第五話 お前が好きだありがたく思え!!!
5-1
「フェミニストを敵視するような男の人って、男には男の論理があるのと同じように女には女の論理があるってことが直感的に理解できないわけよ。どうして理解できないのかっていうとこの社会が男社会で、その中で生きてる男だから、男社会に対して疑問や違和感や矛盾を抱くことがないからなわけね。だから女の論理が奇想天外な屁理屈に思えるの」
「名梨くんってほんとに色々なことを考えてるよねー」
陰陽連のアジト内部を歩きながら、先ほど名梨と繰り広げた“現代日本のフェミニズムに対する男性の在り方“についての話をしたら相沢さんが感嘆した。
「家庭の事情かな」
ぼくがそう言うと相沢さんは頷いた。
「そうかも」
「お父さんがなんかの学者さんで、お母さんがそこそこ有名な小説家だって」
「知ってる。名梨先生でしょ。わたし結構好きだよあの先生のお話」
「ぼくはあんまりハマらなかったなぁ。エッセイの方はなかなか興味深く読めたけど。小説の方はなんだか説教臭いというか」
「エンタメの限界にチャレンジしてるのかな。考えさせる系の物語が果たしてどこまでウケるのか」
「でもそもそも物語自体にあんまり起伏がない感じ。全体的に大して事件が起こらないし」
「そもそもリアルの日常生活にはそんなに事件が起こらないから、みたいなこと前、後書きで書いてたけど」
「エンタメの限界にチャレンジしてるのかな」
「そうかも」
ところでなぜぼくら二人が陰陽連のアジト内部を歩いているのかというと、陰陽連合八人目のメンバー・柳馬忠義さんを捜しているのだ。
今日、柳馬さんが久々にやってきたということだがリビングにはいなかった。レッドさんによるとアジトの中のどこかで瞑想でもしてるんだろうということで、ぼくとしては隊長さんであるレッドさん以外の男性メンバーということでどんな人だろうと気になっていたところ、別にリビングで待っていればそのうち現れるだろうとぼくは思ったのだが、みんな「ゾーンに入っちゃうとちょっとね」という旨のことを言うので、ぼくはいま相沢さんと二人でどこかの部屋にいるらしい彼を捜している。
陰陽連のアジトの中は何度か歩いてみたが、やはり空間が捻じ曲がっているのか外観よりも内部は相当広い。窓の数に比べて部屋数は多いし、二階建てに見えたのに三階までの階段があったり摩訶不思議な構造をしていた。一体この建物はどういう仕組みで存在しているのだろう。近隣の住人には認識できないようだがそうなると出入りしているぼくらは彼らにはどのように認識されているのだろう。不思議な力でその辺りはうまく解消されているのだろうか。まあそういうことなのだろう。不思議な力についてまだまだ不勉強なぼくは事実をそのまま受け入れることにしている。
事実をそのまま受け入れることにしているという点でふと名梨のことを思い出した。名梨はどうも“多様性”というものに深い関心があるようで、それで“世の中にはいろんな人がいる”と割とシンプルに捉えているぼくと馬が合うのだろうと思う。家庭の事情もあれ、複雑なことを複雑に考えるのが好きらしい名梨がぼくは割と好きである。この友情がどこまで続くかわからないが仲良くやっていけたらいいなとぼくは思うのだった。
しかし広い。そして忠義さんとやらはどこにいるのだろう。
「この部屋にいる、みたいな感じじゃないの?」
と、ぼくが訊ねると相沢さんは渋い表情をした。
「うーん。結構あちこち……というか、突然座り込んで瞑想始めちゃうんだよねあの人。だから決まった部屋じゃないんだよね」
「不思議な人だ」
「まあ我々は人のことは言えないけど」
それもそうだ。
ここまでこのアジトを散策したことがないのでぼくは各部屋が興味深かった。寝室もあり図書室もありなぜかグランドピアノやギターなどがある音楽室やまるで演劇部かのような衣装部屋もある。このアジトを作った不思議な人がどういう意図で作ったのかはわからないがぼくは直感的に趣味嗜好の力によるものであろうと思った。
あるいは、陰陽連のメンバーは昔はもっとたくさんいたのだろうかと思った。いまはたった八人だが、もっと昔はもっとたくさんのメンバーがいたのでないだろうか。それが今や少人数なのは少子高齢化の時代だからなのだろうか。とにかく八人組のアジトにしてはやたらと充実した施設に見えた。今度機会があったらレッドさんや麗子さんに訊いてみよう。
いまアジトには陰陽連合のメンバーが全員揃っている。当然、リビングには忠義さん以外の七人がいる。レッドさん曰く、全員集合というのは最近では非常に珍しいらしい。前、忠義さんは女の子が苦手な人だと言っていたが、しかしそれだけではないようでそもそも忠義さんはなにかと忙しい人のようだった。光里さんと同い年で、光里さんとは別の高校に通っているという情報しかぼくは知らないのだが、その高校というのがこの辺りではそこそこ有名な進学校でもある男子校のようなのでそれだけでぼくはシンプルに勉学に励んでいるのだろうと推測した。それ以外にも色々と理由はあるのだろうが、高校生ともなるとやはり毎日なにかと忙しいのだろう。光里さんも女子高生ながら何らかの事業を行なっているそうだがやはり彼女もそんなにしょっちゅうアジトにやってくるわけではない。やはり中学生のぼくらやフリーランスの麗子さんと比べて大人はなかなか時間を作るのが難しいのであろう。そもそもレッドさんだって退勤後にやってくるのだし。
殊袮もいまは問題ないようだがロケ等仕事が忙しくなれば光里さんのようにゲートを通過する以外ではここにはあまりやってこなくなるのだろうか。イリスなんかは鬼哭アルカロイド撲滅が使命のようなので毎日のようにここにやってきては半ば入り浸っている。と、ここでぼくはふとイリスのことを思い出した。
「イリスはなぜ捜索に参加しなかったのだろう」ちなみに殊袮は宿題に追われていた。「さっき暇っぽかったのに」
「恥ずかしいんでしょ」
即答する相沢さんにぼくはキョトンとした。
「と、おっしゃいますと」
「うーん。イリスはハイテンションでパワフルだからなのかなぁ……」
「???」
怪訝な表情をよそに相沢さんはとある部屋の扉を開けた。すると。
「あ。いた」
「あ、いた?」
何もない部屋の中央で男の人が座禅を組んでいる。間違いなくこの人が“忠義さん”だろう。
「おーい忠義」
と相沢さんが声をかけるが彼は無反応である。
「ゾーンに突入している」
「どうするの?」
「そうね」
と、相沢さんは鉄扇を取り出し霊力を集中させた。
「いやいやいや」
するとここで忠義さんは両腕を天井に伸ばして大きく息を吐いた。
そして振り返る。
「やあ明日香。——と」
精悍な顔だがどことなく童顔なイケメンフェイスがそこに現れた。
彼は怪訝そうな表情でぼくを見る。
しばしの沈黙。
そして、ちょっとおどおどしながら頭を下げた。
「こんにちは。柳馬忠義です」
まあ無難な初対面のようで、ぼくはほっとした。
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