37 四肢切断(晴海&刹那)

 俺たち兄弟はどこで間違えたのだろう。記憶を辿るもおぼろげだ。段々と考えることも少なくなっていって、ただ仰向けになって天井を眺め、ぼおっとしているだけの日々。

 切断した俺の手足はどうやら焼いて食べたらしい。旨かったよ、と刹那せつなは笑い、俺にキスをした。胴体だけになってしまった以上、抗うことはできない。

 刹那が在宅での仕事をしていたのが幸いだったのか、どうなのか。最低でも二時間に一度は様子を見に来てくれた。


「そろそろおしっこしたい?」

「うん」


 わざわざこのために買っていたのだろう。尿瓶をあてられて、俺は排泄した。こんなことにもすっかり慣れてしまった。数える指もないから、こうなって何日目なのかもよくわからない。


晴海はるみ、ちょっと身を起こそうか」


 刹那に支えられ、俺はベッドの上にちょこんと座った。足の縫合面が見えた。見事なもんだ。どこでこんなことを覚えてきたのだろう。刹那が尋ねた。


「夕飯、何食べたい?」

「なんでもいい……」

「そういう答えが一番困るって前にも言ったよね。どうせ一日中寝てるだけなんだからきちんと考えておいてよ」


 そういう状況にしたのはお前だろ。そう言いたいが、できない。いっそ殺してくれた方が楽だったのにな、と思う。


「じゃあ……ピザ」

「りょーかい。どんなのがいい?」

「マルゲリータ」

「わかった。注文しとくよ」


 頭がかゆい。俺は刹那に訴えた。


「頭、かいて……右上の方」

「ああ、そろそろお風呂入れてやらないとな。夕飯食べたら入ろうか」

「そうして」


 こんな身体のまま生かされていることは屈辱的だったが、それでも刹那のことは嫌いになれなかった。別の男が被害者になるよりも、兄の俺が引き受けてまだ良かったのだと思うことにしている。


「お風呂入ったらさぁ、たくさんいじってあげる。そろそろ溜まってるでしょ? ごめんね、おれも仕事忙しくて構ってやれなくて」

「いいんだよ」


 最初は嫌だったセックスも、唯一の楽しみとなっていた。股を割り開かれるあの瞬間が好きだ。想像するとそれだけで身体がほてってしまう。


「可愛い晴海。ずっとおれのものだからね」


 そうして抱き締められた。俺はほんの少し残された腕を内向きに曲げた。この生活は一生続くのだろう。それか、刹那の気が変わって世話をされなくなるか。

 もうなくしてしまった手足がきしむような感覚がした。

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