34 幽霊(慎也&圭人)
死んだ兄が俺の前だけに出てくる。
両親に相談したら精神科行きをすすめられてしまった。まあ当然の反応だろう。あまり心配をかけるのもよくないと思ったので、何でもないフリを続けたが、毎晩となるとさすがにこたえる。
理由は何となくわかっている。俺を犯しきれなかったことに未練があるのだろう。指を突っ込まれるところまでは許してしまったが、そこから先までには至らなかった。
兄が出てくるのは決まって夜中の三時頃だ。どれだけ酒を飲んでぐったり眠っていても、パチリと目が覚める。そして、俺に覆い被さって睨んでいる彼と視線がぶつかってしまうのだ。
トラックに巻き込まれて酷い状況で死んだので、兄の頭は右側がえぐれている。顔は血にまみれ、だらりと舌を出している。
またかよ、いい加減ゆっくり寝かせてくれよ、と心の中で毒づく。これが始まってからというものの、俺は日中眠くて仕方がない。
しかし、手足はぴくりとも動かせないし、声も出せないのだ。仕方なく視線を合わせ続ける。兄は何も言わない。生きていたときは、どうか兄ちゃんを受け入れてくれよとうるさいくらいに請うていたのに。
兄は俺の下着をおろし、ぴちゃぴちゃと舐め始めた。幽霊だというのに生暖かい。否応なしに勃たされて、じっとりと焦らされる。正直、自慰より気持ちがいいが、何も毎晩でなくてもいい。
兄のことは別に好きでも嫌いでもなかった。生まれたときから当たり前にいる存在。それだけだった。どこから歯車が狂ったのだろう。
最初に寝込みを襲われたときは殺してやろうかと思った。肉親にそういう目で見られていたというのが耐えられなかったのだ。
だから、事故に遭ったと聞いたときは内心喜んでしまった。もうあんな嫌な思いをせずに済む。そう考えていたのに。
口の動きが早くなった。いいよ。さっさと終わらせてくれ。俺が達すると、兄はすうっと消え、身体が動くようになった。そうしてシーツにこぼれた液体を拭き取るのにはもう慣れてしまった。面倒なのでそろそろペットシーツでも敷いて寝ようか。
兄を成仏させるにはどうしたらいいのか考える。いっそ最後までさせてやればいいのだろうか。でも、兄のことだ。味をしめて繰り返すに違いない。あいつはそういう男だ。死んでもそこは変わらないだろう。
新聞配達のバイクの音が聞こえてきた。俺はベランダに出てタバコを吸った。住んでいるマンションは九階だ。ここからなら確実だろうな、と思うも、その勇気が出ずに、もうすぐ一周忌を迎える。
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