出逢い

楓さんと出会ったのは、2年前の真夏。

俺が高校1年生の時だ。

この時は、まだ多くのことを受け入れられないでいた。

家のこと、体質のこと、妹のこと。


もういっそ消えてしまおうか。。。


そう思った時、目の前には踏切があった。

一歩、また一歩踏切に近づいている。

ただの帰り道なのに、今はなぜか違う景色に思える。

線路が視界の中心にあり、目が離せない。

自分が歩み進んでいるはずなのに、線路が近寄ってくる。

不思議と身体が軽くなる感覚。


「おい、少年よ。そこをどいてくれないか。仕事の邪魔なのでね。」


女性の声で、俺は我に返った。


「あ、すみません。。。」


「悪いと思っているのか?」


「あ、はい。すみません。」


「そうか。なら、そこまで言うのなら私の手伝いをして帳消しにしてやろう。」


「えっ。」


「どうせ暇だろ?」


「まあそうですけど。」


「なら、早く移動するぞ。」


「あ、はい。でも、ここで仕事してたのでは?」


「うるさい。早く付いてこい。」


「…はい。(どこに行って、何をやらされるんだろ。)」


目の前の女性についていくものの、特に目的地も告げられないままである。

ふらふらと、たまに「あっちにしようかな」とも聞こえてくる。


かれこれ20分近く歩いている。

さすがにこれ以上は、、、


「少年、あれを持ってきてくれないか。私は苦手でね。」

女性は、こちらを向いて、左手をすっと伸ばし、塀の上を指さしている。


無意識に指の指す方に目が行く。


、、、、、猫?

真っ黒な猫がそこにいる。

そこといっても、10メートルは離れた塀の上であるが。


「猫、、、、ですか?」


「そう。逃げるから頑張れ!ここから先は託した。」


「えっ。俺一人で?」


「そうだよ。人件費が勿体ないだろ。」


「人件費って?いや、あの。。。。」


「あ、そうそう。捕まえたら、ここまで連れてきてくれ。うちの事務所だから。」と女性はメモを差し出してきた。


あとこれとこれ使いな、と言って女性はそそくさと立ち去って行った。


「、、、、、、、、。全然話聞かないな、あの人。ここで逃げるのもあれだからやるけど。。。」


先ほど渡された武器は、リュック型のかごと、これは調味料かな、良くカップのラーメンについているような小さい袋が5つ。

かごは、捕まえたらここに入れるんだろうけど、この袋はなんだろう。どう使うんだ。


「とりあえず開けてみるか。」

小さい袋を開封してみる。

― ベリッ ―

「うわっ。」

勢いよく開けてしまい、中の粉がこぼれ、ズボンに付着してしまった。


本当にカップ麺の粉のようなものだ。

「なんだこれ。」

ますます謎が深まる。


― ンニャー ―

「ん?」

ふと気付くと、真っ白な猫が俺の足元にいた。

正確に言うと、ところどころ肌が見えているし、毛も泥などで汚れているので、真っ白ではないが。きっと野良の猫だろう。

その野良の白猫が、俺の脛の部分にしきりに顎を擦り付けている。


「どうした?」

俺は野良の白猫に話しかける。

「ンニャンニャ」と野良の白猫は顎擦りを繰り返す。


俺が腰を落とすと、なんと野良の白猫は喉をゴロゴロと鳴らしている。

機嫌は良さそうだ。


「もしかして、この粉の効果なのかな。」

袋に残っている粉をひと摘みし、野良の白猫の口元に近付ける。


― ペロペロ ―

野良の白猫は、『お前、本当に野良なのか。』と言わんばかりの様子で、俺の指、正確には粉の付いた指を夢中で舐めていた。


「なるほど。この粉でおびき寄せるということか。」


「ありがとな。」

ヒントを教えてくれた野良の白猫に、お礼の代わりに袋に残っていた粉をすべてプレゼントし、本命のターゲットに向けて一歩踏み出す。


数歩歩みを進めた後に振り返ると、

野良の白猫は、俺の足にもう興味はない。

完全に粉に夢中だ。


なぜか寂しい気持ちもありつつ、絶大な効果あるだろうことが分かりホッとした気持でもある。


俺はその後、

猫を追いかけ続け、

別の猫に引っかかれながら、

道路をいくつかまたぎ、

壁の上に手を伸ばそうとして排水溝に落ちたり、

と数々の試練を乗り越えながら(まあ乗り越えてはいないのだが)

広い公園に辿り着いていた。


気付けば標的はかごの中に。


「何とか捕まえた。。。」

「ぷふっ。」

俺は何でか笑いが込み上げてきた。

「こんなになって、なにやってるんだろな。」

見ず知らずの人に、良く分からない頼みごとをされて、馬鹿らしい感じもしたが、なぜか悪い気分はしなかった。


「あ、事務所に持って行かないと。」


「意外と家の近くだな。」

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