第29話 配る
一緒にいる3人が亜人だったなんて…
いや、ある程度は予想してたけどフィオさんはやっぱり被差別種族だったんだね、あの町のギルドでの扱いはやっぱりそういうのが原因か。本人に責任のないことで差別するってあほらしくならないのかねぇ…
「それで、儂に相談ってなんじゃ? 儂の後はティーロが見張りじゃろ、寝なくていいんかい?」
「大丈夫、魔法の応用でなんとでもできるからね。それより他の人に聞かれずに相談できるのはこのタイミングしかなさそうだからさ。」
「ほぅ… ならええか。何が聞きたいんじゃ?」
「うん、実は新しい武器を作りたいんだけど素材について聞きたくてね。」
「新しい武器じゃと? カタナ以外にも何かあるのか?」
「うん、フィオさんって魔人族なのに魔法が得意じゃないって言っててさ。ハンターをしてたときは弓を使ってたらしいんだ。魔力量は多いけどそれを上手く魔法として使えないなら魔力を取り出して使える遠距離武器を作ればいいんじゃないかって思うんだよ。」
「ほぅ… 魔弓でも作るんか?」
「それも考えたけど、もうちょっと面白いものが良くない?」
「詳しく聞こう。」
「魔力操作ができると魔石に自分の魔力を込めることができるよね? それを打ち出す武器を考えてるんだ。」
「ふむ、お前がここまで言うなら形なんかはイメージできとるんじゃな?」
「うん、あとは素材なんだよ。全体を
「そりゃあ剣やメイスの素材に使うし問題ないが仕入れるとしたらかなりの金額になるぞ? 通商連合に行けばそれなりに流通しとるから物自体は手に入ると思うが…」
「そこはなんとかするから大丈夫。あとは魔力を流す機構なんだけど…」
そうしてじいちゃんに確認のためのアドバイスをもらうと問題なく作れるのかわかった。
あとは足りない素材をどうするかだな、今は間に合わせで手持ちを使ってやってしまうか。
★ ☆ ★ ☆ ★
よし、ある程度の形にはなったな。土魔法と鍛冶、錬金術のスキルのおかげだ。スキルって偉大だよね。
「おはよ、問題なかった?」
「大丈夫だったよ、それからこれをあげるよ。」
「ありがと…? ってこれは…ナイフ?」
「初めて作った試作品だけど今のフィオさんは丸腰だからね、ないよりはいいでしょ?」
「それはそうだけど…」
「鞘とかはじいちゃんに頼んでるから好みのものにしてもらってね。オーガの革を渡したからいいものにしてくれると思う。」
「おはよう、おや? おやおや〜? フィオちゃんの持ってるそれは…?」
「あ、ばあちゃんおはよ。ばあちゃんにも…」
「ふぁ〜…おはよ〜…」
「おはよう。」
おっと… みんな起きてきたな。
ちょうどいいからみんなに渡しておくか。
「マギさん、ばあちゃん、ルイさん、これ受け取ってもらえるかな?」
「ティーロくん? オレにもなのかい?」
「ルイさんが今使ってる短剣はそろそろくたびれて来てるから繋ぎにでも使ってね。」
「あたしにもくれるのかい?」
「これくらいなら護身用に持ってても違和感ないだろうし、日常使いにもできるでしょ?」
「あらあら〜… このナイフって〜… みんなちょっとずつ〜形が違うのね〜?」
「みんなナイフを使うだろうけど用途が違うと思ったからね。ルイさんは戦うのに使うだろうし、ばあちゃんは錬金術のときにも使うだろうし、マギさんは少し小さい方がいいだろうしね。」
「私のだけ黒いしちょっと形が違うのね?」
「フィオさんのはちょっとね。詳しくはまた今度説明するけど… みんな受け取ってもらえるかな?」
いきなり刃物を配るなんてちょっとおかしいけどこの世界ならありだよね?
今向かってるバンス公国のトルドって都市は治安が悪いそうだから護身用にナイフくらい持っててもいいよね。フィオさんのは少し変わってるけど、それ以外はこの世界でもあるデザインにしてるからカツアゲされることもないはず。俺も一般的な剣に持ち替えてるし。
今日の運転手は俺で助手席はじいちゃん。なんかマギさんがナイフについて話したいらしいからこうなった。
ほんとはじいちゃんには寝ててほしかったけどしょうがないね、みんなマギさんにはなんとなく逆らえないんだよ。
★ ☆ ★ ☆ ★
Side マギ
ほんっっっっっっとに!!!
ティーロくんは何を考えてるのよ!!
男が女に刃物を贈る意味をわかってるんでしようね!? それにこれただのナイフじゃないわよね…?
「それでマギよ、あたしらに話とは一体?」
はぁ… バルバラが冷静で助かったわ。フィオちゃんはナイフを贈られたことを理解してからはぼーっとして心ここにあらずって感じだしルイくんも… あんたもしかして…?
「フィ〜オ〜ちゃ〜ん、そろそろ〜帰って来てくれないかしら〜?」
「はっ!? ご、ごめんなさい! なんかティーロくんからナイフをもらう夢を見たみたいで… ってこれ!?」
「はいは〜い、現実よ〜。それで〜バルバラ〜、このナイフの〜材質って〜わかるかしら〜?」
「う、うむ… マギの想像通りさね。あたしは鍛冶師じゃないから合金の割合なんかはわからないけどかなり純度は高そうだよ…」
「はぁぁぁぁぁぁ…………」
もう! もう!! もう!!!
ため息しか出ないわよ! なんでこんなものをくれるのよぉ…
「マギ殿…? どうされたんだ、材質になにか問題が…?」
「あ〜… バルバラ〜頼むわ〜……」
「あ、あぁ… これはねぇ高純度の
「「え…?」」
「だ〜か〜ら〜 私たち4人は〜ティーロくんから〜
「ふぇ……?」
「なっ… あの町で
「たまにならあるけどねぇ、だいたいが宝飾に回って武器になることはほとんどないはずなんだけどねぇ…」
「そ〜ん〜な〜こ〜と〜よ〜りぃ〜、ここまでのことをされたんなら〜受け入れるしか〜ないわよ〜?」
「あの… 本当に
「ルイはわからんか。フィオちゃんならこれが
「は、はい… 本当に高純度です… 精錬したばかりのインゴットでもここまでの純度は出せるかどうかってくらいですね…」
「そういうことよ〜、だから〜私たちも〜そういう気持ちでいないと〜いけないわ〜。」
ルイくんが言ってる魔鉄もそれなりに希少、でも比較にはならないわね。
「あぁ〜…、よし、あたしは考えないことにするわ。それよりフィオちゃんのそれは変わった細工がしてあるねぇ?」
「え? あ、はい。何なんでしょうね、鍔のところに輪が付いてますし…」
「ドワーフのバルバラ殿も知らない細工ですか? オレもこんなのは見たことがありませんね。」
「ジークハルトなら〜なにか〜知ってそうだけど〜?」
「こういうのを教えると思うかい?」
「そうよねぇ〜…、昨夜〜何かやってたことと〜関係がありそうだけど〜きっと〜言わないわよねぇ〜。」
それから私たちは今夜の野営地までずっとナイフのことを話し合ってたわ。
魔法を使うときの補助になるだけじゃなく刃物としての実用性もかなり高いわよ。ルイくんとバルバラが言うには鉄のフルプレートならスパっといけるみたいね。
はぁ… ほんと、なんてものを渡すのよ…
作者です
少しでもいいなと思っていただければ
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