第17話
それから私はルビーと湯浴みを済ませて、一緒に侯爵家を後にした。
結局ルビーは帝国に行くことを決めた。
私も途中までは同行していたが、やることがあるので途中で別れた。
今私は、侯爵領から距離が離れている場所で、なおかつ侯爵領が一望できる高台にいる。
「サンドラ……」
私に声をかけたのはお母様。
歩を進めるたびにスカートの布がお尻に接触し、先ほどの痛みがヒリヒリと襲う中、覚束ない足取りで私の元まで歩いてくる。
「遅かったですわね? お母様?」
「だ、誰のせいだと思ってるの!?」
「主人に対して口答えですか?」
「ひいっ……!?」
とちょっと脅したらその場に尻もちをついてしまうお母様。
尻もちがつくだけでも痛みで悲鳴を上げてしまう。
ほんと、かわいい玩具ですわね。
「そんなことより、本当なの? さっき言ったこと……」
「ええ。本当ですよ…………今からシュタイン侯爵領を消します」
私の言っていることがいまだに信じられないお母様。
まあ、無理もありませんよね。普通に考えたら何言っているんだって話ですから。
でも今の私にはそれができます。
「カブル伯爵領で起きた謎の爆発事件はご存じですよね?」
「ええ…………まさか、貴方が……?」
「今からお母様には特別席でお見せいたしますわ」
私は空に意識を集中させて魔法を発動させる。
今見えている夜空の更にその先……見えないけど存在している『宇宙』。
宇宙に漂っている『隕石』を魔法を使って操作する。
侯爵領に降らせるのに丁度いい大きさの隕石を、丁度いい速度で、侯爵領へ向けて落下させる。
隕石が近づくにつれて、ゴゴゴゴゴゴ!!!と重音が響いてくる。
夜空に灯りが見えたかと思ったら一瞬のうちに侯爵領の中心地に着弾。
激しい爆発を伴い、侯爵領一帯を更地へと変えた。
先ほどまで領地に存在していた小さな光の群れは一瞬のうちに消失し、真っ暗が包み込んでいた。
「今のは……本当にあなたの魔法なの……?」
「ええ。私の魔法です。跡形もなく侯爵領を消しました」
「侯爵領にはたくさんの領民がいたのよ……」
「そうですね……」
「屋敷には旦那様だって……」
「それが?」
最初事態が呑み込めていなかったお母様だが、ようやく事態を理解できるとその場にうずくまってしまった。
お母様は、今日の夕食かしら? それをすべて地面に戻してしまっていた。
私? 私は別になんともありませんわ。
「大丈夫ですか? お母様……」
「あなた……どうしてそんなに平気なの?」
「さあ? どうしてでしょう? 私にもよくわかりません」
私の魔法でたくさんの人が死んだ。
私が殺した。
でも……
「ピエール様も、ガーネッタ様も、お父様も、使用人や領民も、みんな私の魔法で死にました。私が殺しました……でも……何の感情も湧いてきません」
「サンドラ……」
私は、何かが壊れてしまっているのかもしれません。
お父様たちに対して、恨みがあったかと言えば、別にそうでもない。
本当に……何の気持ちも湧いてこなかった。
今たくさんの人を殺したのに、罪悪感一つ湧いてこない。
「用事は済みました。行きましょう。お母様」
「……え、ええ……」
更地となった侯爵領。もうここにいる必要もないのでこの場を後にする。
去り際、お母様に対して声をかける。言っておかないといけないことがあった。
お母様がお父様を愛していたのなら、彼女にはその資格があるから。
「お母様……もしお父様の敵討ちがしたいなら、いつでも私のこと殺してもらって構いませんよ」
「…………」
お母様は私の言葉には返事をしなかったけど、私の後をついてきてくれた。
今回のことに罪の意識を感じる時は、果たして来るのだろうか。
その時私は、どうするのだろうか……
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