最終話

それから私とお母様も帝国へと渡った。


先に帝国へ来ていたルビーに、私のしたことを全て話した。

ルビーは私が話を始めるとすぐに、怒りそのままに私のことを引っ叩いた。

私はお母様が止めに入るまで、なすがままにされていた。


ルビーとの気まずい関係は今でも続いている。


その後ルビーは、教会で治療行為を行っていたところを、街で小さな診療所を営んでいた男性に見初められて結婚した。

二人の仲睦まじい様子に、診療所は毎日患者が引っ切り無しに来院するようになったとか。


そんなルビーだが、年に一度は必ず教会に行き、そこで一日中祈りを捧げている。

――侯爵領の領民たちの冥福祈るように。




お母様がお父様の敵討ちに私を殺そうとすることは結局なかった。

お母様が購入していた屋敷に、私はお母様と暮らしている。

私たちの世話や屋敷の管理は、侯爵家の屋敷で働いてくれていた使用人たちが、引き続き行ってくれている。

使用人の私を見る目が、畏怖するものになっているのは、私がやったことが原因ね。


あの時、わたしのやろうとしてることを知ったお母様は、屋敷にいた使用人全員にその話をしたそうだ。その中にはお父様やルビーも含まれている。

私の話が嘘か本当かはともかくとして、普通はするよね。


今屋敷で働いている使用人は、お母様の話を信じて先に帝国へ渡っていた人たち。

お母様の言うこと、というより私にそんな魔法が使えるわけないって思った使用人は屋敷に残ったそう。

その中にはお父様も含まれていた。




「あの人とは政略結婚だったから。結婚前から愛人を複数囲っているの知ってたからね」


お父様、思った以上に最低な人だったんですね。

まあお父様らしいといえば、らしいのかしら……


「ねえサンドラ。あなた何で、ルビーと私を逃がすようなことしたの?」


「何ででしょう……じぶんでもよく分からないの」


お母様にもルビーにも話をしなかったら、あのまま屋敷の人間全員隕石で消し飛んでいた。

でも私はその話をお母様にした。

ルビーにも、帝国に渡るようにそそのかした。

その結果、難を逃れた人がいる。


「どうしてなのか……あの時の私の行動が、自分でもよくわからないの」


「サンドラ……ごめんなさい」


とお母様は私を優しく抱きしめてくれる。

私の肩に冷たい感触が伝わってきた。

みるとお母様が涙を流していた。


「お、母様……」


私の目から冷たい感触が頬を伝っていくのを感じた。

今度は私の目から涙が流れていた。

悲しいことなんて今思ってないのに、何で……。


「わ、私……」


涙を止めようとしてる。

でも目から流れる涙は止まらなかった。




私の魔法は意外と使えた。


今では私のことを『出来損ない』と蔑む人はいなくなった。


でもこの魔法を使う機会は来てほしくない。


今はそう願ってる。


~完~

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