第30話 こんな国



 はぁ…………


 ほんと、聞いてた通り腐ってるなぁ…


 このトルドの街はいくつかの国と国境を接してるいわば玄関口にあたる街なんだけど、そこでこんな対応をされるってことは国自体がこういうことを肯定してるってことだろ?


 ほんと… 憂鬱だな…




 ★ ☆ ★ ☆ ★




「次!」


 バンス公国で交易都市と言われるトルド。マギさんの方針でここに来たけど高機動車は仕舞ってゴーレム馬車に乗り換えてある。


 本体は一般的な幌馬車サイズでそれを引くのは馬型のゴーレムにしてある。ゴーレム馬車の時点で普通ではないけどこれくらいならやる人もたまにいるらしいってことでこうなった。なんでこんなことをするかと言うと…


「おい、この馬車はなんだ? なかなかいい細工がしてあるなぁ… 没収だ。返してほしけりゃ金貨50枚な。」


 こうなるからだ。街に入る検問でこういうことをしてたら交易なんてできなくなるだろうに…


「…ティーロくん、対応はジークハルトに任せるのよ。ハンターが動くと厄介なことになるから。」


 小声でマギさんに注意される。眉間の皺がバレたみたいだね…


「次! ほぅ… 何人だ?」

「へぇ、男3人女3人の6人です。」

「女は3人か… ババアとガキに… お、若いのがいるじゃねぇか。それに魔人族か? その女をちょっと貸せよ?」


 あん…? こいつ今何て言った…?


「すみません、衛兵さんに言われたら断るのも忍びないんですがその女はうちの商会の大事なお客さんの奴隷でして…」


 そうそう、マギさんはじいちゃんが所属する商会と取り引きのある大商会のお嬢さんって設定で、フィオさんはその奴隷ってことにしてるんだよね。


「それがどうした? 俺らに逆らうのか?」

「いやいや! 滅相もない! ただ、この女は客であるお嬢さんの世話役なんでさ。お嬢さんの実家が通商連合から支店を出そうかの見回り中でして、この街に支店ができりゃあ兵隊さんにもサービスさせてもらいますんで今日のところはコレで…」


 えっと…… これは……?


「ほぅ… 期待しておく。入市税は1人銀貨1枚に馬車は銀貨5枚だ!」

「こちらで…」

「おう、入れ!」




 なんだよ… なんなんだよ…


 街に入るための入市税がかかるのはわかる。ただハンターにはかからないのが国同士の了解じゃなかったのか?

 エンリケのいた子爵領といい(17話参照)、ここといい… どうなってるんだ…?


 高ランクのハンターは難易度の高い依頼を受けるために国を跨いで移動することがある。人命や街の存続がかかることもあるから、その妨げにならないようにってことで全ハンターは入市税等は免除されることになっているはずだ。

 それに商人は商人ギルドを通して店のある街に売り上げ税を払うわけだからそれで済むことになってる。

 職人は逆に街にいてくれると街の発展に繋がるから免除になるって聞いてたけどねぇ…


 ここの衛兵は所属ギルドの確認もしなかったし女性を要求… それにじいちゃんが渡してたのは銀貨5枚くらいか? ああやって賄賂がないと街にも入れないのか?


(銀貨1枚≒1万円)


「はぁ!? 1人銀貨1枚!? 俺たちはCランクのハンターだぞ! ふざけんな!」


 あぁ〜… 普通そうなるよね…


「そうだな、わかったわかった。全員の名前を控えるから身分証明を出してくれ。」

「チッ 最初からそうしろよ!」




「ティーロくん… 振り向かずに聞いて、ああやって身分を控えるとどうなると思う?」


 マギさん?


「そりゃ何かあったときに手を貸すように言われるくらいじゃ…?」

「違うの。名前を確認されたハンターはバンス公国中に指名手配されて全財産没収の上で犯罪奴隷にされるのよ。あのパーティーには女性ハンターもいるからあの子は娼館行き、男たちは鉱山でしょうね…」


 は……?


「そんなことは…」

「ギルドが守ってくれるとでも思う? ハンターギルドがフィオちゃんやあなたにどうしたか忘れたの? ここはそういう国だしハンターギルドもその程度なのよ。」


 ギルドっていうのは同業者の互助会が大きくなったもので、参加者の利益や権利を守ってくれる… わけないか… たしかに最初の町で俺は守られたことはなかったな。守ってもらえたのはフィオさんやセシルさんが特別だったってことなのかもしれないな…(17〜18話参照)


「わかったかしら、自分の身は自分で守るしかないわ。1つ救いがあるとすればここバンス公国で指名手配されても通商連合に行けば関係なくなることくらいね。」


「それは何より…」




 ★ ☆ ★ ☆ ★




 ほんと、幸先悪い街だね…


「まだ昼前だけどこれからどうしようか?」

「そうじゃの、まずは宿を取って飯、それから散策かの。」

「オレもそれでいいと思う。とりあえず馬車を置きませんか?」


 じいちゃんとルイさんが言う通り宿屋に馬車を置かないとどうしようもないね。

 この街は道幅が狭くて馬車ですれ違うのはかなり大変だ。雰囲気もギスギスしてるし事故なんて起こしたらどうなるかわかったものじゃないからさっさと馬車を置きたくなるよ。




「えっと…? もう1度いいですか?」

「はい、3人部屋2つに馬車1台のお預かりで1泊銀貨15枚です。もちろんお食事は別料金になります。」


 なにがもちろんなんだ…?


「わかりました。ただ、隣の部屋にしてもらえますか?」

「それは…… はい、空いてますね。2階の5番と6番のお部屋になります。」




 宿屋に着いて部屋を取ったけどさ、この値段は高すぎない?

 風呂やシャワーはないし、トイレはあるけど各階に1か所。身体を拭くためのお湯は当然有料だし、部屋はベッドがあるだけでそのベッドも… 考えるのはやめとこう…


「それで〜、私たちが〜何も言わなくても〜隣同士の〜部屋を取った〜ティーロくんは〜お手柄よ〜。こういうところで〜離れた部屋になると〜なにかあったときに〜合流するのが〜難しくなるから〜。」


「そうだね。ほんとは角部屋から2つが理想だったんだけどあの雰囲気だと難しそうだししかたないね。」

「あとは部屋割りだねぇ、どうするんだい?」

「俺とルイさんは護衛のハンターだから分かれる方がいいよね、それとカバーストーリー的にマギさんとフィオさんは同じ部屋にしないとおかしいよね?」

「じゃあ、私とマギさん、ティーロくんでいいかしら?」

「フィオちゃん!?」


 あ、うん… 2人がルイさんと同じ部屋だと思うとちょっとモヤっとしてたから俺はいいんだけど…


「うん、オレもそれがいいと思う。お2人には悪いけど襲われるとしたらマギさんとフィオさんだと思うからティーロくんにはそっちにいてもらった方がいいよ。ティーロくんに負担をかけるけど頼む。」

「あ、はい。大丈夫です。でも2人は…?」


 そう、俺はいいけどフィオさんとマギさんがどう思うかは別問題。フィオさんとは同居させてもらってたからいいにしてもマギさんとは…ね。あれから数日経っていて周りに誰かがいる時はまるでなかったことのように振る舞ってるけど俺と2人になるのは避けられているように思う。


「私は一緒に住んでたし問題ないです。マギさんはワガママ言ったりしませんよね?」

「ちょっとぉ〜!? どういう〜意味かしらぁ〜? まさか〜フィオちゃんは〜私が部屋割りを〜ワガママで〜決めようとしてるなんて〜思うの〜?」

「そんなことないですよ? だから言ってるじゃないですか、ワガママは言わないでしょう?って。」

「い、言うわけ〜ないわぁ〜!」

「なら私とマギさんとティーロくんですね。バルバラさんたちはいいですか?」

「あ、あぁ… あたしは構わないが…」

「わしも構わんぞ。文句を言っていたのはマギっ……」

「なにか〜言ったかしらぁ〜?」

「な、なんでもないわい。」


 マギさんこえぇ…… 殺気だけならエンリケよりよっぽどだよ…





作者です


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