3-6

 リボルバーなのになぜ七発撃てるのだろうとなんとなく思いながらぼくら三人は対鬼哭アルカロイドの活動を始めていた。

 相沢さんは鉄扇、イリスは拳銃、そしてぼくは木槌を持って目の前の目標たちを相手にしていく。公園には鬼哭アルカロイドがいつものようにウヨウヨと闊歩しており、家族連れやゲームで遊んでいる小学生たちはそれらに全く気づくことなく公園ライフを過ごしていた。当然、やんややんやしているぼくら三人にも気づいていない。これは気づいていないのか見えていないのかはわからないが、とにかくぼくらがいま武器を持って異形の怪物たちとやり合っていることなど想像もしていないだろう。

 バン、バンと鬼哭アルカロイドたちを撃っていくイリスを見て、つくづくアグレッシヴな子だなとぼくは思うのだった。

 公園には相沢さんが結界を張ってくれたのでやつらが外に出ていくことはない。全部始末したらミッションコンプリート、ということでよいのだろう。やがてレッドさんたちが例のゲートを潜ってやってくるはずだ。とにかくぼくはぼくで木槌で消去することができているので“戦えて”はいる。

 流麗な舞を踊るかのように相沢さんは鬼哭アルカロイドと対峙する。そこにイリスの弾丸が命中し、二人の共同作業ということなのだろう、その鬼哭アルカロイドは光を放って消滅する。

 しかし、本当にこいつらはなにが目的で何のために存在しているのだろう?

 木槌攻撃で一体を抹消しながらぼくはぼんやりと考える。

 光里さんは共栄共存と言っていたが、結局イリスにとっての鬼哭アルカロイドとは何なのだろう。滅却という言葉を何度も使っていたが、その単語からは“なんとしてでも倒さなければならない”という強い決意が感じられる。ぼくとしてはやはり結果的に消すことが目的になるわけだからそんなに仲間と敵対しなくてもとは思うが、しかし、世の中にありふれた議論討論口論はだいたいこんな感じではあるんだよな、と、ぼくはそんなことを思いながら目の前の敵をやっつけていく。次々に光を放って消滅するこいつらには悪いが、やっぱりぼくにとってはこの活動そのものが精神的なリフレッシュ効果を持っているのさ。

 というわけで何体も何体もを倒していき、残る一体にイリスが銃弾を撃ち込みまくるとそいつも例に漏れず光を放って消滅した。

「これで全部かしら」

「そうっぽいけど?」

 女子二人が辺りを見渡す。素人のぼくが入る隙はないし、必要もなさそうだと思った。

「隊長たち来なかったね」

「私たちだけで何とかできたんだからそれでいいわ」

「それだと撮影の方は——」

 と、そこで、なんたることか。

 次の瞬間、公園内に再び大量の鬼哭アルカロイドたちが現れ、さっきまでと同じように公園内をうろうろと闊歩し始めた。

「なに⁉︎」

 ぼくら三人は公園中を驚愕の表情で見渡す。そんな、さっきまでの苦労は徒労に終わってしまったのだろうか。

「どういうことかしら」

「……本体がいるんだろうな」

「本体?」

 と疑問をぶつけるぼくにイリスはこともなげに答えた。

「そいつを消さなきゃ解決にはならないということよ」

「どこにいるの?」

「さあ」と、相沢さんは肩をすくめた。「この公園の中のどこかにいるのは間違いないね」

「でも、さっき全部やっつけたと思ったけど。気は感じなくなったけど」

「どこかに隠れているのかもしれないし、さっきのやつらのどいつかに決定的な致命傷を与える必要があったのかもしれないわ」

「じゃあ、どうするの」

「決まってるじゃない」と、イリスは再び弾丸を放った。「本体を見つけるのよ」

 しかし……じゃあそれならそれでどうすればいいんだ、というのがぼくの率直な疑問だった。さっきいたやつらは全部消したのだし、どこかに隠れているのかもしれないしさっきいたやつらの中のどれが本体なのかもしれなくて、それがわからない、詳細不明となるとどうすればいいのかわからない。イリスはいま決定的な致命傷と言ったが、ぼくはそのつもりで木槌を振り下ろし続けたつもりだったし二人だってそのつもりだっただろう。これがもしどこかに潜んでいるのであればいよいよど素人のぼくにはどうすればいいのかわからない。

「いっそ公園ごと破壊してやろうかしら」

 なんてことを。

「背に腹は変えられないわ」

「まあまあ……それより、対策を練る方が先よ」

「もちろんよ。あくまで最終手段だわ」

 最終手段ね……つくづく危険な子だ。

 と、そこで。

「おーい」

 と、いつの間にかレッドさん、麗子さん、光里さんの三人が公園内に現れていた。

「遅くなってすまない」

「本当だわ」

「いやはや」と、レッドさんは頭を掻く。「なかなか休憩に出られなくってね」

「言い訳は結構」

「それにしてもイリス、一年ぶりだねぇ。久しぶりだなぁ。元気だったかい?」

「元気よ。でもお喋りはこの戦いの後にして」

「相変わらずだね。まあそれは確かに正論だ。さて」

 レッドさんは目の前にモニターを表示させる。そこには公園内のマップと共にいくつもの点滅が浮かんでいた。

「本体を倒さない限りいつまでも出現する、って感じだね」

「対策を練る必要があるわ」

「オレの対策聞いてもらっていいかな?」

「どうぞ」

 コホン、と咳払いをして、レッドさんはぼくの両肩に手を置いた。なんだろう?

「イリス。トキオとコラボだ」

 え?

「どうして?」

「どこかに隠れているのかもしれないし、公園中の目標に致命傷を与える必要があるのかもしれない。それなら、至る所に大打撃を与えればいいんじゃないかなと」

 ? それにどうしてぼくの力が必要なのだろう。

「イリス。トキオの力はオレたちの力を触媒とする」

「なかなか面倒ね」

「だからこそ、オレたちのパワーアップになる」

 ははん、と、イリスは何事かを理解したようだった。なんだろう?

「了解よ。あなたたちはなにをするの」

「光里。いつも通りに」

「任されました」

 と、光里さんのカバンの中から式神たちが現れ、公園中に散らばり始めた。

「オレたち三人も目標撃破でいくけど、あくまで二人のサポートだ。二人のところに追い込んでいくって感じかな。麗子、明日香、いいな?」

「了解!」と、二人。

「よし。じゃあ、いっちょやってみるか」

「ちょっと待ってください」

 と、ぼくは当然の呼びかけをした。

「ぼくは、なにを」

「なに、簡単なことさ」

 そこでレッドさんは待ってましたというふうにぼくにウインクをした。

「爆弾を、銃で撃つ」

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