レボリューション

アラバァ〜♪ ル〜ィヤ〜・・・・・・♪


 「トレイナーッ!!」

 鼻歌を歌い、膝から崩れ落ちるトレイナー。

 ベガルードの声は届かない。


 「もう十分だ。諦めろ」

 十指のひとり、ピカデールが見下すような目を向けて言う。

 

 「城の方も、もうまもなく堕ちるだろう」


 ・・・・・・。


 城壁の向こうから細い煙が何本も上がっているのが見える。



 「ヤン、ミカデ。セイラ殿を連れて、城に向かえ」

 追い詰められた4人。

 ベガルードがかすれた声で伝える。


 「しんがりはわしの最後の努め。いいな、命令だ。王だけは何があっても守り抜け」


 ヤンとミカデは、震えながら立つセイラを担ぎ上げて城に向かって走り出した。


 「逃すかーーーっ!」

 十指が後を追おうと踏み出したところ、ベガルードの斬撃が行手を阻む。

 「簡単には通すことはできない」

 ベガルードの剣気が異様に膨れ上がった。

 「・・・・・・通さない」

 構えるでもなく、飛び掛かるベガルード。

 「玉砕覚悟か・・・・・・」

 6人が一直線に並び揃ってベガルードを迎える。




 - 夢幻跳馬 -

 シンの刀が、鋭くうねり、マトリアムへひとりでに向かって突き進む。

 

 「これは、軽いぞっ」

 マトリアムが長物を器用にくねらせシンの刀を受ける。

 ワケバテックは、それを一瞬横目で見るとすぐにシンへ視線を戻した。


 いないっ!


 「一瞬の隙、それこそ勝負の真骨頂・・・・・・」


 ワケバテックが後ろを振り向こうとすると・・・・・・。

 「なんだ、これは・・・・・・」


 自分の体を貫く何か!?

 目に見えぬ刃を激しい痛みとともに強く感じた。

 

 - 奥義 有幻品の諺 -


 ワケバテックは、体の中心から血が溢れ、そのまま頭まで真っ二つに切り伏せられた。


 ワケバテックの返り血を浴び、シンの服は染まっていった。



 「奥義ですか・・・・・・」

 マトリアムは、割れたワケバテックには全く視線を向けずに、一層目を凝らしてシンだけを睨む。

 「邪魔がいなくなれば、気にせず刀を振れる」

 マトリアムの長物が、さらに丈を伸ばし、その長さは優に超大型の魔物でさえも一刀両断出来る程になった。


 「所詮は人間、次はシン、お前が真っ二つになるんだ」


 シンは、上段には目に映る刀、下段には目に映らない、無色透明な刀を構えた。


 「まったく・・・・・・手強い。だが、もうチンタラ長引かせない」


 シンが、腰を下ろし足に力を入れる。


 「同感です」


 マトリアムの長物が先が見えない程直線的に真上に構えられた。


 

 騒音響く戦場において、一点無音の空間が生まれた。


 はるかに長い間合いを持つマテリアルが、先んじ得ないのは、シンの左手にあるであろう無色透明な刀から並々ならぬ殺気が放たれているからだ。


 水面に落ちるひと雫、その刹那、シンがガハッと踵を返して、マトリアムとの距離を取った。そして、遠くを見つめた。


 神経を研ぎ澄まし、シンと対峙していたマトリアムは、何が起きたか一瞬では理解出来なかったが、ズシンッと頭や肩にのる、異様なまでの圧に絡め取られ、自然とシンと同じ方向に目を向けた。



 戦場における特化戦力の各々方が、一斉に動きを止める。


 5人の十指に囲まれ、跪くベガルードの口元が緩む。

 

 「おい、あれらはなんだ?」

 十指のひとり、アニ・ジーが遠く離れた崖の上の影を指さして言う。


 !!!


 ベガルードを囲んでいた十指達が、一斉に退く。


 ザッ!ザッザザザッ!


 鋭い勢いで、ベガルードの周りに太いモリが何本も突き刺さる。


 「新手か・・・・・・」

 


 「いくら、レオン様でもさすがにこの距離では・・・・・・」

 「なんだマケロニ、お前は、わしを年寄り扱いするのか?」

 「いやいや、年寄りがこんなバカでかいモリをあんなところまで一直線に投げられるもんですか!」

 「ガハハハッ、なんだ褒められてたのかー」

 「いや・・・・・・、褒めてるとか、そういうのじゃありませんが・・・・・・」

 「まあ、よい。野郎ども、さっさと助太刀して船にもどるぞっ!」


 オオオオオオオッッッッッー!!!!!


 戦場に響き渡る怒号。

 兵、魔物、城に避難するアイ王国の民衆にも届くほど。


 崖から滑り降りる一団に注目が集まる。

 「ギギギッ、なんだお前ら?」

 1000名にも満たない小規模部隊だが、全員が黒々と肌を焦がし、首が見えぬほどの筋肉を纏い、甲殻な手には鋭いモリを握り、ボロボロの腰巻きだけを着けており、おおよそ兵士とは思えない見た目をしているが、一人ひとりの戦闘力で言えば、破壊的な力を有しているのは一目瞭然だった。


 「ギギギッ、答えろ!なんだお前らはー」

 近くにいた、魔物達がすぐに反応して襲いかかるも、チリを払うようにまとめて吹き飛ばされた。


 その集団は二手に分かれ、一方は城へ向かい、もう一方は戦場の中心部へ向かった。



 「ポン軍師ー!援軍です。南よりシード海賊団の援軍が・・・・・・」

 住人避難に対応していたポン軍師に一報が届く。

 「・・・・・・シード?南海の覇者がここに?」

 救われたと思うより、疑問符が先に頭をよぎる。

 「数は約1000、その半数が驚くべき突破力でこちらに向かっています!」

 ポンは考えるのをやめた。

 「分かりました。とにかく住人の避難を最優先で進めてください」


 ハッ! 



 ザイード、ゾッド、ピカデール、イカムニクデリアン、アニ・ジー、そして、グアナボード。十指6人の目線は、一点に集中し固まる。

 ドタドタと不恰好に走り向かってくる人間の群れ、その先頭をいくひとり。レオンである。


 「散らばって、魔物達を殲滅するんじゃ!」


 レオンの号令に、まとまっていた男達がばらけ、散りぢりに魔物を撃破していく。



 ゼェ、ゼェ、ゼェ・・・・・・。

 「おまちどうさん!」


 レオンが肩で息をしながら十指の前に立ちはだかった。

 後ろにちょこんとマケロニの姿も見える。


 「ここ2日、寝ないでずっとここを目指してたんでな・・・・・・、歳には勝てんわな」

 「いやいや、特大のイビキが聴こえましたが・・・・・・」

 マケロニが茶々を入れる。

 レオンは、大きく息を吐いた。

 「そこの武人は返してもらう。貴様ら年寄りを寄ってたかって・・・・・・」


 アニ・ジーが何も言わず、黒いオーラを辺りに広げる。

 違和感を感じたレオンは足元をみる。

 体が重く感じる。


 他の十指が一斉に飛びかかってくる。


 「シャーーーーーーート、アウトッッッッッ!!!」

 前に飛び出したレオン。大声が轟く。


 レオンの右拳がピカデールの顔面を捉える。

 

 まるで綿を叩くように、拳が見えなくなるほどにめり込み、そのまま後ろに吹き飛ばされ、呪文を唱えていたアニ・ジーに激突した。


 「オッシャー!」


 声を上げるレオンにグアナボードの巨大ハンマーが振り下ろされる。

 ムンっ!脳天に当たる直前に拳を突き上げて防ぐ。

 ザイード、ゾット、イカムニクデリアンには、素早い3者同時攻撃で吹き飛ばす。



 「御仁、大丈夫ですか?」

 ベガルードの元へマケロニが、こそこそとやってきた。

 「へへっ、もう大丈夫、あとは我々にお任せください」

 マケロニは、ゆっくりベガルードの体を起こす。

 ベガルードは、眉間に皺をよせ目の前の戦いに目を向けた。

 「あの方は、我らがシード海賊団の先代頭領、レオン様です」

 「シード・・・・・・」

 「ええ、頭領のタージ様に言われてこの戦いに首を突っ込ませていただきます」


 くっ・・・・・・。


 マケロニの肩を借り、ゆっくり体を起こすベガルード。目の前の戦いに言葉を失う。

 「なんと・・・・・・」

 自分と歳がかわらないであろう、ひとりの年増の男が、あの十指6人を相手取り互角以上に立ち回っているのだから。


 その姿は、ある意味でベガルードの理想と言えた。


 「さあ、御仁安全な場所まで」

 「いや、ここでいい」

 「・・・・・・えっ--」

 「おそらく、この戦場で今1番安全なのはここだろう」

 ベガルードは、レオンの戦う姿から目を離さずそう言った。

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転生して勇者ケンジになりました。 大造 @IRODORInoSATO

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