彼女が憎んだものはなんだったのか

 大切な者を奪われたがために、復讐を誓った主人公。
 冷徹に状況を判断し、必要なときには断固として選択する強い意思。
 隠されたおおくの情報の断片から陰謀を読み取り、人の心の綾を操っておのれの優位に持ち込む。
 なにも知らぬままに「あるルール」の支配するゲームに巻き込まれ、姉と甥を理不尽に(そのゲームのルールを適用しているという意味では合理的な理由で)奪われた主人公は、そのルールを利用して復讐してゆく。

 しかし、だ。

 彼女に復讐される人々にもまた、哀しみの影がつねにまとわりついている。
 陰謀を巡らせ、人の命を奪って行く彼らはみな、それを楽しんでいるわけではない。

 主人公の仕掛けた罠にはまり、つぎつぎとゲームの盤面で命を散らしてゆく人々。

 そして残るのは……

 すべての人々からなにかを奪っていったそのゲームのルールとは、そもそもなんだったのか?
 『外戚が権勢を持つことを防ぐ』のが目的だったのだとしたら、それは達成されていたと言えるのか?
 「むかしからそうだった」というだけで繰り返された悲劇に、どうすれば終止符が打てるのか?
 主人公のやり方が正しかったのか、読者はやりきれない悲しさを募らせつつも、終章にいたって彼女の祈りが天に届いた、そのことにちいさな救いを見いだす、そんな読後感になる物語です。

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