかなぁ……」

「そうなんですね」

「うん」

 またしても、沈黙。

 しばらく、沈黙。

「というわけでこの人が柳馬忠義でした」

 相沢さんが助け舟を出すかのようにぼくに声をかけた。

「寡黙な人なのよ」

「そうっぽいね」

「忠義も、そんな頑張らなくていいんだよ」

 すると忠義さんはボソボソと言った。

「でも、つまんないのはつまんないだろ」

「あなた別に楽しませる技術ないじゃない」

「そんな」

 少し顔を俯かせ、頬を掻く。

「あのう」

「はい」

「なに?」

 と、二人でぼくに顔を向けたので、またもやぼくは少し困惑する。

「そろそろ戻りましょうか」

「そうね。ここにこれ以上いても仕方ないし」

「うん」

 相沢さんが先導を切って廊下に出た。その後にぼく、最後尾に忠義さんがのっそりとついてくる。

「まあ、悪い人じゃないよ」

 振り返ってそう言う相沢さん。ぼくは後ろの忠義さんを見てみるとなんだか気恥ずかしそうである。

「そうっぽいね」

「シャイな人なの」

「なるほど」

「仲良くなれるといいな」と、忠義さん。「頑張る」

「頑張ることなのかしら」

 そこで警報が鳴った。

「警報だ」

「どっかに出たね」

「どこだろう」

「そのために居間に行かん」

 ぼくら三人はちょっと早歩きでリビングに向かう。

「来たね」

 と、ぼくらを見てレッドさん。

「来たね」と、相沢さん。「場所は?」

「えーと」モニターには点滅が表示されている。だがその点滅は北と南二ヶ所に存在していた。「近所のスーパーと、最近リニューアルした例のデパートね」

「同時に出たってことですか?」

 そう呟くぼくに殊袮は頷いた。

「珍しいね」

「珍しいの?」

「普通、警報が鳴るレベルの出現だと一ヶ所に集中することが多いから」

 ふーんそうなんだ霊力がどうこうという話なのかなとぼくは呑気に思うが、しかしこういう場合、陰陽連合はどのようなスタイルを取るのだろう。

 なんとなく推測してみたが、たぶんこうなるんだろうとぼくは思いながら発言してみた。

「四人ずつ二手に分かれるんですか」

「惜しい。三手かな?」

 と、レッドさんは笑みを浮かべた。

 ヨーヨーをしながら殊袮がレッドさんに訊ねる。

「あたしとイリスは中間地点にいた方がいいんですかね?」

「そうだね。遠距離攻撃のできる二人だからね」

「だってさ」

「別に不満はないわ」

 と応えるイリスだが、なんだか気難しい表情をしている。まあ彼女はいつも厳しい表情をしているわけだがなんとなく気になった。しかし殊袮と行動を共にすることに不満があるわけではないように、ぼくには見えた。イリスは拳銃を取り出し霊力をリロードする。

「あとはどうするの」

 と言うイリスにレッドさんは、えーと、と、呟き、

「じゃあ、俺と忠義とトキオ。麗子と明日香と光里でどうだ」

「その根拠は? まさか男女で分けただけじゃないでしょうね」

「さすがイリス」

 パチパチと手を叩くレッドさんに対して、イリスはなんだか不満そうである。だがチーム分けの根拠は適当とはいえ殊更に不自然ともぼくは思えない。さっきからずっと気難しい顔をしているが、何か気に入らないことでもあったのだろうか。しかし「だけど問題はないわ」と応答しただけで具体的なことは何も言わない。人が言いにくいことをズバズバと言う彼女にしては珍しい。とにかくイリスは準備を終えたようだ。

「おっけ。じゃあ行くか。トキオ、いいかな?」

「あ、はい」

「忠義も」

「あ」

 と、声を上げ、しばしの間。

 メンバーが全員、一瞬黙り込む中、忠義さんは、

「はい」

 と答えたので、ぼくは、スローな人なんだなこの人は、と思った。

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