試行錯誤
大魔王ネオバーンは、拳を高く突き上げた。
ズズズズズズッッッッッ・・・・・・。
低い音をたてて、天井が中心から開き、薄紫の空が顔を出した。
乾いた風が吹き込んできた。
「決め手に欠ける・・・・・・」
ネオバーンは、ゆっくり浮かび上がっていきつぶやいた。
ケンジも崩れた瓦礫を足場にネオバーンの後を追う。
「ケンジッ!」
タージの声が届き、ケンジが振り返り、タージに向けて言う。
「大丈夫」
「ケンジッ!私たちもすぐ行くからな!」
ケンジはひとつ頷いて行ってしまった。
「急ぎましょう。わたしは、イヂチの作戦に賛成よ。ショウはどう?」
「・・・・・・うん」
「・・・・・・ショウ、チャンスは一度きり。今のあなたにそれが出来るの?」
「やるだけ・・・・・・やるわ」
ショウは立ち上がった。
「痛っ・・・・・・、なんとか動けそうだわ」
タージも立ち上がった。
「・・・・・・!」
イヂチも何か言い立ち上がる。
「ええ、たしかにこのタイミングで外に出れるのは大きいわ。二度は無い。いいわね?」
「わかってる」
ショウは口に出し、イヂチは頷いた。
「準備が整うまで、頼むよ・・・・・・。ケンジ」
巨大な建物の屋根の上で、ネオバーンとケンジは対峙した。
「あんなに、狭苦しいところだと息が詰まるだろう--?」
ネオバーンは、両手を広げケンジに向かって言った。
「どうでもいい!さっさとかかって来い」
「お前は楽しくないのか?戦いが。全力で剣を振り下ろし、全力で防ぎ。考えるよりも先に動く体を信じて、戦いに酔狂していく。今まで培った技を繰り出し、経験を経て見える相手の隙に斬りかかる。致命傷とまではいかないダメージを積み重ね、先に見える勝利を掴むためのプロセス、これこそ戦いの醍醐味。お前もあるだろう?」
「何言ってる?お前の楽しみに付き合ってる訳じゃない。こっちはお前を倒し、この大陸の人々の平和にする為に戦ってるんだ!」
「嘘言うなっ!!魔物退治は趣味の一環であろう?経験値を高め、技を研鑽し、如何に強い敵を早く仕留めるか?自分や仲間を最大限まで鍛え上げ、出来る事は全てやる。そんな自己中心的な目的を持ってる奴が、平和を口に出来るのか?」
「・・・・・・なに?・・・・・・何を言っている」
「ん?何を?・・・・・・クククッ。お前の事を言っているんだ。ケンジ」
「・・・・・・お前は一体・・・・・・」
「まあ、いいさ。・・・・・・お前に付き合ってやってる。とことんな」
ネオバーンは、黒いオーラを纏う剣をケンジに向けて振りかざす。
クッ。
剣で軌道をずらして躱す。
衝撃で建物の一部が崩れ落ちる。
衝撃音が響き、地上で戦っていたノーメンの部隊も一斉に上を向く。
「あれが・・・・・・」
ノーメンの目は、遥か上空に浮かぶ一体の魔物に釘付けになった。
空間が歪む程の禍々しいオーラ。
周りの魔物たち、兵士たちも自分の戦いが頭から離れて、ただ上を傍観してしまう。
「たのむぞ・・・・・・」
ノーメンは、誰に聞こえるでもなく小さくつぶやいた。
アイ王国
魔物の大群は、ジリジリと王都への距離を縮めていた。
茶月教、ゼロ一派の活躍により、序盤では善戦し王都へ迫る魔物の勢いを止める事が出来たが、戦いも中盤となると、力で優る魔物達が、数で上回る人間を凌駕し、止める事が難しくなってきた。
戦場により近い城壁に移ったポン軍師は、なんとか城壁の外で食い止めるべく、直接部隊を指示した。
キャッ!
セイラが対峙していたピカデールに魔力で押し切られ、その衝撃で吹き飛ばされた。
「もう効かぬ。人間にしては大したものだが、それもここまで」
ピカデールは、両手を広げ気を高め激しい量の魔力を集中させた。
「さらばだ」
!!!
ピカデールの手から放たれた、魔力の塊はセイラのかすめて彼方へ飛んでいった。
キンッ。剣を納めミカデがセイラに駆け寄る。
「貴様、死にに戻って来たのか」
ミカデの攻撃は、ピカデールに寸前で躱されたが、セイラは守った。
「すみません・・・・・・」
セイラが弱々しい声を出す。
「いえ、十分戦っていただいております。ここは、代わります」
「ミカデッ!王は?」
ベガルードが、イカムニクデリアン、ゾッドの2体の十指を相手にしながら、叫んだ。
「中隊に引き渡し、城へ!」
「大丈夫なのかーっ?」
「信頼のおける奴らです!」
「よーしっ!フンっ!・・・・・・ヤン!トレイナー!」
ハッ!
4人の師団長は、セイラの前に集結した。
「おっ、ヤンよ。その左目はどうした?」
「・・・・・・油断しました」
ヤン・カナイの左目はえぐり取られ、左顔面は、血が流れている。
「ハハハッ、男前になったな」
ベガルードは、笑って言った。
彼らの前方に十指達も、全員集まり、睨み合う形になった。
傷を負い、肩で息をしているのは、人間の方だけで十指達はまだ余裕があるように見える。
「この難局、誰か良い案はないか?」
「・・・・・・」
「ちなみに、わしに奥の手はない!」
「ええ、あったらとっとと使って欲しいものです」
ヤンの言葉にその場にいた者の顔がほころぶ。
「わしらが抜かれれば、この戦いは一気に決まってしまう。アラン王が信じているように、ケンジ王子、ショウ王女が、まもなくネオバーンを必ず倒す。その時までなんとか持ち堪えねばダメだ」
「しかし、なかなか骨が折れます・・・・・・」
「セイラ殿は、言うまでもなく全力で。シンも十指2体を相手にしている。あのイ・キュウも、十指ザイードとデカブツをまとめて相手に奮闘しているんだ。ここで、わしらが死闘をしなければ、顔が立たん、わかるな?」
「ええ・・・・・・」
「ヤン、トレイナー、ミカデ!良いな。4師団長の意地を見せる時だ!」
戦況は厳しくなるばかり、城壁のポン軍師の指令も一層激しくなる。
「左翼、連合隊が敵の魔法攻撃に苦戦。また、第3師団へ超大型1体侵入し戦場は混乱、統制が取れません」
「左翼には、第3師団の魔法特化部隊を回してください。超大型は、ここで防がねばなりません。まずは、足元に聖水を散布。城壁から油壺付き火矢を一斉発射。その後、パドルで叩きます。怯んだ隙に全員で右足へ一斉攻撃を!とにかく動きを止めることを最優先に」
「ハッ!弓隊、第8棟前に集合!防衛隊8棟前にパドル準備」
物々しい雰囲気が城下、城内にも広がって来た。
女、子供でも動ける者は、負傷者を手当てし、矢を運ぶ。
「アラン王のご帰還はまだですか?」
ポン軍師は、フッと思い出したようにアラン王の事を口にした。
「第2師団の騎兵隊、到着直前に敵の強襲を受け身動き出来ません」
「それは、まずい!近くの第1師団の副長を直ちに向かわせてください!」
「ショーン!お前だけでも先に進め!城はもう目の前だ!」
「そうしたいのは、山々だがな。こうも、敵が強くちゃなかなか進めないよ」
城まであと300メートルほどの地点において、王を背負うショーン、カール率いる騎兵隊が魔物に捕まった。
「ショーンを囲め!」
脚が止まると騎乗では戦いづらい。
カールの号令でショーンを、中心に円陣を組んだ。
グハッ・・・・・・。
しかし、破壊力のある一撃になす術なく、周りの兵が、ひとり、またひとりと倒れていく。
「止まっちゃダメだ!少しづつでも進むんだーー!」
怯える馬をなんとかいなし一歩づつ城に近づく、しかし、ショーンとカールを入れても8人しかいない。手薄になる王の背中へ、容赦なく魔物達が襲いかかる。
!!
「まずいぞっ」
カールの目が、1体の魔物に止まる。
その魔物は杖の先をこちらに向け、大きな魔力を溜めていた。
「魔法がくるぞーっ!」
カールの声が届く前に、周りの兵が吹き飛んだ。
「王ーー!!」
直撃は免れたが、衝撃で王を背負っていたショーンは、騎乗から吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。
「ショーン、王は?」
四つん這いになりながらも、ショーンは片手を挙げた。
「まだ、息はある」
カールは馬を降りてショーンに駆け寄る。
『どうする?』
お互いの声が重なる。
「・・・・・・。ショーン、お前は剣を置いて城だけを見て走り抜けろ。俺が道を拓く」
「ああ、これじゃ隊長に顔向け出来ない」
周りを囲む強力な魔物達が、ジリジリと距離を詰めてくる。
『いくぞっ!』
2人が走り出した瞬間・・・・・・。
ドッゴーーーーーン!!
!!!
目の前の魔物達が吹き飛んだ!
「上だっ!」
カールの声に、ショーンも顔を上げる。
金色のドラゴンが遥か上空より凄まじい勢いで滑空してきた。
2人の上空で大きく翼を広げると、地上に突風が起きた。
周りの魔物を睨みつけると、最大限に広げられた翼を勢いよく閉じてみせた。
カールとショーンは、一瞬息が吸えないほど、辺りの空気が薄くなったと感じた。
凝縮され鋭い刃と化した風が幾つも起こり、次々に魔物達を薙ぎ倒していった。
あらたかの魔物を倒すと、尻餅をついて呆然とするカールとショーンに顔を向ける。
『ビッ、ビアンカ王妃・・・・・・?』
金色のドラゴンは、両手にそれぞれ、カール、ショーンとアラン王を優しく掴み、城に向けて飛び立った。
-------
「・・・・・・ドン」
「誰か見つかったな・・・・・・。とにかく急ぐぞ!」
魔王の居城に潜入しているドン・マッジョは、自身のあらゆる感覚を研ぎ澄まし、見るもの、触れるもの、耳に入る音、匂い。全てを記憶、記録していった。
なにせ昔より言伝えとして聞かされてきた、魔王の城へ実際に自分自身で入っているのだから。
「聞いていたよりも、圧倒的に広く、複雑だ」
下の方から、爆破音が聞こえてきた。
「エイ!」
「はい。ドン」
「この道、どちらからお宝の匂いがする?」
「うーん。難しい質問です・・・・・・。では、こちらだと思います」
唐突な質問に、エイは右にのびる通路を指差して冷静に答えた。
「よしっ、いくぞ」
ドン・マッジョは、左の通路に向かって駆け出した。
「・・・・・・ドンも、人が悪い」
「エイの直感を超えた、私の直感です」
しばらく進むと、小さな扉が見えた。
ドン・マッジョは、立ち止まって扉を見つめて言った。
「ふふふっ。エイ・・・・・・、お目当てにたどり着きましたよ」
ドンは、ゆっくり扉に近づいた。
鍵など付いていない。それほど普通、というよりも、貧弱な扉だった。
ノブに手を掛け静かに開けた。
目に飛び込んできた空間にドン・マッジョは固まった。
「なっ・・・・・・なんだ、この部屋は?」
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