第10話 犯人捜索を行います

 改めて一〇人で向かうこととなった。


 まもなく、先ほどのおぞましい光景が再び目に入る。二回目だからといって、慣れるはずはなかった。胃からこみあげた酸っぱい液体を食道で押しとどめ、飲みこむ。


 芦原がスマートフォンを取り出した。防水のもののようだ。


「え、ここ、電話かけられるんですか?」


 森が驚いたように尋ねた。芦原は、奇怪な生物を見るような目で彼を見やった。


「当たり前だろう。お前はいつの時代の人間だ?」


 そう言いながら芦原はスマホを操作し、耳に当てた。


「船長、串刺しにされた首だけの遺体が七名発見されました。犯人捜索を行います」


 軽く説明してから電話を切った。今の内容だけで船長が理解できたとは到底思えないが、情報伝達よりも犯人捜索が優先と考えたのだろう。


 芦原は、佐山に指示を出した。


「これらの遺体は機関科、通信科と俺で回収する。ここに置いておいても雨風の影響で悪化するだけだからな。航海科は、東端にあるという『神嵐館』の状況確認を頼む。確認が済んだら連絡をよこせ。殺人犯が潜んでいるかもしれないから、くれぐれも気をつけろ」


「承知しました。行こう」


 佐山が促したが、鴨尾は待ったを入れた。


「質問よろしいですか。ここに来た客は七人と伺っていますが、他殺体が七つあります。どういうことなのでしょうか」


 芦原が苦々しい顔をした。


「……知るか」


「失礼しました。航海長、行きましょう」


「そうだね」


 佐山を先頭に、慎重に歩を進める。雨が容赦なく体を打つが、この謎だらけの状況に比べればどうでもよかった。天ノ川のほうを見ると、考えこむような顔をしていた。鴨尾は彼女の肩を叩く。


「余計なことは考えるな。元刑事課の血が騒ぐのかもしれんが今は……」


「違います」


 何が気に障ったのか、真っ向から否定されてしまった。


 次に森を見ると、こちらは目をギラギラさせていた。好奇に満ちた目だった。場違いな表情に異様さを感じ、話しかけないでおいた。


 と、前を進んでいた佐山が立ち止まった。彼の視線の先を見ると、これまた想定外の光景だった。


 そこには、。海が広がっているだけだ。


「どういう……ことでしょうか、航海長」


「俺に聞かれても困るな」


 神嵐館とやらはどこに行ったのか。ガセ情報をつかまされたのか?


 そのとき、森が崖の端まで歩いていこうとした。佐山がすかさず叫んだ。


「おい、危ないぞ!」


「ご心配なく。細心の注意を払います」


 森は海を覗きこんだ。それから、首を大きく傾げた。


「うーん、全部流れてしまったかな」


 森の言動から鴨尾は状況を察した。


「まさか……」


 森は、さも当然のことのように答えた。


「そのまさかでしょう。神嵐館はすでに海の底です。地面から根こそぎ崩落したようです」


 鴨尾は唇を噛んだ。殺人の証拠のみならず、殺人現場ごと太平洋に沈んだというのか?


 森がビニール手袋を懐から取り出して着用した。その手で何かを地面からつまみ上げた。見せてもらうと、それは黒っぽい草だった。


「これは地面の芝です。煤が付着しています」


「爆弾、か?」


「と思われます」


 にわかには信じがたいが、状況が事実を物語っていた。森は懐からカメラを取り出し、付近の写真を撮り始めた。彼は元鑑識官だから、手際がいい。


 写真をひととおり撮り終え、佐山以外の三人は手分けして証拠探しを始めた。その間に、佐山が電話をかけた。芦原と今後の動きについて相談しているらしかった。


 佐山が電話を終えたのを見計らい、鴨尾は佐山のところに走った。


「これからどうされますか」


 その質問には答えず、佐山は尋ね返してきた。


「何か見つかったかい?」


「いえ、特には。天ノ川と森も同様です。すべて爆発の影響で海に消えてしまったようです」


「だよな。人間が潜んでいる気配も全くない。それに、ずっと雨ざらしだから我々の身も危険だ。ギョーカンは、犯人捜索を続けつつ戻ってこいと言っている」


 煤のついた芝生を採取し、撤収することになった。来た道を戻る。今度も人間をくまなく探しながら進んだ。この神々島は長径約二キロ、短径三〇〇メートルほどの細長い楕円形だ。館があった場所の芝生以外は、道路が一本走っているだけだ。誰かいたら気づかないはずがなかった。


 やはりというべきか、誰にも会わないまま芦原の元へと戻ってきた。芦原は眉間にしわを寄せた。


「どうなっているんだかな。まあいい。ご苦労だった。我々も撤収の準備はできて、お前たちを待っていたところだ。帰るぞ」


 二〇個の目で再び捜索したが、やはり不審者はいなかった。

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