桜木藍那は守られるべき美少女だと思う


 にゃあ、にゃあ。

 この鳴き声にしたがっていれば、まちがうことはない。


 桜木は人差し指を立て、にチッチッと合図を送る。

 足元から背中へ、そして肩へと、三毛猫が飛び上がる感覚。

 頬に柔らかい毛がこすれる、いつもの感触にほっこりする。


「あいニャン、シャルロットが守ってくれているから、とっても安心にゃん」


 ──シャルロットとは、いろんな経験をした。

 まわりからはよく「天然」と言われるが、じつは当人、お利口さんだと思っている。

 道に迷ったことはないし、なくした大切な指輪を見つけたり、行方不明の子どもを見つけたこともある。


 犯人はいつでも見つけることができたし、危険はいつでも回避できる。

 それはがいてくれるから。

 だからこの地獄みたいな村でも、シャルロットの言うことさえ聞いていれば、生き残れるに決まってるにゃ……。


 シャルロットが、すたっ、と地面に降りた。

 地面をひっかいて、なにかを掘り出そうとしている。

 桜木はうずくまり、シャルロットの肉球のさきを掘ってみる。

 ……矢じり。戦争でもあったにゃ?

 シャルロットの霊体は、赤い月光の下、ぺろぺろと前足を舐めている。


「……にゃるほど。もちろん、あいニャン気づいていたにゃん。この村には、


 にゃあ、とシャルロットが鋭く鳴いた。

 ──そう、ここは

 見まわせば、物陰には刃が隠され、地面には足元をすくう鉤、土を掘れば毒矢が出てきそうな勢い。

 そのへんに落ちている石ころを叩き割るだけで、鋭利な刃物に早変り。


 は、何百年もまえから用意されている。

 どこで敵に出会っても、殺しやすいように。

 あらゆる場所に罠が張り巡らされた、この皆殺しの村で、生き残るためには──。


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