第25話 ヒヤッ

 厄介な人に絡まれちゃったなぁ。ただ僕たちは今日泊まる宿を探していただけなのに。


「えっと、今日はとりあえず宿でゆっくり旅の疲れを癒したいなぁって思ってるのでまた今度にして貰えませんか...?」


「なんだ?それなら俺がいい宿紹介してやんよ!着いてこい!...着いてこなかったらこの街でマトモに過ごせなくしてやるからなァ」


 そう言って男は大きな声で店員を呼び、会計を済ませ僕の方を睨んだ後ギルドから出ていった。


 ついて行かなかったらいいじゃん。って思ったんだけど、しっかり釘を刺されたからついて行くしかない。


「スミス!なんだったんだ?さっきの奴すごい雰囲気だったし受付の人に相談したんだけどよ、冒険者同士のいざこざには殴り合いが起きない限り対応できないって言われてさ」


 溢れる溜め息を隠しもせず大きく吐いて、後から急いだ顔で寄ってきたアレックスに事情を説明した。


「成程な。じゃあこうしよう。お前は出来るだけあいつと話すなりして時間を稼いどいてくれ。そしたら俺が遠くを着いていきながら衛兵に相談する。あと念の為に金は俺が預かっとくよ」


 あらヤダ、アレックスったらかっこいい!


 おっとっと、そんな冗談言ってる場合じゃないね。あの人もう行っちゃってるし早く追いかけないと。


「わかった。じゃあそれでお願いするよ」


 それだけ言って急いでお金を入れてある皮袋ごと全部預けて急いであの人を追ってギルドを出た。


「おい、遅かったじゃねえか何してたんだァ?」


 冒険者の男は探るような目付きで僕に何をしていたかを聞いてきた。その姿からはとっくにお酒の酔いが抜けているように見える。

 勿論さっきの質問にバカ正直に答えるわけにもいかない。という事でちょっとだけ嘘をつくことにした。


「いや、さっき飲んでたオルチャータって言う飲み物のお金を払いに行っていたんですよ」


「む、そうか。...こっちだ着いてこい」


 冒険者の男はギルドが面している表通りではなく真っ直ぐにギルドの横にある路地裏へと入っていった。


 うわぁ。やっぱりこの街も裏道に入ると一気に怖い雰囲気になるんだね。なんかジメジメしてるし、何か腐ったみたいな匂いがして臭いし 。


 男の人は黙ったまま怪しい路地裏の道をズカズカ大股で歩いていってる。歩き方を見る感じこの辺にはよく来てるんだろうね。


「ここだ」


 走行しているうちにたどり着いたのは周りが蔦で覆い隠されてすごく年季が入っているように見えるレンガ造りの倉庫で、男の人は持っていた鍵をガチャガチャと扉に付いている大きな南京錠の鍵穴に差し込み回した。


 ガチャ。キィィィ...


「早く入れ。ここでお前を鍛えてやるよ」


 ここに来るまで真剣な表情だった男が急にまたニヤニヤといじわるげに笑いながら中も薄暗い倉庫の中に入るよう促してきた。


 ここに来る途中に何度も罠魔法とか体術を使ってこの人を倒す想像をしたけれど、やっぱり怖いしそんな綺麗な動きなんか出来っこないって辞める。と言うのを繰り返してる。


 あ〜、こんな所に入れられるって分かってたらこん路地裏まで来ずに表通りで頑張って耐えたのにぃ〜!

 アレックス早く来てぇ〜。


「こ、ここですか?なんだか凄く怖い雰囲気ですね」


「あたりめぇだろう?お前がこれからするのは秘密の特訓なんだからよォ。見られるとこじゃ困るだろう??それにここには俺ら2人しか居ないんだから怖いも何も無いだろう?」


 いやそのあなたが怖いんですよ!


 って心の中で叫びつつ。


「いやあ、確かにそう、ですね。いやぁ、にしてもこんなに立派な倉庫持てるなんて先輩、結構有名な方だったりするんですか?」


「あ、当たり前じゃねぇか。この辺りで俺の名前を知らねぇやつなんて居ねぇんだからよ。おオラ、んな事話してねぇでさっさと入りやがれ」


 そう話しながらも冒険者の男は僕を中心にして円を描くように僕を扉と挟むような場所に移動していく。


 アレックスぅ!僕もう限界だようッ!かくなる上はッ!!


「『罠』ッ!」


 罠は相手の真下に発生させても僕の魔法の特性上発動の為のスイッチを押さないといけない。例えば僕がよく使うトラバサミとかは刃と刃の間にある感圧版を踏まないと罠が作動しない。みたいなね。

 だから今回は新しい罠を使おうと思うんだ。


 やり方は簡単で地面に上がとがっている三角形の柱を作る。勿論全部金属製だ。僕は金属しか作れないからね。

 で、僕は片足をあげるのと同時に相手の股間の真下と僕の振り上げた足を繋ぐように板を作った。


 みんな一回はやられたことがあるよね?自分で何かを踏んだ拍子に先っぽの方が自分に飛んできてそれに当たるって。


 今回はそれを参考にしたんだ!


「ヤァッ!!!」


 板は僕の掛け声と一緒にブゥンッ!と鈍い音を出しながら男の股間めがけて一直線に上がっていって見事狙い通り冒険者の『ソレ』に命中した。


「グオォォ...!ッの野郎ッ!何しやがる!おい待てッ!!」


「無理です!ごめんなさいッ!」


 あれは相当痛いだろうなぁ。だって見ているだけの僕ですら、当たった瞬間に股間がヒヤッとして。板から足を退けた瞬間内股になっちゃったんだもん。


 さあ、この人が立ち直って僕が捕まるまでに、表通りまで逃げ切れるかな??

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