第38話 街を破壊する激闘
粉塵が巻き起こる。
修道院の医療棟。
そこが破壊され一つの影が空中に舞い踊る。
アテナイだ。
神・アテナイが【魔眼】の力で吹き飛ばされ空中に浮いているが、その口元は笑っている。
「わざわざ隠れ潜んでこの都市で這いつくばっていればいいものを———! 出てきてくれるなんて私に勝てると思っているのですか? イルロンド君!」
獰猛に歯を見せて笑い、地上にいる俺へと顔を向けた。
パンッ!
突如彼女が両手を叩き合わせたと思った瞬間———彼女の手前の空気が震えた。
「
まるで陽炎のような大気の揺らぎは広がり、アテナイの体を包んでパッと発光したかと思ったら黄金の鎧と槍と盾を生み出し、アテナイの体に纏わせた。
「魔法か……?」
「違いますよ! これが神の力!
アテナイは槍の先を俺に向ける。
「———〝神力〟です!」
その先から————光線が発せられる。
その熱線の軌道上に突然、巨大な手がぬっと差し伸べられる。
「———
天使だ。
光り輝く巨大な人型の
聖女・イリア・クリュセウスが生み出した。精神の具象化。精神エネルギーに魔力をくっつけてこの世に物質化しているという幽霊に体を持たせているような存在なのでかなり不安定だ。上半身ははっきりと目に見えるのに、下半身は半透明になっている。
「ふぅ……‼」
その幽体である天使に、質量とエネルギーの重ね合わせ状態の天使をイリアは操り、拳を握らせ、アテナイへとぶつけに掛かる。
「———
ドッと南の方で白い爆発が起きた。
水蒸気だ。
突如として超巨大熱量のエネルギーが〝そこ〟に現れたために周囲の物質の水分が一気に気化して膨張し、白き爆発が起きたのだ。
爆発まで、起きた。
その超巨大熱量の存在というのが———巨人だったから、起きたのだ。
溶岩の鎧をまとったような女性型の巨大幽体。
ぼうぼうと髪の毛の一本一本が燃え盛る炎のように逆立ち、全身の血液がかなりの高熱を持っているのか、体に入っている亀裂からぼうぼうと炎が噴出する。
「お姉さま! いい加減に帝国に組するのはやめなさい!」
その肩に乗っているのは火の聖女、フレイ・プリアラス。
ウリエルから吹き上がる炎が熱くないのか、ウリエルの首に手をつき、右肩の上に足をついて平然としている。
平然と、イリアを見下している。
「フレイ……!」
「お姉さまはしょせん私には勝てません。神の祝福を受けている私には! 神からの洗礼を受けて魔力を強化されている私には!」
「目を覚ましてフレイ‼ この街に幸せなんかない!」
「何を言っているのです! この街こそが楽園なんじゃないですか! あなたも私も〝そう〟教えられてきたでしょう⁉ 生き物の望みは一秒でも長く生きながらえること———それを叶えるために私たちは!」
「それが間違っていたのよ———
イリアは光の天使の左手に乗り、上空へと昇っていった。
そして———右手に剣を持つ光の天使と、吹き上がる炎の拳をもった火の天使の格闘戦が始まる。
「—————ッ!」
「—————ッ!」
イリアとフレイがにらみ合い、空気のピリつきを合図とばかりに双方の巨人が衝突した。
凄まじい暴風がサルガッソの街を襲う。
刃渡り数十メートルの剣が大気の壁を切り裂き、超高速で火ノ天使に迫り、それを炎の拳で弾く。
————爆発。
中に火焔が渦巻く溶岩でできた拳で固い剣を弾いたのだ。
拳の下の不安定なエネルギーが圧縮され、反作用でいっきに膨張し、火ノ天使の拳が弾ける。
「わああああああああああ‼」
「噴石が振って来るぞ!」
逃げ惑うサルガッソの市民たち。
ドォンドォンと修道院の外れに落ちて来る火ノ天使のかけらが綺麗な石畳を破壊しつくす……。
そんな中———トッと軽い足音がした。
「———よそ見をしている場合ですか!」
女神アテナイが風を切る。
ワンステップで一気に俺との距離を詰めて、その手に持つ槍を振るう。
「うお!」
彼女から繰り出される斬撃を何とか躱す。
ギリギリで———。
ヒュンッと槍が振動している音なのか、切り裂かれた空気自体が鳴っている音なのかわからずにひたすら俺はバックステップで後退しながらアテナイの攻撃をかわし続ける。
「ふふふ……♡」
アテナイが微笑む。
まるで逃げ回っていては何もできませんよ、とでも言いたげだ。
なんとかしなければ……!
槍の斬撃の合間をかいくぐり、【魔眼】でこいつを倒さないと……!
そのためには———!
「バハム!」
援護が、必要だ———!
「言われなくても————!」
瓦礫と粉塵の中から爪を尖らせ、翼をたたんだバハムが猛スピードでアテナイに突撃し———光が爆ぜた。
槍に爪をぶつけ、摩擦による熱の爆散現象———。
「フフフフ……!」
「ガアアアア‼」
牙をむき出しにしてバハムは格闘戦を仕掛けるが、それをくるくると槍を回していなすアテナイ。
手先と足先の爪、そして全身を覆う竜の固い鱗。
それらを武器に貫手に踵落とし、足払いと次々と技を繰り出すも———アテナイは全て見切り槍で受けたり、盾で受けたり、飛んで躱したりと身軽に対処する。
「私は戦の女神ですよ! そんな私にたかが竜が適うわけがないでしょうが‼」
ガンッ‼
バハムが踵落としをして、地面に大きく体を沈めたその隙を付かれた。
「ぐふっ……!」
横腹を槍の腹で叩かれ、そのまま薙ぐように床と平行線上の軌道で吹き飛ばされた。
バハム……!
だけど、おかげで俺が集中できる時間がもらえた。
「———【魔眼】よ‼」
【
「———神を、殺せ!」
俺の目から破壊の衝撃波が発せられ、アテナイを襲おうと迫るが————、
「フフン♡」
アテナイは———手甲をかかげた。
黄金の手の鎧を。
輝いているそれを……。
故に、周囲の景色を映し出しているそれを————。
まずい……!
ドォンッという炸裂音は、天井で起きた。
「……私にはその【魔眼】は効きませんよ」
アテナイは無事だった。
全くの五体満足———。
「その【魔眼】は〝見た物を破壊する力〟。それは鏡に映ったものであれば、その移り込んだものを反射する。つまり近々ピカピカの
そう言って、コンコンと輝く胸鎧を小突いた。
破壊の力の軌道が———反射によって逸らされたのだ。
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