第24話 悪い先輩

「はい、これでお手続きは完了です。ようこそ、シペ・トテックへ!」


 ギルドへ登録して初めて知ったんだけどこの街、シ、シペ?なんとかって名前なんだね。なんでそんな複雑な名前になってるんだろう?


「ねぇアレックス、この街の名前、覚えられそう?」


「いやあ、ちょっと時間が掛かりそうだなァ」


 あさっての方向を見てアレックスは吹けもしない口笛をふこうと頑張っているけどそんなのじゃ幼なじみの僕は騙されないんだから!


「アレックス、君、覚える気絶対ないでしょ」


「ん、んな事ねぇよ!ちょっと難しい名前だなぁ、って思っただけだし!」


 まあ、本人がそう言うんだったらそう言う事にしておこっか。


「あと、僕らこの旅でちょっとお金が少なくなっちゃって。どこか一泊250バーツ位でいい宿ってありませんか?」


「一泊250バーツ...。そうですね。少々隣の酒場でお待ちください」


 そう言って受付嬢の人はサラサラと何かをメモして奥にいた職員さんにそのメモを渡して次の冒険者の相手をし始めた。


「ま、ここに居てもしょうがねえし、酒場に行ってなんか飲もうぜ?」


「え!?アレックス、お酒飲む気!?」


「んな訳ねぇだろが!!」


 やっぱりギルドの酒場は前の街のギルドと同じでやっぱりまだオヤツを食べるような時間なのにもうグデングデンになってる人がいっぱい居てちょっと所じゃないくらい臭い。


「いらっしゃいませ!メニューはもうお決まりですか?」


「えっとじゃあこのオルチャータ?とか言うのください」


「俺も同じので」


「かしこまりました!では合計で24バーツになります!」


 注文を終えてアレックスとどんな依頼を受けるか話していると暫くしてウエイトレスの人が例のオルチャータ?とか言うものを運んできた。


 見た目はなんか白くてトロッとしてる。


「お待たせいたしました!オルチャータ二杯になります!ごゆっくりお過ごしください!」


「なんか、凄い甘い匂いがするね」


「あ、俺この匂い嫌いだわ。なんかこの調味料?みたいな匂い」


「あー、シナモンって好きな人と嫌いな人がいますからねー。好き派と嫌い派で結構くっきり別れてるんです。あ、ちなみに私も嫌い派の一員なんですよ?」


 さっきのウエイトレスさんが会話に混ざってきてお茶目な様子でウインクし、また別のお客さんの所へ注文を取りに行った。


 ああいう可愛くて茶目っ気がある人が居るとやっぱりまたここにきたくなっちゃうよね。なんて言うか、僕まであの人から元気をもらえる感じがして。


 周りを見るとやっぱりあの人が目当てで来てるのか酔っ払ってる冒険者の人もあの人を目で追ってる人が多い。


「ウエッ、やっぱ俺これ苦手だわ。スミス、俺の分も飲んでくれねぇか?」


「えっ、でもそれだとアレックスの分が無くなっちゃうよ?それか新しいの頼む?」


「いや、俺そんな喉乾いてねぇし、どうせギルド受付からの呼び出しもそろそろだろ?呼ばれたら俺行ってくるからゆっくりそれ、飲んどいてくれよ」


「そう?悪いね」


 程よく冷えたオルチャータ、美味しいんだけど、あんまり飲みなれて無いのと僕らの村では想像も出来ないような味で余り頻繁に飲みたい、とはなんない感じだ。

 僕は暫くはりんごジュースで十分だなぁ。


「お待たせいたしました!宿泊場所をお探しでした、スミス様。いらっしゃいますか?」


「お、来たみたいだな!じゃあ俺行ってくるわな!」


 そう言ってアレックスは酒場の方に来ていた受付嬢の方へと一直線に走っていった。


 さ、僕もこの飲み物を飲んだら追いかけようかな。


「おい坊主、こんな所に何しに来たんだァ?怖ァい兄ちゃんに絡まれる前に帰った方が良かったなァ!ここはオメェ見てぇなガキンチョ共が来るとこじゃねぇんだよッ!!」


 えっ!?だ、だれ!?って言うかめっちゃお酒臭いんだけど!


 振り返ると顔を真っ赤に染めている大きな男の人が僕の後ろに立っていてフラフラになりながら僕の座っている椅子に手を置いていた。


「え、ええ?そんなこと言われも...、困るって言うか..?」


 これが『 酔っ払いのだる絡み』って奴なんだろうな? 誰か助けてくれないかな?って周りを見渡しては見るけど誰も助けてはくれなさそう。周りにいる人はみんなこっちを見てめっちゃニヤニヤしながらお酒を飲んでるだけだし、ウエイトレスさんとか受付嬢さんも見て見ぬフリ。


「困らねぇよ!ここにはお前の仕事はねぇってんだ!出てきゃいいだけの簡単な事だろぅ?」


「いやぁ、僕にも仕事が無かったら食べて行けないって、言うか?」


 そういった途端、冒険者の男の表情が不機嫌顔からニヤニヤと嫌らしい笑みへと変わった。


 あ、地雷踏んじゃったかも。


「じゃあ俺が満足に仕事ができるよう指導してやるよ!その代わり、分かってるよなぁ?」


 そう言って差し出してきた右手には親指と人差し指で輪っかを作った形。

 要は金が欲しいのだろう。


「ぎゃはは、お前、そんなに高くしてやるなよ!!」


「分かってらァ!この前のやつ、それでくたばっちまったからなァッ!...おっと、今のは聞かなかったことにしてくれよ?」


 ...これは、本格的にヤバそうだね。

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