第39話 イルロンドの真実
俺の【魔眼】は正確にいうと見たものをすべて破壊する力じゃない。
右目の焦点、ピントが合わさったものを破壊する力。要は集中して見ているものを破壊する力なのだが、その力が直撃するのは若干のタイムラグが発生する。
焦点を絞り、【魔眼】を発動させる意思を持つと勝手に術式が発動しているようで、俺が願うと破壊の力が飛んでいく。
願い、破壊の力が飛び、命中する。
そのプロセスが終わるまでに———0・1秒の隙がある。
多分……。
その間に遮蔽物を入れられれば、その遮蔽物を破壊するし、反射材があれば、【魔眼】の力の軌道を逸らしてしまう。
「完全に〝光〟の
てっきり魔力の力場か何か飛ばしているかと思っていたが、金属により反射現象が起きるということはそういう事だ。
まぁ、そんなことは以前の鏡の盾で反射された時に気がつけという話ではあるが、まさか〝金〟程度の光沢でも反射されるとは……。
「【魔眼】が使えないイルロンド君など、ただの人間。いやそれ以下です。堕天したことを後悔しながら死んでいきなさい!」
堕天……?
心の中の疑問を口に出す前にアテナイは槍の切っ先を俺の胸に突き立てようとするが———、
「余を忘れてもらっては困るなぁ!」
バハムが飛び出し間に入る。
「忘れていました。あなた程度の存在なんて……」
「ク……クォ……!」
アテナイの槍をバハムは脇腹に抱えて受け止め、足を踏ん張り腰を入れて、俺に届かないようにと耐えるが、その抱えている脇腹こそ、さきほどアテナイにぶっ叩かれた箇所。
そこに強い力で自ら槍を押さえつけているのだ。
苦痛に顔も歪む———。
「とるに足らないんですよ!」
アテナイが槍をパッと手放す。
かかる力が抜けたことでバハムは前方に体がつんのめり、その勢いを利用しアテナイは、
「————ハッ!」
バハムの顔面を蹴り上げた。
まるでサッカーボールを蹴るようにアテナイに頭を蹴られたバハムは吹き飛び、再び壁に激突する。
「ふぅ……さて、死んでもらいましょうか……イルロンド君」
アテナイが槍の先を俺の顔へと向ける。
その切っ先が、一瞬ぶるっと震えた。
そして———空間に小さな亀裂が入っているかのように光が漏れ出し、徐々に大きな塊を形成していく。
「戦の
集めた光に熱を感じる———!
このままではヤバい!
「———【魔眼】よ‼」
再び、目に破壊の力を込めて、アテナイの顔面を破壊するように願う。
「無駄だと言っているでしょう!」
即座に彼女は槍を引っ込めて左腕に装備している盾を前に掲げる。
「
鏡面を持つ———盾を。
俺の顔が映っている、盾を……。
———衝撃が、視界を覆った。
瞬間、激痛が全身を駆け抜けて、何が起きたのかわからなくなった。
「アハハハハハハハハハ‼ 無様ですねぇイルロンド君‼ 滑稽ですよ‼ はね返された自分の神力に吹き飛ぶさまは!」
気が付いたら、地面に倒れていた。
先ほど俺がいた位置から少し後方に移動している。
「神……力……?」
よかった口がまだ動く。
おうむ返しにアテナイが言った単語を呟く。
目が……痛い……。
「ああ、やっぱり自分を失っているのですね。イルロンド君は、地上の様子を知って自分が神としてどれだけ酷いことを、どれだけの虐殺を繰り返してきたのか直面して心を砕いてしまったのでしょう」
「心を砕いた……? 俺が?」
だから、転生前の俺の記憶がこの体に宿ったのか?
「ええ、あなたは元々人と神との境目の〝淡水の
「俺が……神、メデューサ……?」
「最もその神の名前も、私たち〝神々の軍団〟に反旗を翻した瞬間に奪われ、名乗ることも許されずに力を大きくそぎ落とされているようですが」
シャッとアテナイが槍を振る。
「今のあなたは名もなき神。罪にまみれた悪神です———その罪、私が斬って差し上げましょう」
冷たい声色になるアテナイ。
死が……間近に迫っている。
フッと目を開ける。
冷たい目をして見下ろして槍を構えているアテナイがいる。
彼女の背後には、一度目に俺が【魔眼】の軌道を逸らされて崩した天井の一部と……もう一か所、明らかに何らかの別の衝撃により砕かれて小さなヒビが刻まれている個所を見つける。
「…………あ」
———あれは……。
「終わりです———
アテナイの槍の先から、神の雷が放たれる————。
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