第26話 ぶっ飛び
罠魔法を使って冒険者の人から逃げたのはいいけれどここにたどり着くまでに結構長い距離を歩いた気がする。
後ろからは股を強く打たれて蹲りながらも僕を静止する声が響いてきて僕の足は恐怖で固まりそうになっていた。
誰かに助けを求めたい気持ちで周りを見渡すけれど道の脇に小汚いローブを着て座っている人達は面倒事が嫌なのか僕に目を合わせようとしてはくれない。
「待てやクソガキィッ!!」
後ろから大きな声がして振り返ると、僕を鬼の形相で睨みつけているおじさんがいた!
その人はドスドスと大股で走り、僕よりもとても早い速度で、股間を強打して稼いだ分の距離をドンドン詰めて追いかけて来ている。
「ヒィィッ!?」
走りながら罠をッ!いやいや、あれ3mまでしか維持できないんだよねぇ...。
そんなのカスみたいな魔法、今は使いもんにならないじゃん!!
「チッ、これ以上進まれると厄介だな...。来い、『蛇』ッ!!」
えっ!魔法!?やめてよそんなの!
チラッと後ろを振り返るとおじさんの手のひらから5匹くらいの緑色をした蛇が地面に落ちて蛇とは思えない速さで僕との距離を縮めてきた。
これ、表通りまで行けないんじゃないかな!?
とにかく何か遠ざけるものは!?
今僕の目の前にあるもの...。座り込んでる人に、何かの骨、腐ったりんご...ゴミ箱に樽に何かの箱ッ!!
「ドリャアッ!!」
片っ端から目に映る障害物になりそうな物を転がして投げられそうな物はドンドンアイツに投げろ!
これでちょっとでもアイツが止まってくれるといいんだけど!
「しゃらくせぇッ!!」
ドゴォ!!!!!
アイツの声がしたと思った瞬間、ものすごい音がした。
その方向を見ると僕が思いっきり力を入れてようやく倒せた樽とか何かが入った四角い箱が粉々になって宙を飛んで行っていた。
「嘘でしょッ!!」
アイツ、全部蹴り砕いてそのまま走ってきてるッ!それに、アイツが召喚した蛇は当然、アイツが蹴り砕いた箱とかの残骸の上を這って通り抜けてきたし!
いやいや、どれだけ力があるんだよ!もう!!
でも、ちょっとだけだけどアイツとの距離は稼げたし!それにここを曲がればもう表通りに帰れるはず!
そう思いながらまた障害物になりそうな木箱を後ろに倒そうとした時、
「シャアアアッ!」
次に転がそうとした箱の死角から細長い身体の蛇が僕に向かって飛んで矢のように飛んできた。
「ウオッハォォッ!?」
変な声が出た気もするけど何とか避け、もう一度同じ蛇が飛んでこないか、その方向を向こうとした瞬間、同じ箱に潜んでいたのであろうもう1匹の蛇が首を大きく膨らませ、紫色の液体を吐き出してきた。
...避けれないかもッ!?
ビシャッ!
「ウグッ!!」
「惜しかったなぁ??もうちょっとで逃げられるところだったのによぉ。大人しくあの倉庫の中まで着いてこれば良いようにしてやった物をなァ。...お前これから俺の奴隷な?」
そう言った冒険者の男の顔は何処までも計画通りだったと言わんばかりにニヤニヤとまた意地悪げな顔をするのだった。
「そっか、僕と違って遠くに魔法を撃つことも置くことも出来るんだ」
「ま、そういうこったな。俺の持ってる疑核は8級、つまり20mまでなら自在に魔法を使えるってこった」
そう言いながらゆっくりと僕に向かって手を伸ばし、首の襟を掴んで元きた方向へと戻っていく。
あぁ、折角逃げきれたと思ったのに。
絶望、って言うんだろうな。こういうの。これから一生この人の奴隷として生きて行かなきゃいけないんだ。
体は蛇の毒のせいか、噛まれた瞬間からちょっとづつ動かなくなっていって、今ではだらんとなったまま自分の体のはずなのに全然自分の体じゃないみたいに動かない。
「おい、そこのお前、待ちなさい!」
聞き覚えのない声だった。
動いてくれない自分の体、それでも頑張って目だけを上に動かして声がした方向に向けた。
「スミス、巡回兵の人達と一緒に助けに来たぜッ!」
アレックス、君はなんて最高の男なんだ!
そう叫びたかったけど声は出なければ身体も動かないから後で美味しいものいっぱい奢ってあげないと!!
アレックスの声を聞いた途端、あれだけ絶望が僕の心に渦巻いていたというのに嵐が去ったあとのように心が軽くなっていった。
「あの人です!あの人がうちのパーティメンバーを脅して裏路地に連れ込んで行ったんです!!」
「分かった。後は任せておいて、君は下がっていなさい。貴様!抵抗せず大人しくお縄に着くんだ!」
「チッ!誰が大人しく捕まるかってんだよォ!」
そう言い残し屈強な冒険者の男はその自慢の脚力を活かして路地裏の奥までかけて行った。
「おい、逃げるな!!お前たち、あの逃亡した冒険者を追え!」
「「「ハッ!!」」」
隊長らしき人物に命令されて数名の鎧を着た巡回兵がガチャガチャと大きい音を立てながら逃げた冒険者の男を追いかけて行った。
「ありがとぉ〜ッ!アレックス、もう本当に危なかったんだよ!助かったぁ...」
あいつが遠ざかってくれたおかげで動かなかった体も動くようになったし、後はアイツが捕まってくれるのを祈るだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます