特バツの罪
第31話 BOSSと包帯
意識を取り戻したサツキは瞼を開いた。
まず気づいたのは椅子に縛り付けられた自身の身体。
どれくらい意識を失っていたかなんて彼には分からない。
周りを見てみても古風な家具が置かれた、高級そうな絨毯が敷いてある部屋。どこかの屋敷だろうか?今いるここがどこなのかも分からない。
だが、一つだけ分かるのはぐちゃぐちゃになっていた腕が元通りに戻っていたことだけだった。
「腕が、、、」
肘掛けに縛られている腕は、骨が見えるほど潰されていたはずなのに何事もなかったかのようだ。
ふと、サツキは隣でこちらを見ていたアルファに気づいた。
「僕が治してあげたんだ」
「あ、ありがとう。すごいね」
サツキはアルファの完全修復ができる技術力に関心した。
(あれ?もしかしてアルファって実はいい人?)
もしかしたら命令通りに動いているだけで悪ではないのかもしれない。
「じゃあもう俺帰っていいかな、、、」
「何言ってんの。完全体に戻せたんだ、君も改造させてもらわないと」
アルファは笑顔でそう言った。
(やっぱり悪いやつだったか)
サツキが視点を変え今度は前を向いてみる。前は前で異様な光景であった。
黒いスーツに、怒った男のような顔の仮面をつけたガタイのいい人物がずらりと並んでいるのだ。
しかしそれよりもっと変なものがある。
なんと、顔に包帯をぐるぐると巻いた人物がこちらを一言も発さず、動きもしないでただこちらを見ているのだ。
(すげー睨んでくるんだけど)
サツキは勇気を出して挨拶をしてみることにした。
「ど、どどどどうも。えっと、こんにちは。あの、どちら様です?」
しかし包帯は答えない。
「おーい、聞いてますかね、、、?」
包帯に手を振ってみようとしてみるが、椅子の肘掛けに腕が固定されているせいでそもそも動けない。
力を入れたら取れないかと少しもがいてみたが椅子がガタガタと揺れるだけだった。
その時、サツキの後ろのドアが開き男が入ってきた。
「あまり動かない方がいい。まだ麻酔が少なからずだが効いているだろ」
男はサツキの前に用意されていた椅子に座った。
「どうですかね。麻酔受けたことって歯医者ぐらいしかないからよく分からないかな、、、」
サツキがそう言うと男は立ち上がり、彼に近づいてきた。
何をするのだろうかとサツキはじっとみていた。
その次の瞬間、サツキは頬に強烈な打撃を食らった。
「痛いか?」
「あ、うん。分かった。これ麻酔効いてるね」
頬をさすりたいが今自分が縛られているせいでできないのが腹が立つ。おかしいなぁ、麻酔をしているはずなのに。
だが麻酔のことよりも気になることがある。
「そ、そのぉ、、、。あ、あなたがボス?」
「ああ、そうだ」
ボスは冷たい目つきでサツキを見ながら軽く頷いた。
「お前はサツキ、不二華サツキ。お前は何故今ここにいるか分かるか?」
サツキは眉を顰めた。むしろこっちが知りたい質問だ。
「何故って、、、。え、えっと。計画を邪魔しようとしているからでしょ?その、、、。戦争をビジネスにするってやつ」
「確かにそれはある。だが、計画の邪魔だから殺すのは特バツ以外にも警察だろうが一般人だろうが全て同じだ。私はその中でもお前に用がある」
ボスは立ち上がりサツキの目の前までくると、サツキの目線までしゃがんだ。
「お前は何故罰則を受けたか覚えているか」
「な、なんでそのことを」
「お前のことはお見通しだ」
ボスは鼻で笑った。
「罰則は仕事で失敗して、、、。使えないやつだと認定されてここへ」
「飛ばされたのが何故この街だと思う?この私が牛耳っている街で」
「ち、治安が悪いからかな?その、、、。特バツくらいだし、こんな街の犯罪者を相手できるのは」
「いいや、違う。お前は私がここに呼んだんだ」
サツキはボスの回答に、まるで闇討ちを食らった時並みの衝撃を心に受けた。
「呼んだって、あなたが?」
「そうだ。特バツには知り合いがいてな。そいつにお前をこの街で働かせるようにした」
「どんだけ俺に会いたかったんだよ、、、。電話とか俺の職場通せばいくらでも返事したのに」
サツキの言葉が気に入らなかったのか、ボスはもう一度顔面を殴ってきた。
さっきよりかなり痛いものだ。
「ちょっと麻酔切れてきたかも」
「私はお前に会いたかったのではない、殺したかったのだ。私はお前を許さない」
「失礼ですけど、、、。あなた誰です?」
サツキは本当に身に全く覚えがない。初めて話すし、そもそも人とあまり会話をしない。
許さないと言っているが何を許せないのだろうか。
「人は気付かぬうちに恨まれているものだ。そして、私はまさにお前の"覚えのない過ち"の化身。お前は今まで自分の過ちについて考えたことがあるか?」
「しょっちゅうだよ。小学生の時に人を殺さなきゃよかったとか、もっと強気でいれば学生生活でいじめられなくて済んだのにとか」
「過ちはそれだけではないだろ」
確かにそうだ。
まだまだ後悔や悪いことをしたことはたくさんある。いくつあってもきりがない。
だが恨まれるなんて特バツではよくあること。
ボスのような大物がなぜちっぽけな自分にキレているかなんてサツキには分かるわけがなかった。
「どうやらお前は全く分かっていないようだな。お前は何者だ?」
「ねえ、これ何の時間?」
「お前は何者だ」
ボスはさらに怒りを込めているが、それを抑えた静かな声でサツキに問いかけた。
「えっと、、、。ダメなやつかな」
「それだけか、なら私が教えてやろう」
「いいか?お前は社会的弱者で負け組だ。生きる価値のないゴミ。道端で死んでいるゴキブリ以下のクズ」
すると男は包帯の人物の肩に優しく手を置いた。
「そして、私の息子を傷つけた男」
「は?」
サツキは戸惑った。
「息子?あのめちゃくちゃこっち睨んできてる人が?」
「そうだ。包帯でわからないか?お前のミスのせいでこうなったんだぞ」
サツキは自分のミスを振り返ってみた。
自分が小さな時から特バツになるまで。
親に拳骨喰らったなぁとか、沢城さんに怒られたなぁとか。考えるとキリがないが記憶を辿っていく。
「ここに来る決定的な仕事のミスとなったこと。崖から車で落ちたお前は、車で私の息子をテロリストと一緒に潰した」
ボスのその言葉でサツキの中の"とあるミス"が確定した。
まさかあのことか?
ここに飛ばされる決定的な理由となったあのことか?
となるとこの包帯の人は、、、。
「え!?ちょ、ちょっと待って。まさか息子って、、、」
「ようやく分かったか」
ボスの息子は包帯を解いていく。
そして、その人物の顔がついに現れた時。サツキは目を丸くした。
「小堺スミカズ。私の可愛い唯一の息子」
傷だらけだが分かる。その顔は間違いなくサツキの先輩。
小堺だった。
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