第四話

「僕は反対です。『妃』という地位を与えられたところで、結局は人質扱いには変わりないでしょう」

「俺もだ。むしろ婚姻に縛られて、帰ってこれる可能性も低いってことだろ」


 真っ先に意見を表明したのはリュティエルだった。勝気な性格の第二王子カウスも、それに同意を示す。

 国王はそれをなだめるように、眉尻を下げて詳しく説明した。


「そこまで悪い話ではないんだ。待遇は正妃とほとんど変わらないものにするというし、皇太子はいままで妃を娶ったことはないというから競争相手もいない。なにより、一年に一度は必ず帰国もさせ、こちらから皇太子の宮殿を訪れることは咎めないと」

「ならば、人質としてよりもはるかに良い待遇であるということは間違いないのですね?」


 口を開いたのはカウスの母である王妃サーラ。血の繋がらないルナリオをかねてより疎ましく思っている彼女は、この要求に乗り気である。


「まあ、そういうことになるな」

「でしたら、迷う必要もないじゃありませんの。それに、もし断って黄金の国を怒らせでもしたらどうするのですか」


 なおも言い募るサーラに、国王もうーむと唸る。

 その様子を見たリュティエルが口を開きかけたところで、カウスの同母姉であるミルアがそれを遮った。


「あの、お父様。まずはルナリオの意見を聞いてみては?」


 その言葉に、国王は納得したように頷いた。余計な口を利くんじゃないと王妃ににらまれたミルアは、思わず委縮して縮こまる。


 国王はそこでルナリオに目をやった。

 今年で十七歳。月の国の民らしい滑らかな褐色の肌に、亡き母譲りの光を閉じ込めたような金髪。シトリンの瞳に浮かぶ影は儚さを感じさせ、寝巻にガウンを羽織った姿はまるで月の精霊のような妖しさがある。

 身内の贔屓目ではなく、ルナリオは美しい。だからこそ、苦悩するのである。


「……ルナリオ。お前はどうしたい?」

 

 しかし国王の問いにルナリオは顔を上げ、即答した。


「それが国の為ならば、どこへなりとも参ります」


 その声音に迷いはなかった。しかし、彼の意思も感じられなかった。

 リュティエルとカウスは愕然とし、王妃は顔をほころばせる。


「まぁ!なんて良い子なの。それでこそ月の民よ。このような息子を持てて、そなたの亡き母も幸せでしょう」


 これが決まり手となった。


 こうして次の日には、黄金の国の皇太子・アダンと月の国の王子・ルナリオの婚姻を承諾する書簡が送られた。

 鍾愛する王子を手放すこととなった国王は嘆き悲しみ、王后派は歓喜に湧いていたが、ルナリオにとってはそれもどうでもいいこと。


 彼が案じたのは、ただ一人の片割れ・セレネのみであった。

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