悪戦苦闘

 「クソっ、エネルギーがもたねぇな・・・・・・」

 盗賊団ゼロの頭、イ・キュウは、両手の甲を見て言った。

 三角の印が薄いオレンジ色に光り、手の甲に浮かび上がっている。

 イ・キュウは、ひとりですでに4体もの超大型の魔物を葬っていた。

 対峙するのは、十指のひとり、クロードが肩に乗る、超大型の中でも頭ひとつ飛び抜けて魔物と、他に2体。


 

 「トレイナーといい、俺のかわいいペット達を次々に・・・・・・ギィィィ」

 クロードは怒りに体を振るわせながら、イ・キュウを睨みつける。


 「手下に手柄はやれんのでな。さっさと終わらせてやる。ほら、かかって来い」

 片手で、クイクイッと手招きする。


 「あ゛--。くそっ、調子に乗りやがって。8号、7号は、横から!全員で囲んで始末しろ!」

 クロードの指示に、3体の超大型魔物が激しく動き出す。戦場全体が揺れる。

 イ・キュウは、飛び上がりそのままの勢いで、左からくる魔物の顎を蹴り上げる。

 体勢を崩す魔物を足場に、向かいの魔物の胸に目掛けて掌底をぶち当たる。

 小さく悲鳴をあげ、超大型魔物が膝から崩れ落ちる。


 フンッ。と鼻を鳴らして崩れ落ちる魔物を見下ろすイ・キュウ。しかし、クロードの乗る魔物の拳が振り下ろされる。


 イ・キュウは横目で動きを捉えるも、空中では避ける事も出来ず直撃し、勢い良く地面に叩き付けられた。


 間を開けず、踏みつけるように、大きな右足が上から落とされる。


 ムンッ!


 信じられない事だが、イ・キュウは比べるとあまりにも小さい拳で相手の足を払いのけた。それから瞬時に体を滑らせて移動した。


 「重てぇなぁー」

 イ・キュウの手の甲の模様は点灯を繰り返し、そして赤くバツの印に変わった。


 「あーぁ、こりゃまずい・・・・・・」

 

 クロードは、魔物の肩からイ・キュウの目の前に飛び降りる。

 「・・・・・・お前のその異常な力は、手の紋章からくるのか?・・・・・・興味深いな」

 クロードは、訝しげにイ・キュウを見つめる。

 「さあな・・・・・・」

 「まあ、いい。貴様を倒してじっくり解剖してやるよ」

 そう言うと、クロードは、メキメキ音を立てて自らの体を変化させていった。


 「チッ、めんどくせぇ・・・・・・」

 イ・キュウが、舌打ちする。


 クロードは、身の丈30メートルは優に超える大蛇に成り変わった。

 「トレイナーに見せて怖けさせようと思ったがな・・・・・・。ハハハッ」


 超大型の魔物と、大蛇を前にイ・キュウはため息を吐いた。

 「こりゃ、割にあわねぇし、めんどうだ」




 ズドーーーーーーーーンッ!!


 辺りが大きく揺れる。大きな破壊音を聞いて、ポン軍師は自分の血の気が引いていくのが分かった。


 「西の城壁に敵が乗り込みました!」

 「展開していた部隊は?・・・・・・」

 「超大型1体の侵入を許し壊滅。周囲の部隊で対応していますが、勢いが凄まじく・・・・・・」

 「私も向かいます!守備兵は、あまり持ち場を離れないように。他が手薄になっては、対応が難しくなります」

 ポン軍師は、小隊を引き連れて走った。


 向かう先から、悲鳴が聞こえてくる。


 「住人の避難を最優先に!城の中へ逃げるように伝えてください!」

 走りながらも次々に指示を出す。

 「くっ、油断した。まだいけると思ったが・・・・・・。王子、王女、どうか急いでください・・・・・・」



 -------


 反撃の糸口も見えぬまま、ネオバーンからの攻撃をなんとかやり過ごすケンジ。

 距離を詰めようにも、間合いが広く、且つ、小回りもきくネオバーンの攻撃に、ケンジの攻め手では明らかに手札が不足していた。

 

 <真一文字一閃>


 ケンジは唯一の中距離攻撃を、刹那、刹那の瞬間に繰り出した。

 結局は、ネオバーンに躱され、また弾かれダメージを与えることは無いのだけれど。

 ネオバーンが、剣気を上げる。

 周囲の空間が捻じ曲がり、邪悪な気配がより一層濃くなった。


 ケンジは不思議と恐怖の念は感じておらず、ただただネオバーンの隙を見出し、直接胸の奥の心臓に剣を突き刺すことだけを考えていた。

 ・・・・・・さて、その隙がどう生まれるか・・・・・・、生み出すか・・・・・・。



 ネオバーンとケンジが屋上でやり合っている。

 タージ、イヂチ、そしてショウの3人は、魔法により姿を消し、さらに小さな音も出さぬよう細心の注意の上で屋上に登り出た。

 魔法を解いて3人がやっと収まる窪みに身を隠す。

 「いい?」

 タージの小声に、2人が頷いた。

 イヂチ、ショウは、それぞれ目を閉じて詠唱をはじめた。

 

 ズズズズズズ・・・・・・。

 建物の壁を伝い地上から砂が集まってくる。


 激しい衝突音が響く中、3人は、ネオバーンはもちろん、ケンジにも気付かれないように静か反撃の整えていった。


 「あと、どれくらい?」

 「・・・・・・」

 「5分ー!?長いわっ。3分で集めてよ」

 タージは少し顔を上げてケンジの様子を覗き見た。

 「だめよ!2分で集めて」



 ケンジとネオバーンの間では戦いが激しさを増していった。

 ただし、手数や威力の強いネオバーンの方が、どう見ても優勢に見える。

 間合いの長い攻撃に加え、間を縫って強力な魔法も放ってくる。

 一瞬も気が抜けない。ケンジは一切の雑念を捨てて、戦いだけに集中した。


 「不思議だな。力の差は圧倒的なんだが、決定打が決まらない・・・・・・」


 ネオバーンは、急に手を止めてそう言った。


 ハァ、ハァ、ハァ。

 ケンジは、構えを解かずネオバーンに対峙した。


 「・・・・・・ゲームマスター」

 

 「なっ、なに?」

 ケンジはネオバーンの言葉に耳を疑った。


 ネオバーンは、指を1本ケンジに向けた。

 黒い光線が、ケンジの額に向かって飛ばされた。

 ケンジは咄嗟に剣身で光線を受けた。


 「・・・・・・」

 次は、黒い光線を複数同時に飛ばした。


 ケンジは剣を振り全て受けきった。


 「・・・・・・」


 「なんの真似だ!?」


 「お前が受けた、今のは、喰らっていれば絶命免れない死の黒線。たとえ十指であっても簡単には防げない」


 「だから、なにがしたい」


 「・・・・・・ゲームマスター」


 「ゲームマスター?さっきから何を言ってる」


 クククっ。

 「ゲームマスターのケンジ。お前を倒せばこの世界は完全に我が手にはいる。裏を返せば、貴様を倒さねば・・・・・・」


 大魔王ネオバーンは、邪悪なオーラを今までにないほど顕に曝け出した。


 「すべてはお前を消せばいいんだ!」


 !!!


 ネオバーンは、気配をも置き去りにする速さでケンジに襲いかかる。


 コマ送りのように接近してくるネオバーンをケンジは目で捉え切れず、体が傾き硬直してしまう。


 あっ。


 少しだけ体が傾いたおかげで横にそれた剣に、ネオバーンの凶々しいオーラをまとった剣がぶつかった。


 簡単に全ての物質を両断する力。光の剣が受けてくれたが、余る勢いにケンジの体は簡単に吹き飛ばされ建物の屋根を突き破り王の間の床をも突き抜け、ゼットと戦った空間の床に叩きつけられて、ようやく止まった。


 床にめり込んだケンジの体はピクリとも動かず、崩れ落ちるガレキに囲まれて沈んでいった。

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