38 終末(日向&翔太)

 隕石が落ちるその日は街中が荒れていて、店は略奪され燃やされ死人もバタバタと出ていた。そんな中、翔太しょうたがおれの住むマンションに無傷でたどり着けたのは、奇跡と言える。しかも、ウイスキーの瓶を携えて。おれは言った。


「他にもっといただろう。友達とか、恋人とか」

「そんなのいないよ兄ちゃん」


 翔太はおれと違って幼い頃から社交的だった。バレンタインデーともなれば、机の中がチョコレートでパンパンになるのを知っていた。そんな奴が、なぜわざわざ兄のおれを選んだのか。


「乾杯しよう、兄ちゃん」

「ストレートでか?」

「炭酸も氷もないんだもん。仕方ないよ」


 ウイスキーには不似合いな陶器のマグカップで乾杯した。最後の時がどうなるのか知らないが、酔いつぶれてしまった方が幾分楽なのではという気がしていた。


「兄ちゃん、タバコ吸っていい?」

「本当はうちのマンション、ダメなんだけどな。もう今さらだ。おれにもくれよ」


 俺と翔太はタバコに火をつけた。部屋中に煙が充満した。どこかの窓ガラスが割れる音と男の怒声がして、いよいよここもあぶないんじゃないかという気になった。

 何度も酒とタバコを往復して、意識がぼんやりとしてきた。墜落するのは日本時間の何時だったか……そろそろなのかもしれない。


「兄ちゃん」


 翔太がおれを床に押し倒してきた。回らない頭で何が起きているのかを必死に考えようとした。


「最後だし、しようよ」

「……はっ?」


 唇を唇でふさがれ、せわしなく服を脱がされた。下着をおろされ、翔太の手で包まれた。


「んっ……」

「何も恥ずかしがることないよ。兄ちゃん、鳴いて」


 じゅぱっ、じゅぱっ。翔太の口が動く。おれは初めての快感に身をよじらせ、嬌声をあげた。もう少しで達しそうになったとき、翔太は口を離しておれの耳元で囁いた。


「生でたっぷりしようね。どうせ世界は終わるんだ」

「翔太……」

「ずっと好きだったよ。この想いは死ぬまで隠し通すつもりだった。でも、もうそんな必要ないよね」


 翔太は自分の服を脱いだ。おれも足に引っ掛かっていたズボンを放り投げた。そうして、二人裸になってベッドに転がり込んだ。


「兄ちゃん、好き、大好き」

「翔太。おれは……正直、戸惑ってるけど。最後の弟の願いは叶えてやりたい」

「うんっ……」


 ゆっくりと舌を絡め、体温を確かめた。この世界が終わる前に、行き着くところまで行き着こう。おれの人生に翔太がいて良かった。最愛の弟だ。

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