第11話 治癒魔法

 夜通し歩いてくれていたアレックスが眠気に耐えられずに寝てしまった頃、ようやく待ちに待った僕の順番がやってきた。

 流石にこれ以上アレックスを頼るまいと僕は重い足を引き摺って一軒家を一回り大きくしたような教会内を神父に向かって一生懸命に歩く。


「おい、坊主ッ!こっちも仲間待たせてんだよ!早く歩けや!」


 なんて言ってくる冒険者の人もいるけどこれ以上早くは歩けないんだよね。


「ご、ごめんなさい」


 言い返す?いやいや、まさかそんな事。僕には出来ないよ。だってこれ言ってきた人見てよ!スキンヘッドに筋肉モリモリでいかにも強いです!って見た目してるんだよ?こんなヒョロヒョロの僕じゃ何も言えないって!!


 そんな時神父がこちらを見て何か言うか少し迷った様子を見せた後こんなことを言った。


「いえいえ、ゆっくり、ゆっくりで良いのでこちらへおいでなさい。それと、そこの冒険者、あまり怒らない事です。あまり酷いようでしたら本日はお帰り願うことになりますよ?」


「へへ、悪かったよ神父さんよ。気ぃ付けるから今回は見逃してくれや」


 凄いなぁ、あんなに厳つい人に怒れるなんて。僕と同じくらい痩せてるのにやっぱり冒険者ギルドの横で教会とかやるとこんな事にも慣れてくるのかなぁ?


「あ、ありがとうごさいます」


「いえ、私は当然のことをした迄ですから。さあ、気を楽にして。魔法の掛かりが悪くなってしまうかもしれませんよ?」


「フフッ、そうですね。そうします」


 勿論魔法の掛かりが悪くなるなんて言うのは迷信だ。昔の偉い人がそんなことは無いって証明して、今は皆知ってるんだよ?

 多分この人も迷信だと分かってたけど僕の気を紛らわそうとしてくれたんだろうね。優しい人だ。


「ではここに怪我をした場所を見せながら置いてください」


 そう言われて僕は血でぐしゃぐしゃになっているズボンを捲りあげてウルフの歯型とよく分かる足を出してくれた台に乗せた。


「これはまた、手酷くやられてしまいましたね。さぞ痛がったでしょう?今、治して差し上げますから」


 神父が僕の足に手をかざすと僕の足が淡く緑色に光りだし少しずつ、ゆっくりではあるが足に空いた穴が塞がっていき、最後にはあとも残らず綺麗に治ってしまった。残っているのは僕の血でぐしゃぐしゃになり牙の分だけ穴が空いたズボンだけだった。


「凄い、これが治癒魔法...」


「さ、これで元通りです。どうですか?足は元通りに動きますか?」


 足を少し揺らしてみる。別に違和感は何も無く、次に神父さんの前をちょっと歩いてみても痛さも痒さも何も感じなかった。


「平気です!凄いですね、僕の村には治癒術士が居なかったのでこんなに早く治るとは思いませんでした!」


「これでも私の持っている疑核の格は低い方なのですよ?...これだけは言わせてください。治癒術士は貴重なのです。そして、冒険者になろうとする人はそれよりもずっと貴重です。ですので怪我は出来る事ならしないようにしてください」


 神父はとても真剣な顔で僕に忠告をしてくれた。他の人達を見ている限りそんな事は話さずに返しているようだったので相当心配してくれたのであろう。

 僕は感謝の意味を込め深くお辞儀した後熟睡しているアレックスを起こして教会を後にするのだった。




 教会を出た僕たちはさっき別れた衛兵さんの言った通り宿の斡旋とギルドへの登録をしてもらうために教会の真横にある冒険者ギルドへとやってきた。


 そこは三階建てくらいあるんじゃないかな?ってくらい背が高くって、横幅も僕の家が二件分位はすっぽりと入れそうなくらい広かった。

 そして、その建物に似合うくらいの大きい扉は常に開け放たれておりその上には誇らしげに『冒険者ギルド』と書かれた看板が掲げられていた。


「おお!ここが冒険者ギルドって奴か!すげーッ!デッケー!カッケーッ!」


 ちょっとだけ眠って体力を回復させたアレックスは教会を出た時にはうつらうつらとして、目も半開きになっているから起きているかちょっと不安だったけど冒険者ギルドを見た瞬間凄く元気になってた。


 さっきも僕の怪我を治す前に見たはずなんだけど、心配であんまりよく見れていなかったんだろうね。


「ホントにカッコいいね!ねえねえ、僕、中も見てみたい!早く入ろうよっ!」


 とか言ってる僕も怪我が治った今、凄くワクワクドキドキしてるんだけどねっ!

 村にいた頃には今からこんなに大きい建物に入れるなんて考えもしなかったよ。冒険者には憧れていたけどせいぜいこの建物の半分くらいかな?って思ってたし街に入ってからもこんなに大きい建物に入るなんて実感が湧かなかったんだよね!


「おう、そうだな!って、手を引っ張るなって!行くよ、行くから!」


「だってアレックス外から眺めてるだけで全然動かないじゃん!ほら、早く行くよっ!」


 僕は未だにぼうっとギルドを見ているアレックスの手を引いて冒険者ギルドの中へと入っていくのだった。

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