向井清純は都市伝説「牛の首」を語る


 向井はぶるぶるとふるえ、北の一点を凝視した。

 桜木も直観的にそれが「おそろしいもの」であることくらいは察しているようだが、まだはっきりと理解はしていない。


「む、向井にゃん、あれ……」


「黙れ、桜木。くそ、見たことも聞いたこともないようなバケモノが、ついに、ついに……現れやがった、ちきしょうが……っ」


 全身はわきあがる恐怖によって、痙攣的にふるえつづけている。

 一方で表情には歓喜に近いものも浮かび、二律背反を体現するようにふるえる唇で何度もつぶやいた。


 その話は……。

 その話は、あまりにも恐ろしく、聞いただけで身震いが止まらない。

 もし最後まで聞けば、三日と経たず死んでしまうという。だから、あまりにも恐ろしいその話を、いまではだれも知らない。

 伝わるのはただ「牛の首」という題名と、その話がとても恐ろしいということだけ。

 よって、くだんのごとし。


「え、向井にゃん、なに言って……」


「行きますよ、桜木。──最強だ、あいつを喰えば、まちがいなく、ぼくが最強になれる」


 ふるえる下半身を叱咤し、踊るような歩調で歩き出す。

 背後に桜木がついてきているか、もうそんなことはどうでもいい……。


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