35 目撃(一弥&哲弥)

 兄弟といえどもノックはするべきだよな。そう思ったがもう遅い。哲弥てつやはベッドの上で絶頂を迎えていた。


「えっ……」


 哲弥は俺の顔を見て青ざめた。手にはティッシュとスマホ。あの独特の香りが鼻をさした。


「ごめん」


 とりあえず謝った。借りっぱなしだったゲームを机の上に置いた。哲弥はそそくさと下着をはいた。


「……兄貴、最悪」

「だからごめんって」


 険悪な雰囲気にはなりたくない。俺はおどけて哲弥のスマホをぶんどった。


「ははっ、何で抜いてたんだよー」

「見ないで!」


 画面に表示されていたのは男同士の営みのマンガだった。挿入されていた男の子がこう叫んでいた。お兄ちゃん、いっちゃう、と。


「……ごめん」


 さすがに想定外だった。俺はスマホを返した。哲弥は今度は真っ赤になって俺を睨み付けてきた。


「あーもう! 知られたくなかった! 知られたくなかったのに!」


 ついには泣き出した。哲弥が泣くのを見るのなんて小学生のとき以来だな、なんて現実逃避めいたことを考えながら、俺は言葉を探した。


「どうせ兄貴おれのこと変態だって思っただろ! そうだよ! 変態だよ!」


 俺はまだ何も言っていない。ますます何と声をかければいいのかわからなくなった。


「ううっ……兄貴にだけはバレたくなかった……」


 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして哲弥はスマホを放り投げた。俺が頭を撫でようとすると振り払われた。


「えーと、哲弥。哲弥がどんな性癖だろうと俺はお前の兄貴だから」

「それだから問題なんだよっ……」


 セリフを間違えたらしい。哲弥はさらに激しく嗚咽を漏らした。落ち着くのを待って、俺はベッドに腰をおろした。


「哲弥、マジでごめん」

「いいよ。もう吹っ切れた。おれは兄弟ものじゃないと抜けないんだよ。縁切るなり何なりとしなよ」

「いや、そこまでは……」

「じゃあ兄貴が抱いてくれるの?」


 キッと視線をぶつけられ、俺はひるんでしまった。抱くって……つまり……そういうこと?


「えっ、俺としたいの?」

「そうだよ。ずっと兄貴としたかったんだよ」


 哲弥は俺を押し倒し、口を押し付けてきた。歯がぶつかった。


「いてっ……」

「もう開き直ったもんね。兄貴をその気にさせてやる」


 手が服の中に入ってきた。このまま流されるのもよくない気がするが、哲弥の勢いにのまれて抵抗できない自分がいた。

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