向井清純は限界を突破する


「なに……っ?」


 はじめて攻撃が躱された。

 ぼくはハッとして、跳び上がった件の軌跡を追う。

 それは中空を跳ねるように転回しながら、はるか後方に着地した。


「ぐるる、るるぁう」


「……ほう、なにをしたか知らないが、スピードは多少上がったな。だが、地力の差は変わらんよ」


 表情から余裕は消えていない。

 はじめて鋼鉄の錫杖を手に持つと、ぐるぐると大きく振り回す。

 そんなぼくの動きに応じるように、件も体内から武器を取り出した。


 ──ほう、まだそんな武器を隠し持っていたのか。生々しい血までつけて。

 件は、濡れた血のついた鉄枷の部分を持って、ぶんぶんと振り回している。


「いいだろう、第二ステージだ!」


 互いに武器を取り、真正面からぶつかる。

 数合、打ち合いを交わした直後、件の肉体を派手に吹っ飛ばしてやる。

 交錯した武器の力は、ほぼ互角だった。件の戦闘力はじゅうぶん、われわれに匹敵している。

 ──それが一体なら、だ。


 にやり、と笑った。

 結論はごく単純な、だ。


 いまや、ぼくと小角の戦闘力は同レベルまで達している。

 どちらか、件の力でもじゅうぶんに対処できるだろう。

 だが相乗効果を秘めたのコンビネーションを相手にしては、件だけで戦い抜くことは難しい、ということのようだな!

 ぼくはゆっくりと吐息する。


「負ける気がしないなあ、小角」


「むしろ、このわれらを相手に、まだ相手が立っている……この事実に驚きを禁じえぬ」


「──たしかに」


 ゆらり、と立ち上がる件。

 そうとうなダメージを受けているはずだが、まだ戦闘余力を残しているようだ。恐ろしい相手であることだけは、まちがいない。


「夜明けまで、あと二時間というところか。長期戦にしてはまずいな」


「仕留められねば負けにも等しい」


「同感だ。──やっちまうか、必殺の」


「よかろう。密教の秘法」


「の重ねがけ、だ。……よし、いくぞ!」


 左右に分化して、同時に印を結ぶ。


「臨兵闘者皆陣列在前」


「滅せよ!」


 二本のレーザービームが、ちょうど交錯する位置に件。

 クロスファイアの直撃を受け、件の肉体が真っ二つに砕け散った。


「よっしゃ!」


「決まったか」


 ぽーん、と高らかに舞い上がる牛の首。

 身体は、地面にばったりと横たわっている。

 やがて、どさり、と地面に落ちた牛の首──それは地面に、


「なんだ、これは」


「よもや、まさか」


 ゆらり、と立ち上がる牛の首。

 一方、地面に倒れていた牛の身体も、ゆっくりと起き上がる。


 片方は、として。

 もう片方は、として。


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