2月 節分

 鬼はー外、福はー内、パララ、と豆を撒く。片付けがめんどいので、袋入りの小さいのだけども。今日、ふらっと出掛けた時に立ち寄った八百屋でお面を配っていたから、青日の頭の上には青鬼のお面が乗っている。鬼はー外、福はー内、とガサガサと袋を鳴らしながら豆を撒く。

「青日んちって豆まきするの?」

 睦千がそう尋ねたのは、青日が豆を買い店を出たすぐ後である。寒そうに辛子色のマフラーに埋もれる睦千は、ちょいとそこまでと言った格好で、思いの外寒かったらしい。だからもう一枚着なよって言ったのに、と青日は豆の入った袋を鳴らした。

「小さい頃にちょっとだけ? 散らかるからあんまりさせてもらえなかったけど」

「へー」

 訊いてきたわりに興味なさげである。

「恵方巻きとかもなかったなぁ。お行儀悪いからって」

「え、まじ?」

「まじ」

「じゃあ、ボクと節分するようになってから、恵方巻きやったの?」

「そうだね」

「恵方巻きも豆まきもしないって節分じゃなくない?」

「豆は食べていたし、お参りした時もあったよ」

「知らないよ、そんなお上品な節分……」

「おれんち、変なとこ気取っていたからねぇ。おれは豆まきも恵方巻きもしたいよ」

「そうね、楽しいことだけやろう」

 睦千は少し鼻を啜った。

「青日、好きなだけ豆撒いていいよ」

「やったね」

 と睦千が言ったので、青日は家中歩いて豆を撒いている。廊下、リビング、青日の部屋、睦千の部屋、お風呂場と台所。

「鬼はー外、福はー内」

 ばら、と睦千の足元に豆。睦千はきゅ、と太巻きを巻いていた。

「うわ」

 足元に散らばる豆の小袋にちょっと驚いた。

「あと玄関に撒いとこ」

「まってボクも撒きたい」

 手を洗った睦千が追いかけてくる。うわー、豆だらけだぁ、と睦千のやけに嬉しそうな声が聞こえている。

「睦千の部屋にも撒いといたよ」

「ありがた」

 でも、片付けといてよーと結構綺麗好きの相棒が言う。

「全部撒いたら片付ける」

 はい、と睦千が差し出してきた手に袋を三つ。青日も残りを手に持って、せぇの、と言った。

「おにはーそとー、ふくはーうちー」

 ばら、かた、ばらら、と玄関に豆が撒かれる。よし、と睦千はくるりと玄関に背を向ける。

「恵方巻き食べよう」

 結局、この相棒は験担ぎとか縁起とかはどうでも良いのだ、目の前の美味いものを食べる事が大体いつも大事なようで。青日は撒いた豆を回収しながらリビング・ダイニングへ帰って行った。

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