4-6
辺り一帯には鬼哭アルカロイドがウヨウヨと蠢いて……というわけでもなかった。いつもに比べてだいぶ数が少ない。おそらくはイリスが撃破しまくったのだろう。レッドさんたちも現れたことだしもう仕事はほとんどないようにぼくは思った。となると事の原因となった鬼哭アルカロイドが生き残って(?)いたのはなかなかの幸運だったようだ。もし消滅させてしまっていたらどうなっていたのだろう、などとまたもや不安になるが、まあ無事だったから良かったと思おう。とにかくその辺に残っているやつらをぼくはハンマーで、殊袮はヨーヨーで次々に消滅させていって、ぼくらは校舎の奥の方奥の方へと進んでいく。
と、そこでみんなと再会した。
「あ、葛居くん。なんとかなったみたいだね」
廊下の真ん中。相沢さんが鉄線を振り回しながらぼくにそう呼びかける。
「おかげさまで。あの、さっき痛かった?」
イメージの話もしようと思ったが、だがぼくが何の話をしようとしているのかを察したらしい相沢さんは、それを遮った。
「君が無事ならそれが一番だよ。で、あとはもう——あのでかいやつだけみたい」
「なるほど」
いま、陰陽連のメンバーは一体の大物をみんなで相手している。こちら側に相沢さんとイリス、向こう側にレッドさんたちがいる。どうやらこいつが“核”となって今回の事態に陥ったようだった。
「いつも思うんだけど、鬼哭アルカロイドっていうのはどこから来てどこへ行くのだろう」
「それはあたしらだって同じっしょ」と、殊袮がこともなくそう言う。なかなか哲学的なことを言う子だ。「ところでさっきのやり方を試してみる」
「さっきのやり方?」
次の瞬間、殊袮は左手親指のヨーヨーをイリスの拳銃に巻き付けた。当然イリスとしてはムッとするだろうと思ったら、やはりムッとした。
「なにしてるの」
「この中じゃあんたが一番強いからね。光里さん! あたしらの連動を止めて」
「任されました」
向こう側の光里さんがそう返事をすると、ぼくらの武法具にくっついていた式神たちがヒョイっと離れ光里さんの方へと戻っていく。大物ならびに残っていた鬼哭アルカロイドたちのはそのままだ。
「おいおい、オレはなしかい?」
レッドさんが殊祢にそう投げかける。殊祢の左手の五つのヨーヨーはぼく、相沢さん、イリス、麗子さん、光里さんの武法具にそれぞれ巻きついているようだった。
「人数制限があるので」
「仲間外れはちと寂しい」
「またいつか。さーて攻撃力アップするかな?」
ぼくの中で力が漲ってくる。どうやらイリスと同期しているようだ。そうなると彼女のイメージがぼくらの中に混ざってくるのだろうか……と思うと、実際その通りでイリスのものらしき“強烈”なイメージがぼくの中に湧き起こってきていた。イリスらしい感情的あるいは攻撃的なものではないように思う。とにかく“イメージ”だ。あるいは、エネルギーとか、パワーそのものと言ってもいいだろう。
するとぼくのハンマーの攻撃力が上がっているように思った。そしてそれは他のメンバーも同じようで、みんなちょっと目を丸くさせていたがすぐに笑みを浮かべた。特にイリスなんかは直前のムッとした表情を一変させてすごく楽しそうである。
単にぼくらの力を連動させるだけなら光里さんの技で充分なはずでは、とぼくはちょっと思ったが、おそらく光里さんのいう連動というのは弱体化もしくは平均化がメインの力であってステータスアップには不向きなのだろうとぼくは推測した。要するに、光里さんの技は敵のステータスダウンであり殊袮の新技は味方のステータスアップということになるのかな、などとそんなことを考えている間にみんなの攻撃で目標はどんどん動かなくなっていっていた。
そして、イリスの銃やレッドさんの薙刀攻撃などを喰らった大物鬼哭アルカロイドは消滅を始める。本当に、こいつらはどこから来てどこへ行くのだろう。そして何のために現れ何の理由で存在しているのだろう。ファンタジーなことはわからないことだらけだが、しかしぼくはいつもの通り目標撃破によってリフレッシュ効果を得られていたため、まあ、そういうことも今後わかるときがくるんだろうな、なんてそんなふうに思った。
「よし、これでコンプリートだな」
やがて、そいつは、消える。
レッドさんたちの姿がはっきりと見えるようになり、ぼくはようやく完全に一安心した。
「お疲れ様。みんなよく頑張ったな」
「お疲れ様」
「トキオも無事でなによりだ」
「おかげさまで」と、ぼくは答える。「解決したみたいです」
「よしよし。しかし今回オレたち年長組は出番が少なかったな」レッドさんはニコニコとそう笑う。「
「忠義?」
初めて聞く名前にぼくはキョトンとする。と同時にイリスがぼくらの方を見たような気がしたのは気のせいだろうか。
「うん。
ということはその人が八人目のメンバーなのだろう。
「男の人ですか?」
「そ。光里と同い年で、高校生」レッドさんは薙刀をしまう。「ここのところ女子隊員ばっかりだったから。あんまり女の子が得意じゃないんだよね」
「そうなんですね」
「トキオが入ったことだし、これからはちょくちょく来てくれるといいんだけど。ま、そのうち会えるからな」
「はい」
レッドさん以外の男性隊員忠義さんというのはどういう人なのだろう。仲良くやっていけるといいんだけど。というかその人も鬼哭アルカロイドに関して思想の強い人なのだろうか。みんなとはうまくやっていられている人なのだろうか。まあ会ってみればわかるだろう。とにかくその忠義さんという人が来ればこの辺一帯を担当しているらしい陰陽連のメンバーが全員集合というわけだ。とりあえずは楽しみにしていよう。
「よし! じゃ、いつものやーつ、いくか!」
と、そこにいつも通り一眼レフがどこからともなくふよふよとやってきた。このカメラもどこから来てどこへ行くのだろう。「それはあたしらも同じっしょ」と殊袮は言ったが、まあ確かに、そう言われると返す言葉はない。ぼくらだって、何のために生まれたのか何のために存在しているのか、そんな答えを出せる人なんていないのだから。
「みんな集まって。じゃ、いくぞ! 合言葉は、イエース‼︎」
いつも通りパシャリと写真が撮られる。
というわけで今回の事態は最悪の可能性の実現などということにはならず、幕を閉じたのだった。
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