第30話 デンワ
ごろごろとあたり一面に転がっている死体。
ツツジは血が滴るほど人を殺したナイフをしまって腰に差した。
「あんまり敵がいなくて殺し甲斐がないな。つまんない」
もっと数百人でくるかと思っていたのでツツジは肩透かしを食ってしまった。
(部屋はもう全部見たがエースはいなかったな、、、)
ということは自分の方は当たりではなかったようだ。
「とりま、先輩のところに向かってみるかぁ。隣のビルの頂上にいるはず」
ツツジはエレベーターに乗り、一階までのボタンを押した。
一階より上だと、別の館に通路で繋がってもいないとはなんとも不便なツインタワーである。
するとその時、静かなエレベーターの中で携帯の着信音が鳴り響いた。
「あー、レオ、、、」
電話主に舌打ちをしてツツジは通話を開始した。
「お疲れ様です、ツツジさん。サツキさんと電話が繋がらなくてツツジさんに電話させてもらいました。変だなぁ、GPSはエースのビルの中なんですけどね、、、。今、一緒にいます?」
「先輩なら今は二手に分かれているんで居ない。でも合流する予定。なんすか?何の用?」
ツツジは眉を顰めた。
「いやサツキさんに伝えたいことがございまして」
「あっそ」
ツツジは冷たい返しをした。
それを聞いてレオは薄々と勘づいていたが、言い出せなかったことを言ってみることにした。
「あの、、、。ツツジさん」
「なに?」
「私たち仲良くしません?敵意マックスじゃないですか。言っときますけど、本当に私サツキさんに微塵も恋愛感情とかそんなのないですから」
むしろ彼女は恋愛なんてアホらしいものであるという考えだ。
レオは恋をしたことは今まで一度もないし、今後も一生無いという自信がある。あったとしても映画に出てくるキャラ、特に殺し屋が好きなくらいだ。
「、、、信じていいんすよね?」
「はい」
「裏切るなよ?」
「もちろんです」
「本当に微塵もないんすよね?一瞬でも先輩に惚れそうになったこともないんすよね?」
「一瞬もないです」
レオはサツキをすごいと思ったことはあるが、かっこいいとか、好きになるとか思ったりはなかった。
「いやまあ、確かに顔はどストライクですよ?でもそれ以上に陰キャで根暗な性格が、、、。生理的に無理ですね」
「それが萌えるんでしょうが」
「えぇ、、、」
レオには理解ができなかった。
「確かに先輩は学生の時いじめられっ子で男子にはボコられ、女子からは陰口言われて、教師からは将来性なしと言われた可哀想な人です。でも本当に最高な先輩なんすよ、マジで」
「ボロクソ言い過ぎですよツツジさん」
ツツジは一体サツキのどこが気に入ったのだろうか。サツキには欠点しかないというのに。
「というか、私はこんな話をするために電話したわけじゃないです!」
「そっちから仲良くしようとか言ってきたんじゃん。話を逸らしたのはそっちでは?」
「いや、それはツツジさんが、、、!あーもう!分かりました!!私が悪かったですよッ」
「はいはい、落ち着け落ち着け」
自分から喧嘩をふっかけてきたくせにツツジはまるで自分が大人であるというようにレオを宥める。
ちょうどその時、ツツジはエレベーターが一階に到着し、サツキが乗って行った方のエレベーターに乗り換えた。
「で?何を先輩に伝えればいい?ボスの居場所とか?あはは、そんな早く見つかるわけないか」
「はい。ボスの居場所です」
「、、、なんて?」
聞き間違えだろうか。
ツツジは思わずもう一度聞き返してしまった。
「ボスの電話番号あったじゃないですか」
「そうっすね」
「あれを使ってボスが使っている端末への侵入が成功したんです」
「ええっ!?そりゃまたどうやって!?」
「ダメもとでちょっと原始的な方法を、、、。ふふっ、、、」
レオは何故か吹き出しそうになりながらも一呼吸おいて落ち着かせてから話を続けた。
「いや、あの。"抽選おめでとうメッセージ"でここからプレゼント受け取ってくださいってURL貼ったら踏んでくれて」
「マジすか」
「マジですよ。んで、これが面白いくらい引っかかるから楽しくなっちゃって。他にもメッセージ送っていろんなウイルスぶっ込んじゃいました。お気に入りなのは虹色に光るサンショウウオ人間が踊るやつです」
「、、、お年寄りだったのか、もしくは世間知らずのガキなのか」
そんなんでどうやって生きてきたのだろうか。
ツツジは敵ながら世間知らずなところが心配になった。
「まあ、現時点ではどっちでもいいです。とにかく端末を乗っ取ったことでボスの居場所。そして、正体までまるっとわかっちゃいましたよ。あとで送りますね、もしかしたら知っている人かもしれませんし」
「、、、レオ。君って、マジですごいんすね」
「だから仲良くしましょうって」
レオの言う通りかもしれない。確かによく考えたら仲悪くする必要などないではないか。
ツツジはそんなことを考えながら、頂上に到着したエレベーターの扉が開いたので廊下を歩き始めた。
「あ!あと、もう一つ伝えたいことがあります!」
「どしたん」
「ボスとエースのやりとりを見つけたんですけど。本当はエースはエースじゃなかったらしいんです!」
その言葉にツツジは思わず止まり、首を傾げた。
「、、、なに?どういうこと?哲学?」
「エースじゃなくて、あれアルファって読むらしいですよ!」
「まって、アルファ?アルファってαβγとかの?」
「はい」
「そこは普通、ギリシャ文字の小文字使うもんじゃないすかね?」
「ですよねぇ」
疑問で若干心の中がモヤモヤしつつも、ツツジはまた歩き出した。
すると角を曲がった時、大きな扉を見つけた。
そしてもう一つあるものを見つけた。
「ん?あれって、、、」
よくみると扉の前に落とし物がある。
ツツジはそれを視認すると、思わず持っていたスマートフォンが手から離れた。
落ちていたのはベッタリと血がついているスマートフォン。
しかも、ただのスマートフォンではなく見たことがあるものだ。
間違いなくサツキのものである。
「先輩、、、」
ツツジが力強く握ったサツキのスマートフォンをじっと見つめていると、突然彼のスマホに非通知の電話がかかってきた。
ツツジは電話をとった。
「誰?」
「やあツツジくん。僕だよ、アルファ」
「先輩は?」
「場所を言えってか?そりゃ無理だ。でもまだ生きてるよ。まあ、君の行動次第では彼を返ってこないけどね」
ツツジに元気がなさそうなのが愉快なのか、アルファはこの彼女にとってとても深刻な状況を楽しそうに話している。
「最低限生きてるくらいにバラバラにして、意識がある状態で燃やしちゃうかも。どんな鳴き声を聞かせてくれるか楽しみだなぁ」
「お前さぁ、何が言いたいの?要件をさっさと言え。何か要求でもあんの?」
「ああ、そうだよ。この一件からもう手を引け」
突然真面目なトーンでアルファはそう答えた。
だが、ツツジにそんな気はない。
「どうせ私が諦めても先輩を殺すでしょ。返すって言っても死体じゃん」
「それについてはノーコメントかな」
「なるほど」
ツツジは怒りに燃えた。
彼女の声は冷静を保っているようだったが、実際は違う。諦めさせるどころか、これは宣戦布告にしかならない。
許さない、絶対に許せない。
「先輩に何かしたらお前を必ず殺してあげるよ」
最後に彼女はそれだけを言って電話を切った。
ツツジは落とした自分の電話を拾い上げ、耳にあてた。
「レオ」
「ツツジさんどうしました!?携帯落としたんですか?」
「ねえ、レオ」
「え?あ、はい」
「アルファはおそらくボスのところにいる。後でじゃない。ボスの居場所を今すぐ教えて」
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